もう一つの戦い
スリアーノに着いたのもう日が暮れ始めた頃だった。
あちこちで嫌な話といい話が聞こえてくる。
宿をとるとアイメルは直ぐに教会へ向かった。
先に食事をして欲しいと言われたので瑠香と宿で勧められた場所はちょっと高いお店だった。
彼方此方で陽気な声が聞こえてくるがその殆どが勇者と聖女の話だ
この店のお勧めはハンバーグだったので迷わずそれを注文した。
過去の使徒の誰かが広めたんだろうが王都で食べた事なかったな。
他にも食べる物はいくらでもあったしおいしいと聞いた事なかった。
料理が来るのを待っていると急に喧騒がなくなり静かになり何事かと思えば皆入り口を見ていたのでそちらを見ると見知った顔がある。
あちらもこっちを見つけたらしく嬉しそうに近づいてきた。
「カイさんいつこちらに」
「もしかして昨日の戦いに参加してたの。言ってくれればよかったのに」
達也君と愛音だ。
サイアンのシーフラが火のアスの襲撃を受け、スリアーノは別の七魔人の襲撃を受ける。
ローさんの言っていた通りだ。
正面に座っていた瑠香は俺の隣に移り、代わりに達也君達は正面に座った。
「初めまして勇者様聖女様。私は星乃宮瑠香と申します」
「アタシは五十嵐愛音。愛音って呼んでね。あなた日本人なの」
「いいえ。私ははるか東の名もなき国より参りました」
「僕は須藤達也。達也でお願いします。僕達はこの街に北からゴーレムの集団が来ると言われて戦いに来ました」
七魔人配下との集団戦。
俺達は瑠香の隕石群でほとんど片付いた。
けどこっちはそうもいかなかったはず。
「ゴーレムの数と質から相手は金のアニマだと予想されまして実際そうでした」
「アイツら金属の球を飛ばしてくるんだよ。なんかこう銃みたいにさ」
七魔人。
月のジャンは過去で倒した。
火のアスは瑠香の仇で近いうちに倒される。
水は千年前風上さん達が倒せずに封印した。
木のヤンは愛音が配下の軍と戦った。
金のアニマは金属のゴーレムを操るのか。
ゴーレムと言えば黒の墓場とノリンの奴を思い出した。
何せ金属だから硬いし生き物じゃないから火責めが効かない。
それが大量に銃をぶっ放して来るとか悪夢だぞ。
だがそれをこうして話している以上片付けたと言う事だ。
その辺を聞こうとしたら隣の席に運ばれてきたハンバーグを見た愛音がおおっと声を上げた。
「この街の名物ね。アタシ達もそれを食べてから王都に戻るつもりなんだよ」
「僕はあいちゃんが作ってくれた方が食べたいんだけどせっかくだからって。すいません!僕達にもハンバーグください!」
達也君が注文の声を上げると給仕の女の子がビクッとして反応してすぐにお持ちしますと厨房に駆けて行ったと思ったら戻って来た。
「あ、あのよろしければ奥の部屋にご案内いたしますが」
「あっうん。なんかごめんね」
「い、いいえ聖女様!どうぞご案内いたします!」
そして俺達は店の奥にある個室に移動した。
確かに勇者に聖女が店に来たら驚くわ。
「ねえカイさん。リッシュはどうしたの」
「聞いてないのか」
「うん。何かあったの」
これは教会があえて話してないんだろうな。
聞いたら戦いに影響するかもしれないと。
確か二人ともまだ十六。
教会では日本の十六才など考えとかが甘いし撃たれ弱いと思って教えなかったんだろう。
「それは後にしよう。先にそっちの話を聞かせて欲しい」
「そう。まあいいけど」
不思議そうな顔で愛音が話し出した。
戦いが大した被害もでずにあっさり終わったのは愛音が強すぎたかららしい。
本気でレベル上げと魔法の練習をした聖女が全力で戦ったら勝った。
つまりそう言う事だ。
「まず瘴気を払ったわ。次に戦う人達に祝福ね。次に怪力加速防御矢反射自動回復。相手には足止め錆を掛け続けたの」
「あれは凄かったですよ。こっちは強化されて、向こうのゴーレムは動けなくなったんです」
本来なら個人用の魔法を女神の笛で全体にばらまいたのか。
それも愛音の魔力で使ったから効果も凄かったはず。
愛音が聖女として戦うためのスタイルがまさにそれ。
これが盾とか他の力だったらそうはいかなかっただろう。
「そこに向こうの攻撃が飛んで来たんだけどたっくんが剣を振るったら全部跳ね返ったんだよ!素敵!」
「あれは聖剣の力だから」
「それも含めてたっくんの力だよ!」
達也君が照れている。
本当に仲がいいなこの二人。
「聖剣の力ってのは何だい」
「えっと僕の聖剣グラスリードはあらゆる飛び道具を相手に跳ね返すんです」
「あらゆる飛び道具。まさか魔法も」
「そうです。飛んでくるものなら何でも放った相手に返します」
戦いはまず飛び道具から始まる。
殺す気で放った物がそのまま返されたらその時点負け。
これが聖剣の力。
魔王軍との戦いで猛威を振るったと言うのはこう言う事か。
「これが昨日の事です」
「それで一晩休んで今日はゆっくりして晩御飯を食べようって来たの。ナージャとソディナは二人で行って来いってね」
なるほど二人に気を使ったのか。
「アタシ達はこんな感じだよ。今度はそっちの話を聞かせて欲しいな」




