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異世界行って神になる.  作者: トリニクだいすき
3/8

決闘,そして食事

「邪魔するぜ.」


野太い声が家全体に響き渡り,俺たちの視線は一斉に突如として家に入ってきた者に集中する.


それは小柄の,それでいて目つきの鋭い男だった.


村:「テンサ,戻ったのか.」


(テンサ….ああ,さっき話に出た副戦士長か….ちょっと乱暴そうな人だな.)


そんな俺の心の中を知ってか知らずか,テンサは俺を一瞥した後,村長へと視線を戻す.


テ:「ああ,運よく果物がたらふく実った木を見つけたんでな.いつもより早く食料を調達できたんだ.…って,んなこたどうでもよくてだな.」


頭を掻きながらそう言うと,テンサ俺の方に近づき,


テ:「あんたが自称神様か?」


と,尋ねてきた.


俺は(自称してないんだけどな….)と心の中で否定しつつ,立ち上がって対応する.


亜:「亜空です.よろしくお願いします.」


テンサは俺の対応に一瞬目を丸くしつつも,


テ:「…テンサだ.よろしく.」


とぶっきらぼうに応答した.


ユ:「テンサ,神様に対して無礼だぞ.敬語を使わんか.」


ユウカの厳しい指摘に,テンサは「はぁ…」と呆れて物が言えないという感じでため息をつく.


テ:「戦士長殿.そもそも,こいつが神様だって決めつけるのはちょっと軽率なんじゃないのか.村長が神様のお姿を見たのは何十年も前の話なんだろ?そんな昔のこと,鮮明に覚えてるはずがねぇ.村長の記憶違いって可能性もあるだろ.」


村:「なっ,なんじゃと…!?」


ユ:「…仮に,百歩譲ってトカゲ殿の記憶違いであったとしても,彼は私の目の前で力を使い,山亀に傷をつけ,追い払ったのだ.これが神様でなくて何だというのだ.」


テ:「それだって,疑わしいんだよ.本当にこいつが山亀を追い払ったってのか?」


ユ:「…私が嘘をついていると?」


テ:「いや,そういうことじゃねぇよ.俺は戦士長殿を信頼してる.戦士長殿が見たってんなら見たんだろうよ.だがな,山亀に傷をつけた力ってのがいったい何なのかは分かってねぇんだろ?それじゃあ,その力はこいつの力じゃなくて,別の何者かの力で,たまたまタイミング的にこいつが力を使ったように見えただけって可能性もあるんじゃねぇのか?」


(おお,言い方乱暴だけど俺が思ってたことと同じことを指摘してくれてる.そうだよな.俺の力とは限らないよな.)


と,俺は心の中で同調.


しかし,ユウカは違った.


ユ:「テンサ,貴様…神様を愚弄するのか…!!」


声こそ淡々と喋っているが,目は今にも人を殺しそうなほど鋭くなっている.


テ:「いんや,そういう訳じゃねぇよ.ただそういうことも考えられるんじゃないかってことだ.そこんところどうなんだよ亜空さん?」


「えっ!?えっと…」


(急に話ふるなよ.びっくりしたわ.…でもこれは正直に話す絶好のチャンスだ.)


俺は小さく深呼吸し,覚悟を決める.


「…あの時山亀に傷をつけたのが俺の力かどうかは正直分からない.」


淡々とそう話すと,テンサは満足そうに笑みを浮かべ,


テ:「ほらな.言った通りだ.こんな自称神様に山亀討伐なんて無理なんだよ.」


と,勝ち誇ったように断言する.


ユ:「いや,違う.」


しかし,ユウカも譲らない.


ユ:「亜空殿はこの下界に降りてきた衝撃で記憶障害を起こしている.亜空殿は無自覚に力を使ったのだ.」


ユウカは淡々とそう言い放った.


二人の間に一触即発の空気が流れる.


(…どうしようこの空気.誰かが仲裁しないと解決しないよな.かといってどうやって….)


テ:「…分かった.そこまで言うなら….」


俺が悶々としていると,ふいにテンサが口を開く.


テ:「亜空,俺と決闘しろ.俺に勝ったらお前が神様だと認め,山亀討伐も認めてやる.」


亜:「えっ,決闘…!?」


俺は急に吹っ掛けられた斜め上の申し出にあっけにとられる.


ユ:「テンサ,貴様…亜空様に決闘を申し込むとはどこまで身の程知らずなんだ…!!…いいだろう,それなら望み通りそうしてやる…!!亜空様,あなたの力をテンサに見せつけてやってください.」


亜:「えっ,いや…」


村:「そうじゃの.ワシも決闘で白黒つけるのが一番だと思う….」


村長はそう言うと「よっこらせ」と立ち上がる.


「よし,そうと決まれば,さっそく決闘の準備じゃ.亜空様,闘技場へ行きましょうか.」


亜:「あの…俺の意志…」


やる気満々で外へ出ようとする三人に対し,俺は必死に抗議の声を上げるも,動揺しすぎて全く声が出ない.


テ:「おい,どうした.亜空さんよ?怖気づいてんのか?もたもたしてねえで,さっさとついてこい.」


亜:「あのっ,…はい.」


日本人の悪い癖が出た.Noと言えない悪い癖だ.


本日,こうして俺は,テンサと決闘をすることになった.







◆







「テンサ殿はそちらの線で,亜空様はこちらの線で待機していてください.」


亜:「はい.」


この決闘の審判を務める筋肉質な女性─ゴウリの指示に従い,憂鬱な気持ちで待機する.


俺は闘技場に連れられ,今まさに決闘を始めようとしていた.まぁ,闘技場と言っても,コロシアムのような場所ではなく,細い溝を掘って枠代わりにした土俵のような場所ではあるが.


(やべぇ,本当に始まっちまうよ決闘.まじで嫌なんだけど.っていうか流れに弱すぎだろ俺!ちゃんと断れよ!…くそっ,ただでさえ戦ったことないってのに…)


土俵の外,俺たち二人の決闘を今か今かと心待ちにしている観客たちを確認する.その数,ざっと20人.恐らく,この村に住む村人のほとんどが集まっているのだろう.


(なんで,こんな大勢が見てる中で戦わなきゃいけないんだ!もう,緊張しすぎて吐き気がするんだけど!

「テンサと神様が決闘始めるぞ.見たいモノは闘技場へついてこい!」

なんて村長が大声で言わなきゃこんな事態にはならなかったのに.)


そんなふうに心の中で悪態をついていると,


「かみさまー,がんばれー.」「がんばれー.」「こんじょうみせろー.」


という無邪気な声援が聞こえてくる.


見ると,ハチをはじめとする子供たちが俺の応援をしてくれていた.


その応援を聞き,俺はちょっとホンワカな気持ちになる.


(全部で六人くらいか….あの子たちの為にも,頑張らないとな.…て,何乗り気で手ぇ振ってんだよ!)


俺は心の中で自分を叱責し,チラッと対戦相手を確認する.


対戦相手は俺とは対照的に肩を回しながらリラックスしているご様子だ.


(…改めて見るとマジで強そうだな.体つきごついし.ほんと嫌だなぁ,戦うの.…はぁ.…まぁでも仕方ないか.こうなったのはNoと言えなかった俺自身に責任があるしな.それに,これはこれでいい機会だ.俺が本当に特別な力を使えるのか確かめられるし,負けたら負けたで山亀討伐もチャラになるかもしれないしな.…まぁ,それどころじゃすまないかもだけど….)


「亜空様,こちらを….」


亜:「あ,はい.」


急に女性に話しかけられるや否や,一本の槍を渡される.その槍は,普通の槍とは違い,先端に刃はついておらず,代わりに獣の皮で覆われている.


亜:「これは…」


「決闘用の槍です.決闘ではこの槍を使用して戦ってもらいます.もちろん,亜空様の場合はそれに加えて,神通力を使ってもかまいません.というか神通力使ってください.」


(めちゃめちゃ念押してくるこの人.)


亜:「はい.分かりました.」


見ると,テンサの方も同じような槍を渡されている.


(なるほどな.決闘用だから先端が取ってあるのか.)


心の中で勝手に納得していると,審判ゴウリが武器渡し係が闘技場から出たのを確認して,大きく息を吸い,


「それではこれより,亜空様VSテンサ副戦士長の決闘を始めます!!」


村全体に響き渡る声で決闘の開会を宣言した.


ゴ:「この決闘の審判を務めさせていただくゴウリです.この決闘では,私が『始め』といったら,決闘を開始し,『一本』といったら決闘を終了してください.決闘での勝利条件は以下の四つ,①対戦相手を枠の外へ出す.②対戦相手に膝をつかせる.③対戦相手の頭または首に槍での攻撃を当てる④対戦相手の手から槍を落とさせる です.このどれか一つでも達成すれば勝利となります.何か質問はありますでしょうか?」


テ:「ない.」


亜:「…ありません.」


(うわー.いよいよ始まるー.いや,弱気になるなー俺.別に殺されるわけじゃないんだから.)


ゴ:「それでは決闘…」


(まずは…)


ゴ:「始め!!」


(先手必勝!!)


俺は目の前の敵に向かって手を伸ばす.

頭に浮かんだのは超能力者.掌から目に見えない力─波動を送り,空間を割るイメージ.


迷いのない俺の動きにテンサは瞬時に警戒し,ガードする.


(空間よ!割れろ!!)


ヒュー…


頭の中で力強くそう念じるとその念力に呼応するかのように一陣の風が吹き抜ける.そして,見る見るうちに空間にずれが生じ,テンサの槍が真っ二つに…なることはなかった.


テ:「…」


亜:「…」


音のない時間が流れる.


いくら待っても,何かが起こる気配すらない.


ただ普通に風が吹いただけだった.


(うん.やっぱ俺に特別な力はなかったと….)


テ:「‥‥おいっ.」


亜:「はい.」


テ:「ふざけてるのか…?」


亜:「…いえ.」


テ:「そうか,なら…」


テンサは警戒を解き,そして


テ:「…こちらからいく!」


─ブワッ


一瞬で距離を詰め,襲い掛かる.


ガンガンガンガンッ!!


怒涛の連撃…!!一突き一突きの重さにその気迫も相まって熊にタコ殴りされているかのような錯覚すら覚える.


亜:「ぐっ….」


(重い,速い,腕が痺れる…!これ以上受けきれない.)


ギリッ


テ:「きさまっ…!!」


ガッ,ガンッ


流れるような槍さばきで俺のガードを完全に崩し,正面をがら空きにする.


(ヤバい.ガードできない.)


シュッ


(首に….)


テンサの槍が真っすぐと一直線に,そして無慈悲に喉元めがけて迫ってくる.


もしかしたら,相手に殺意はなかったのかもしれない.しかしながらその突きは,その気迫は,蛇に睨まれた蛙の如く,俺に逃れようのない死を予感させた.


「待っ…」


反射的に制止しようと左手を上げようとしたそのときだった.


─ブウウンッ─


空間がゆがむ.


ガガッ,カンッカンッ


槍が折れ,地面に落ち,テンサの手から先の部分がきれいになくなる.


テ:「なっ….」


テンサはあまりに常識外れの出来事に,目を見開き,抉れた部分を凝視する.


(…はっ.今のうちに…!!)


俺は我に返るやいなや,右腕を振り下ろし,


テ:「!?」


亜:「隙あり!」


コンッ!!


見事,テンサの額に槍の側面をクリーンヒットさせた.が…


ガカッ,カラカラカラ…


額に当たった衝撃で,槍は俺の手からすっぽ抜け,後ろの方でむなしく転がるのだった….


亜:「…」


テ:「…」


ゴ:「一本!!勝者…亜空様!!」


「「うぉおおおおおおおおおお!!」」


(…閉まらねぇー.)


俺の内面とは裏腹に大歓声に包まれ,俺とテンサとの決闘は幕を閉じるのであった.







◆







村:「いやー,大変でしたのー.」


亜:「はい.…もうくたくたですよ.」


今俺は,重い脚を引きずりながら村長とユウカの三人で村長の家へと向かっている.


決闘に勝利した後,俺は瞬く間にその場にいた村人たちに取り囲まれ,村長が止めてくれるまでずっと質問の嵐にあっていた.興奮状態にある村人たちに次々と質問攻めを食らい,もう心も身体もへとへとである.


亜:「できれば,もっと早く止めてもらいたかったです.」


村:「ハッハッハ…,申し訳ありませぬ.ワシも年甲斐もなく興奮してしまって….」


ユ:「私が止めればよかったんですけど.みんながはしゃいでいるのを見てうれしくなっちゃって….申し訳ないです.」


亜:「『みんながはしゃいでるのを見て』って,そんなに珍しいことなんですか?」


ユ:「はい.山亀が現れてからは,笑うことも少なくなってましたから….」


(やべっ,そういやそうだったな.ノンデリかましちまった.)


亜:「すみません.余計なこと聞いちゃって.」


ユ:「いえっ,いいんですよ.…それに,亜空様が山亀を討伐してくだされば,またみんなに笑顔が戻ると思いますから.それまでの辛抱です.」


亜:「そう…ですね.」


俺は一気に暗い気持ちになる.


村:「しかし,これで,亜空様が神様であることが証明されましたな.テンサももう文句は言えないでしょう.…っと,着きましたぞ.ワシの家に.ささっ,中へ….」


亜:「あっ,はい.」


暗い気持ちの晴れぬまま,家の中へ入ろうとすると,突如フワッと香ばしい香りが鼻孔をくすぐる.


村:「おや?この匂いは…?」


「おせぇよ.とっくにできてんぞ.」


溌剌(はつらつ)とした声でそう言ったのは長身の男だった.


ユ:「悪いな.クロイ.」


村:「ありゃ,どうしてクロイがここに….」


ク:「ユウカに頼まれたんっすよ.」


ユ:「はい,亜空様が空腹のご様子でしたので,決闘の前にクロイに夕食を作るよう頼んでおいたのです.」


村:「ああ!すっかり忘れておった.亜空様.深くお詫び申し上げます.」


亜:「いいですよ,いいですよ.いきなりこんなことになったら誰だって忘れますし.」


(俺も忘れてたしな.)


村:「なんと,慈悲深いお方じゃ.お許し下さりありがとうございます.」


ク:「あなたが亜空様っすか.俺はクロイ.この村の料理長です.よろしく.」


亜:「亜空です.よろしくお願いします.」


ユ:「クロイ,料理長なんて肩書この村にはないだろうが.」


ク:「ユウカはあいっかわらず細けぇなぁ.実際俺がこの村で一番料理うまいんだからいいだろうが.」


ユ:「まったく….」


ク:「ちぇっ,亜空様,こんな分からず屋は置いといて,さっさと食事にしましょうよ.ささっ,こちらに座って…」


催促されるままに,俺は囲炉裏のそばに座る.囲炉裏には鍋がつるされており,その中ではグツグツとお粥(かゆ)が煮えたぎっている.


(うわー,見ただけでお腹すいてきた.ってかそれもそうだよな.よくよく考えてみると,丸一日何も食ってないんだから.)


ク:「ユウカはそっち,村長はそっちな.」


村:「おお,ワシらの分も作ってくれたのか.」


ク:「ええ,夕食にはちょっと早いっすけど,やっぱ一人で食べるよりみんなで食べる方がご飯はうまいっすからね.」


ユウカと村長が座りおえると同時に,クロイは茶碗にお粥を注ぎ始める


ク:「これが亜空様の分です.」


亜:「ありがとうございます.」


(熱っ….でもうまそー!)


お粥は出来立てホカホカで白い湯気が立っている.


ク:「これが村長の分,これがユウカの分…っと.これだけじゃないですよ.待っててください.」


それぞれにお粥を渡した後でそういうと,クロイは一旦奥へ行き,お盆を持って現れる,


お盆が近づいてくるにつれ,食欲をそそる香ばしい香りもだんだんと強くなってきた.


(この匂い.さっき家に入ったときに感じた匂いだ.なんだろう.)


俺は,まだ見ぬ食材へ期待を膨らませた.


ク:「…さて,お待たせしました.」


お盆から大皿と小皿が並べられる.


亜:「!?これは…」


俺はその中身を見た瞬間,俺の中でさっきまで膨らんでいた期待が一気に破裂した.


小皿の中身は良かった.桃や山芋で,どちらも俺の好きな食べ物だったからだ.問題なのは大皿だ.そこには見ただけで足の先から拒絶反応が出るモノが盛り付けられていた.


亜:「タガ…メ?」


ク:「はい.『タガメの素焼き』です.昼間にとれたばかりの新鮮な奴っすよ.」


村:「ほう,タガメとはいつぶりじゃ….良く取れたのう.」


ク:「ふもとの池で泳いでたんです.つっても,見つけたのはこの一匹だけですがね.ほんと,神様はついますねー.」


(いや,別についてねーだろ.)


村:「ほうっ,一匹だけ…,ということは.」


ク:「はい.さっしの通り,村長とユウカはイナゴです.」


村:「!?そうか.…まぁ,仕方ないのう.」


亜:「えっと,良ければ食べますか?」


村:「おおっ,お気遣いなさらないでください.ワシらは見るだけで満足ですから.」


ク:「そうですよ.亜空様.こんな老いぼれのことはほっといてさっさと食べちゃってください.」


ユ:「クロイ.流石に村長に老いぼれは言い過ぎです.」


ク:「おや,こりゃしっけい.」


「「アハハハハハハハ」」


みんなが笑う中,俺は一人表情を引きつらせていた.


(やべぇよ,マジやべぇよ.これ食わなきゃなんないの?)


ク:「?どうしました.ほらっ,亜空様.お箸を持って.遠慮なさらず食べてください.」


亜:「あっ,はい….」


(催促すんなよクソヤロウ!こんなそのまんまの状態で出されたら,いくら空腹でも食べられねぇよ!)


村:「…亜空様,もしやタガメを食べるのは初めてですかな?」


亜:「そうですね….初めて食べます….」


(おっ,村長察してくれた.もしかしたら,食べずに済むかも….)


ク:「へぇ,そりゃあいい!初タガメっすか!タガメはびっくりするほどうまっすよ.ささっ,冷めないうちに食べてください.」


亜:「…えっ,あっ,はい.」


(何なんだよお前は!お前のせいで食べなきゃなんない空気になっちゃったじゃん!嫌だよ.何でタガメ食わなきゃいけねえんだよ.てかよくよく考えたらこれ,異世界来て最初の食事じゃん.なんで異世界来て最初に食べるのがタガメなんだよ!おかしいだろ!)


ク:「ほら.早くしないと冷めちまいますよ?」


クロイが催促する.村長とユウカが優しい目で見守っている.分かってる.善意だ.みんなの善意がひしひしと伝わってくる.


(くそっ,やめろっ.そんなに言わないでくれ.そんな目で見ないでくれ.そんなことされたら俺…)


俺はゆっくりと箸を皿に盛りつけられた昆虫に近づけ,胴体を箸でつまむ.


(…食べないわけにはいかないじゃないか…!!)


亜:「…いただきます.」


俺は意を決し,タガメの黒ずんだ目が俺の目と合わないように気を付けながらゆっくりと口へと近づける.


(ああ,いやだ.やっぱり嫌だ!いっつもこうだ!この村に来てからいっつも俺は自分の意志を貫けない.周りの流れに合わせてしまう.だからこうなる.くそっ,くそっ…)


俺はわなわなと口を開けると,タガメの足が唇に引っかからないように注意を払いつつ,頭から口の中に入れ,犬歯を付ける.そして…


(くっそーーーーーー!!!!!)


バリッ!!…ボリッボリッボリッ…


ク:「おおっ,いい食いっぷり.どうです.味の方は…」


ボリボリボリボリボリ…


亜:「…」


弾力のある食感.フルーティーな香り.噛めば噛むほど海老のような旨味が口いっぱいに広がる.


ボリボリ…ゴクンッ


…これは,認めざる負えない.認めたくはないが,認めざるを得ない.誠に遺憾だが,認めざるを得ない.


亜:「…う.」


ク:「う?」


亜:「…うまい.」


ク:「でしょーっ!?いやー,気に入ってもらえてよかったっす.」


そういうと,クロイは「さてと,」と立ち上がる.


ク:「そんじゃ,亜空様の喜ぶ顔も見れたことだし,おれはここいらでお暇させてもらいます.他のみんなの食事も作らなきゃなんないっすからね.」


ユ:「ああ.またな.」


亜:「…ありがとうございました.」


ク:「いいってことよ.そんじゃ.楽しんで食べてください.」


亜:「はい.」


こうして,クロイは爽やかに立ち去り,引き続き,俺たちは食事を楽しむのであった.

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