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女神の翼




迷宮に行く探索者にとって季節は関係ない。

街の外で活動する探索者はこの時期は迷宮に潜るか休むらしい。

俺は毎日朝に迷宮に行き夕方帰ってくるを繰り返している。

これは探索者には珍しいらしい。

大体三十階層以降は一日行けば次の日は休むのが普通との事。

だが俺はしんどいとかつらいとかそんな事を感じた事はない。

なにせ自分の好きなように予定を組んで行動できる。

邪魔してくるゴミ上司はいない。

適当な時間に切り上げられる。

一日に得られる金は会社員やっていた時の月給を上回る、

最高じゃないか。

命の危険はあるがしっかりと安全を考えて行動するようにしているし、体調が少しでも悪い時は休みにしている。

可能な限りレベルを上げるように言われているので無理せず確実にやっている。

自分の都合で仕事を休める事の何と素晴らしい事か。

そんな風に人生を楽しんで明日も頑張ろうと眠りについた。

目を覚ますといつもの会議室。


「お久しぶりです。早速ですが緊急の依頼です」


三ヵ月ぶりくらいである。

久しぶりに見たローさんは笑っているのだが目が死んでいた。

この感じに憶えがある。

多分本当に急に来て、なおかつ対応しないと大惨事になるやつだ。

ローさんがグッと前に身を乗り出してきた。


「強力なレアアイテムは唯一無二。イベントアイテムは世界に一つ。絶対に二つあってはいけません。ましてや姉さんを呼び出し願いを叶えてもらう物など」


聖女に与えられる四つの力。

その力を限定的に使う事の出来る女神の名を冠する神器。

全て集めて聖女が祈れば女神が現れて願いを一つだけ叶えてくれるらしい。

『私は聖女じゃありません』でそれがあった。

逆ハーしてる聖女が逆ハーメンバーが患った死の呪いを治したいと願った。

呪いが強力でどうしようもないからと。

それで呪いが解けて俺のためにありがとうとかなっていた。

また同じ事になったらどうするだと思ったね。


「そんな事考えているわけありません。そのうち呪いを克服する魔法なんかを編み出すか、あるいは事件そのものを忘れてしまうかです」

「いやそんな馬鹿な事が」


あるわけないと続けようとして思ってしまった。

ありそうだと。

あれはあくまで小説だから後になる程初めの方を忘れてしまう事もあるかもしれない。

そうだそれを聞いていおきたいんだ。


「あの、『私は聖女じゃありまえせん』についてなんですが」

「その件に関してはお答え出来ません」

「しかし今回はカーナさんを呼び出す神器についてですし」

「それでも駄目です」


ローさんの表情がなくなった。

これは聞いてはいけないんだな。


「神器についてはカイさんもいくつか見た事があるでしょう」


ヒロ君が持っていたのは盾と笛で後は翼と冠。

その中に同じものが二つあると。


「そうです。カダルの迷宮に赴き女神の翼を破壊してください。あるいはもう一つの方の破壊でも構いません」


ああなるほど。

ずっと疑問だったのだが納得した。


「出来るだけ迅速にお願いします。どちらを取るかはお任せします」


目を覚ました俺は早速手紙を出した。

ローさんがああまで言うなら本当にまずいんだろう。

後は待つしかない。

瑠香とアイメルと一緒に迷宮に行って結晶を拾って戻って来る。

ただそれだけだが待つだけというのは心情的によろしくない。

結晶を換金して三分割するのだがアイメルがそんなにもらえないと言って来て一悶着あったがそれだけだった。

その日の夜、部屋で寝ようとしたところにノックの音がした。

やはり速い。


「どうぞ」

「失礼します」


ドアを開けたのは予想通りジンだった。

朝手紙を出した。

人が移動する転移陣はないが物を運ぶ転移陣はあるため手紙などはすぐに送られる。

だからその日の内にセカイエのジンに手紙が着くのは問題ない。

ジンを中に招いてテーブルを挟んで座ると早速切り出した。


「わざわざ済まないね」

「構いませんよ。ローからの依頼ですね」

「その通り」


今まで依頼をされたのは一回だけで他は仕事だ。

依頼は世界にまずい事が起きるのを防ぐもの。

今回はそれも緊急だった。


「ずっと気になってたんだ。どうやってそんなに速く移動出来るのかって」


何か特殊な魔道具でも持っているのかと思っていたが今回の事で謎が解けた。


「女神の翼。行った事のある場所なら転移出来るんだな」

「正解です」


ジンは左腕の付け根辺りにしている綺麗な腕輪を軽く触れて見せた。

ヒロ君が持っている女神の盾を同じ感じがした。


「話は簡単だ。そいつを壊さないと世界が滅ぶ。渡して欲しいが無理だろ」

「そうですね。こいつは絶対に必要です」

「なら場所を教えて欲しい。何処にあるんだ」

「カダルの迷宮ですね」

「それは知ってる。具体的に頼む」


カダルの迷宮の最深は確か七十階層。

そこでボスを倒せば終わりで攻略された迷宮だ。

攻略されたのはかなり昔でジンが最初に攻略したわけではない。

なら隠し部屋のような物がある事になる。

ジンは少し目をつむり何か考えるような顔をした。


「その辺りの事はあんまり思い出せないんですよ。前にも言ったように結構な記憶を落としてまして」


もしかしたらとは思っていた。

最悪瑠香に頼る事になるが瑠香が何も言ってこないのでおそらく問題はないはず。


「けど何となくは憶えています。七十階層のボスを倒して帰って来るための転移陣。それで極々稀に別の場所に跳ぶんです」

「ランダムか」

「多分かなり低い確率だと思いますよ。俺はあの迷宮で金稼ぎをしてたんで偶然引いたんだと思います」


昔やったゲームにもあったな。

低確率で隠しダンジョンに飛ばされる奴。

調子に乗って一番奥まで行ってボスに挑んであっさり全滅したものだ。

基本隠しダンジョンのボスは本編の奴よりも強い。


「あいにくボスがどんな奴だったかは覚えていません。今までその手の話を聞いた事が無いので誰も生きて帰って来てはいない。ただ」

「ただ、何だい」

「ヒロが行ってたんですよ。四十階層辺りに」


ヒロ君の目的は聖女より先に女神の名を持つ四つの神器を集める事。

全部あんな聖女に集められてクソしょうもない願いを叶えられてはたまらないと。

だからもしものために集めておきたいと。

ジンの話が過去形なのが気になった。


「けどヒロは今カキガハラにいます。あっちの聖女に翼で呼ばれたんです。学校の先輩だったと思います」


覚えてませんけど。

そう言って寂しそうに笑った。




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