生物学的な真面目な話
突然、叔父であるキルから、シリルの愛をたっぷり受ければ、魔力はやがて消えると言われた。
意味が分からず、怪訝な顔つきになってしまう。
「はい……?」と尋ねると、キルはニコニコと説明する。
「これは俺なりに考えたことだ。魔力を持たない人間の女と交わり、始祖である魔王ルーキフェルは、魔力を持つ男児をえることができた。つまりはルーキフェルの子種に魔力が含まれていて、条件が合致する男という性の時にのみ、魔力が発現したのだと思う」
遺伝子のことなど知らないだろうが、キルのこの考察は正解だと思う。
「これを女で置き換えた場合。最初は卵子に魔力があるのかと思ったが、そうではないと気づいた。この世界は、残念だが魔力の持つ女の誕生は望んでいない。なぜなら魔族という種は、男のみというのが起源だからだ。よって女の魔力はどこにあるのかいうと……体液だろう。つまりは愛の蜜にあると考えた」
「お、叔父上、な、何を言いだしているのか!」
自分でも顔や耳、全身が熱く感じていた。
真面目に話していたと思ったら、いきなり下ネタをぶっこんできたのでは!?
しかも叔父のくせに、姪に対して、なんて話を……!
「オデット、落ち着け。深呼吸しろ。そして思い出してくれ。魔力を持つ女の魔族がいる。彼女は女魔王だったと人間にバレたら、どうなるか。人間の男と女魔王の間で、魔力を持つ子供が誕生するのか、実験台にされたかもしれない――そんな話をした。そこでオデットは、自身とシリルのことに置き換えて考え、心配になったのだろう? 魔力を持つ自分がシリルと結ばれたら、何が起きるのかと」
……。
………。
そうだった。
キルのことを、見た目がよくても、下ネタ好きの変態エロオヤジと思ったことを、心底申し訳なく思う。
本当に、ごめんなさい。
「叔父上、申し訳ないです。つい、取り乱してしまいました。普段、聞き慣れない言葉ばかりで、動揺しました……」
「いや、いいさ。悠然と聞いていたら、話している俺が赤くなっていただろう。……それで、オデット。君が心配している件を、気持ちを静めて解決していこう」
「お願いします……」
ぺこりと頭を下げる私に、キルの手がぽすっと触れる。
「大丈夫だ、オデット。魔族かつ王族という血筋は、俺と君だけになってしまった。どんなことでも頼ってくれればいい。妊娠や出産も任せてくれ」
「はい……?」
「いや、こほん。話を再開しよう」
こうしてキルが言うことをまとめると。女の魔族の魔力は、卵子ではなく、あ、あい……。……。……愛の蜜にあるので、魔力を受け継ぐ子供は生まれないだろうというのが、キルの見解だ。さらにその、み、蜜が、体から排出されれば、魔力が弱まる……というのだ。
あくまで生物学的に、かつ真面目な話として、キルはこう言った。
「シリルととっと結婚し、毎夜愛されれば、あっという間に魔力は弱まるはずだ。魔族の男も、見た目はこうやって若々しくいられるが。長く生きると、魔力無しの子供しか誕生しなくなる。よってこの理論は、間違っていない!」
「わ、分かりました。叔父上。……ですが、その……難しいと思う」
「難しい? なんだそれは にくいということか?」「叔父上っ!」
これは下ネタではなく、魔族の女性にとっての生物学的な話……であると頭で分かっていても、どうしてもキルを叱りつけたくなってしまう。
「叔父上も知っての通り、シリルと私の結婚は、政略結婚だ。シリルは真面目で誠実な人間。優しく、善性も強い。自身が魔王の娘である私と結婚すれば、魔族の残党たちの大義名分を失くすことができる。魔王の娘であるオデット王女の元へ集い、人間へ復讐をしよう――とは言えなくなると分かっているんだ。シリルと私の結婚は、平和の象徴。だからシリルは私と結婚するだけだ」
つまり魔力を失うほど、私がシリルに愛されるわけがない。
一度はあるだろう。初夜ぐらいは。
以降は没交渉に違いないと思った。
「これは政略結婚に過ぎない。君のことは愛するつもりはない――なんていう、ロマンス小説でよく見るようなセリフを、言われたのか、オデット?」
「ない。言われていない」
私が即否定すると、キルは肩をすくめ、こんなことを言う。
「聞いているぞ。仲睦まじく、シリルと二人、庭園で昼食をとったと。シリルは自身のパーティにいる女騎士以外と、昼食を二人でとったことがないと、聞いているぞ。しかも女騎士とのその昼食では、レアの牛肉をホースラデッシュをつけながら食べ、魔族への効果的な拷問方法について話していた……というのは誇張された噂だろうが、ともかく昼食中も任務の話しかしていない」
「なるほど。私との昼食で話したことは……叔父上とシアとペルの安否、セインの遺体の件とその遺体と対面するの」「待て、待て、オデット!」
キルに話しを遮られ、怪訝な面持ちでその顔を見る。
するとキルは私以上に怪訝そうな顔をしていた。
「今朝、プロポーズをされたのだろう、オデット? その後の昼食の席で、なんで俺のことを……まあ、俺のことを心配していたのか。それは……まあ、褒めてやろう。さすが俺の姪っ子だ」
そこで満更ではない顔になったが、すぐに表情を引き締める。
「予定調和のプロポーズだったわけではないのだろう? サプライズだったのだろう? だったら昼食は、恋の話で盛り上がるのではないのか!? 『突然、プロポーズされ、驚きました! いつから私のことを好きだったのですか!?』とか『実は私もシリル様のことをお慕いしていたので、嬉しかったです~』と顔を赤らめ、パンを頬張るのではないのか!? なんで遺体との対面の話なんかしているんだ!?」
「ですが叔父上、セインは私にとって大切な存在です!」
「おい、おい、オデット、誤解が生じる言い方はやめるんだ。それではまるで、セインが君にとっての最愛のように聞こえるぞ」
「!? そんなつもりで言ったつもりでは……」
キルは盛大にため息をつき、フォローしてくれる。
「セインが、オデットのブレーンだったのはよく分かる。だがあくまで部下だろう? これからオデットはシリルの妻になるんだ。セイン、セインとその名を迂闊に出すな。新婚期間によその男の名など聞きたくないぞ!」
そんな風に言われると黙り込むしかない。
だがセインは……大切な部下だ。私の右腕だった。
「シリルは私がセインの名を出しても気にしないと思う。そもそもそんなに器量が狭いわけではない。それにシリルと私は……」「政略結婚だから、関係ないといいたいのか、オデット?」
「そうだ」と頷くと、キルは天を仰ぐ。
「表面的に政略結婚と思われるだろうが、実は二人が愛し合っています、だから皆さん、争いはやめ、共に平和なりましょう……なのではないか? 少なくとも俺にはそう見えたぞ」
「そうなのか……!」
「そうだろう。無理矢理結婚させられた――なんて印象を持たれたら最悪だ。そう言った意味ではあのバルコニーでの抱擁。あれは本当に二人が好き合っていると分かり、良かったと思うぞ。あの時の気持ちはどこへやったんだ?」
そう言われてしまうと……。
だがそこで思い出す。
私と同じぐらい、シリルもドキドキしていた。確かにあのバルコニーで抱擁されている時に、シリルの鼓動は速かった。こんなに胸が高鳴っているということは、シリルは私のことを本当に好きなんだ――そう思ったはずなのに。
どうしてシリルは愛のない政略結婚を選んだと思うようになったのだろう……。
そこで思い浮かぶのは、悪役令嬢ヴィヴィアンヌだ。
そうか。彼女から私はこう言われていた。
――「シリルは本当は、あなたとなんて結婚したくないの。そんなことも分からないの? 彼はこの世界の平和のために、自身の結婚を犠牲にしたのよ。愛を諦めたのよ!」
さらに私自身も、この言葉を受け、こう考えてしまった。
――「シリルは優しい。国王陛下からの私との結婚をシリルが拒否すれば、いよいよ私の利用価値はなくなる。よって処刑するしかない――というのは明白。シリルは私が処刑されることを憐れみ、慈悲深い心で、国王陛下の提案を受け入れてくれたのだろう」
そこでキルにヴィヴィアンヌの件を話すと……。























































