ある休暇中の漁師の話
次の日、私は宣言通り人魚姫のもとへ訪れた。いつもより静かに漂う海がまるで、人魚姫が私の来訪を受け入れているかのように感じた。
「今日は一段と海が凪いでいる気がしますね」
『……そうかしら』
私は人魚姫の隣に慣れた様子で腰かける。もう何度もそうしていたように。
静かな時が流れる。昨日は人魚姫の不思議な力なんてものを考えていたが、今になって思えばこれは広大な海がワタシにかけた祝福のようなものなのだろうと思えてしかたがなかった。
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それから幾重もの日々を人魚姫の隣で過ごした。取り留めの無い会話を交わすこともあれば、太陽が海と手を繋ぐまで己の時間を過ごすこともあった。
そんなある日。今日も海は青く澄んでいた。まるで空と溶け合って境界線を失ってしまうかののうな景色だった。
『...海ってどうしてこんなにも色が変わるのかしらね……』
「…この世界の移り変わりを反射しているから...ですかね……」
人魚姫から海に関する話題が始めて出てきたことに、私は存外驚かなかった。なんとなく気付いていたのかもしれない。気のきく返答が思い付かず、気障な台詞を呟いた。…彼女が求めている答えがそんな当たり障りの無いことではないのだろうとわかっていながら。
「海は綺麗ですよね」
『そうね…海は綺麗よ』
どこか含みのある言い方をする人魚姫。
「この世界のものなんて大抵綺麗なんですよ。誰かにとってはね」
思わず言ってしまった。何故だか今日は上手く距離感が掴めない。
『どうして、そう思うの?』
「え?それは、私は漁師をしているんですけどね。まぁ同業のやつがたまに愚痴をこぼすんですよ。「海なんてどこが綺麗なんだってんだ!!悪魔のようなもんじゃねぇか」ってね。そいつの気持ちもわからなくはないんですけどね。」
『…海は悪魔だと思うの…?』
「まさか!海は私達に様々な利益をもたらしてくれる。まぁ漁業に身を置くものとしては、危険が隣り合わせなのもわかるんですけどね。」
『ふぅん』
「それに、何て言ったって海は綺麗でしょう。」
『…貴方はそう思うのね』
「人魚姫さんもそうでしょう?いつも海を見てらっしゃるじゃないですか」
『そう…なのかしらね』
私の言葉に驚いたように目を開いた人魚姫は物憂げな瞳で海をまた眺め始めた。海辺にはまた静寂が訪れた。人魚姫の瞳が景色を反射してきらきらと煌めいていた。人魚姫の見る景色もそのように映っているのだろうか。そうであることを願わずにいられなかった。
どれほどの時間が経っただろうか。人魚姫が目を細目て海を見ながら私に問いかけてきた。
『…私のこと、人魚姫って呼んでたのね。知らなかった。』
「あっそれは、へへ。あなたがそういったから」
『ふふふ、変な人ね。私に話しかけてきたときからずっと…』
「はは…」
海が漣を寄せていた。まるで人魚姫の微笑みに同調するように。




