リッシュの手紙
スリアーノで聞こえた話は勇者達の戦いとショップエチゴの社長を始め従業員などが大勢亡くなった事。
これはそう言う事なんだろう。
翌朝朝食を取っていると目の下に隈が出来たアイメルが戻って来た。
俺達はここから王都に戻るのだが達也君達は一度セカイエに移動してから王都に戻ることになった。
翼の輪での移動に達也君達を誘ったのだが意外な事に愛音が絶叫系が苦手だったためそうなってしまった。
王都に戻るまでアイメルは一言も話さずただジッと俯いていた。
もう移動のコツを掴んだので当日の夜に王都に戻ってこれた。
アイメルは教会へ行くとの事で分かれ、この世界に来てからずっと使っている宿で寝て朝瑠香と朝食をとっているとアイメルが真っ赤な目をして戻って来た。
「これをカイさんに」
アイメルから渡されたのは蝋で封をされた白い封筒。
封を切って中から取り出したのは俺への手紙だった。
これを手にしておられる時、私は女神様の元へ旅立っているでしょう。
カイさんには多大なるご迷惑をおかけいたしました。
ここに事の顛末を書いておきます。
どうか馬鹿な私の事を心の片隅にでも止めおきくだされば幸いです。
私は王都で生を受けました。
父は結婚を機に探索者を辞めて母と二人宿を営んでおりました。
宿はギルドと提携していましたのでそこそこ裕福な生活でした。
あの時までは。
私が六つの時です。
あの男が、ゴドー・ナナホシが表れました。
かつて父と共に迷宮にもぐっていた仲間でした。
年は三十半ばくらいでしょうか。
ゴドーは娘が血の病に伏せてしまった事を話しました。
血の病とは原因が分からない死の病です。
人から人へうつる事がないのがせめてもの救いですが治す方法は二つのみ。
一つは血の霊薬
これはとにかく材料が手に入らないため非常に高価で一億は下りません。
もう一つは神聖魔法女神ノ涙ですが当時使えるのは大司教様くらいでした。
だからゴドーは霊薬を求めたのですがそんな大金持っておらずあちこちから借りてそれでも足りずにとある大きな金貸しからお金を借りるために父に保証人になって欲しいと頼みに来たのです。
普通なら迷わず断るでしょうが父は人が良すぎた。
ともに戦い苦楽を共にした仲間で娘の事も知っていたので引き受けたのです。
ゴドーの娘は助かりました。
ですがそれは霊薬ではありません。
後から聞いたのですがゴドーは偶然にも薬を買いに行く途中で大司教様に会ったのです。
事情を聞かれた大司教様はゴドーの娘の病を癒されました。
正に奇跡です。
後はゴドーがお金を返せば全て丸く収まるはずでした。
なのにゴドーは姿を消しました。
莫大な借金を残して。
父はお金を返すため探索者に戻り母は一人で宿を切り盛りしなければならなくなり、幼い私はせめて邪魔にならないようにおとなしくしている事しか出来ませんでした。
父は無理をしていつも傷だらけになり、母も宿をやって行けなくなり手放しましたがそれでも借金を返すには至りませんでした。
そんなある時ギルドから使いの人が来ました。
父は迷宮の出口で倒れていた所を職員の方が見つけたとの事です。
その手には二つの魔道具を抱えて亡くなっていました。
父は命と引き換えにそれを持ち帰ったのです。
自分のために苦労している母と私のために。
ギルドにそのうち一つを買取ってもらってそれで借金は無くなりました。
ですがそれまでの苦労がたたったのでしょう。
母は父の後を追うように亡くなりました。
行く当てもなくさまよっていた私に手を差し伸べてくださったのがライラ様でした。
私は誓いました。
父を裏切ったあの男を必ず殺してやると。
地獄の果てまで追い詰めて八つ裂きにすると。
ゴドーの加護の事は父から聞いていましたが他人がどうなろうと関係ないと。
そんな私を危ぶんだ大司教様は私に強い暗示をかけられました。
仇はいるけど誰か分からないように。
憎しみを少し抑え今を生きるように。
何せ相手は自分の痛みや死を親しい人に肩代わりさせる加護を持っていました。
ショップエチゴのオーナーがゴドーだと分かった時にはもうどれくらいの人が代わりになるのか分からないくらいになっていましたから。
私の願いは二つでした。
売ってしまった魔道具は父の形見ですからそれを取り戻す事。
もう一つは両親の仇を討つ事ですがそれが誰かは分からないから知りたい。
ですから聖女になればどちらも叶う。
そう思ってずっと頑張っていました。
ですが教会を出てから貴方に出会い共に過ごしているうちにいつの頃からか仇の事を考える日も減っていました。
春ちゃんに仇の事を尋ねて答えて頂いた時、全てを思い出しました。
私は迷いました。
私の復讐と関係のない人を巻き込んでよいのか。
きっとその人にも家族友人はいる。
ずっと悩みました。
誰しも知っているショップエチゴ。
その資金は父をだまして持ち逃げしたお金です。
殺そうとすれば一体どれほどの人が代わりに死ぬことになるか分かりません。
でもどうしても私を愛してくれた父と母を奪った男が許せなかった。
私はあの男を殺します。
沢山の人が亡くなるでしょう。
そして私を恨むでしょう。
あの男を殺したら私は迷宮に行き終わります。
カイさん。
貴方と共にいた日々は大変な事もありましたがとても楽しかった。
どうかお元気で。
リッシュ・ナインスターク




