アイメルの二人の姉
行きは一人だったが帰りは三人。
問題は移動法。
俺だけ飛ぶわけにもいかないので馬車での移動になるかと思いきや。
瑠香から移動方法の提示を受けた、
馬車の荷台だけを用意してその上に椅子をくっつけてそこに俺が座り翼の輪に魔力を流すと荷台が浮かび上がる。
後は風の魔法を撃てば荷台ごと飛べると。
「揺れはどうだい」
「普通の馬車に比べればないような物です」
「そうか。けどしっかりとロープは結んでおいてくれ」
「もちろんです」
シートベルトの代わりにロープを結んでもらっている。
無いとは思うが事故は怖い。
営業をしていた時はとても嫌だったが車を使う事もあった。
大体は課長とか馬場野主任が一緒の時だ。
つまり運転手をやらされたのだ。
考えて欲しい。
大っ嫌いな奴と狭い車内で目的地まで一時間程一緒にいなければならない。
地獄だぞ。
電柱に助手席だけぶつけてこいつだけ死んでくれないかと思ったものだ。
流石に行きのように5日で到着とはいかなかったがそれでも十日程でスリアーノに着く。
途中で小さな村に立ち寄って食料を買ったりするが基本は野宿で食事は朝と夜の二回。
そんな旅も明日にはスリアーノに着くため野宿最後の日の夜だった。
晩飯は買いだめしていた魔法のパンと干し肉と何かの野菜を煮込んだスープである。
瑠香が作ってくれるのだがこれが結構悪くないどころかおいしいのだ。
焚火に照らされてパンをもそもそと頬張っているアイメルの姿は何処かリッシュに似ていて瑠香はパンを小さくちぎって食べていた。
特に話す事もなく静かな食事。
旅の間アイメルはずっと上の空と言った感じでぼんやりしている事が多く何か考え込んでいた。
食事の時は瑠香を見て何か言おうとしてやめ、また口を開いて何か言おうとしてまたやめるを何度も繰り返していた。
けどようやく口を開いた。
「あの、ルカ様」
「あいめる様。私は以前にそうだとお答えしました」
瑠香は焚火を見つめたまま何事もないかのように言った。
それを聞いたアイメルは膝を抱えて顔を俯けて動かなくなった。
空気が死んだんだが。
「私はシーフラで生を受けました」
アイメルがぽつぽつと話し出した。
シーフラと言えば俺達がいた街だ。
「私の家はパン屋さんでした。毎日パンを焼くいい香りがしていて私は両親が大好きでした。ですが私が五つの時、街は今回と同じように火のアスの配下の襲撃を受け父も母も亡くなり私も死を覚悟しました」
瑠香と同じような境遇だったのか。
いや国が滅びた事を考えれば規模が違ったのだろう。
だがそれなら火のアスはアイメルにとっても仇と言う事になる、
「その時助けてくださったのが偶然近くを通りかかっていたベール様率いる聖火隊の方達でした。瘴気で強くなっていた魔物をなぎ倒し街を救ってくださいました。しかしその戦いでベール様は目を悪くされライラ様は足が不自由になりました」
「それだよ。気になってたんだ。魔法で治らないのかってな」
ライラさんは別に足がなくなったわけではない。
なのに杖をついていたのが気になってたんだ。
「穢れのそばにいるとその影響で女神様のお力を受けにくくなっていきます。それが十年も戦い続けられた方達なら癒しの魔法の効果などほとんどありません」
文字通り命がけで人々のため穢れでおかしくなってしまった人達と戦い殺す部隊。
怪我を負っても治せない。
ああなるほど。
恐れられ敬われる。
「私はそのお姿に憧れました。家も家族も失った私は無理を言って連れて行ってもらいました。グラスの教会にはリッシュとカルラがいてそれからは三人で過ごすようになり私にとって二人は姉のような存在でした」
アイメルのすすり泣く声がする。
凄く嫌な予感がした。
「私にそんな事情があるようにリッシュとカルラにもそれぞれ事情がありました。あの日の夜カルラは私の部屋にやってきました。カルラの部屋は私の部屋の真上なのでたまにこっそり窓から出入りしてお菓子を食べておしゃべりしたりしていました。あの日も自分が眠っていた間に私やリッシュが何をしていたのか話を聞きたいと。お菓子を食べてお湯で薄めたお酒を飲みながら話しているうちに急に眠くなって、気が付いたら朝で全てが終わっていました。私は人の気配に敏感ですのでカルラが出て行こうとしたら目が覚めてそれと分かります。ですから私を眠らせるために薬を使ったんです。カルラの魔法では私を眠らせる事は出来ないから」
アイメルはカルラを止める機会があったのに止められなかった事をずっと悔やんでいたのか。
「リッシュにはご両親を死に追いやった相手がいました。でも相手は使徒様で自分の痛みを自分を知っている人誰かに肩代わりさせる力を持っていました。その力故に気づいた時には教会も手出し出来ませんでした。もし殺してしまえば代わりに誰かが死に、それでも殺せば一体どれだけの人が巻き込まれ命を落とすか分からなかったからです。ですからリッシュには大司教様が強い暗示をかけられていたんです。仇の事が分からないように。ですが」
日本からこっちに戻ってからリッシュの様子がおかしかった。
それならリッシュの仇の相手は。
「ショップエチゴ」
リッシュはあの店のオーナーに関して話さなかった。
いや話せなかったんだ。
どう考えても日本人の店なのにリッシュが詳しく知らないこと自体おかしかった。
「そうです。ショップエチゴのオーナーであるゴードン・セブンスター。本当の名はゴドー・ナナホシ」
「リッシュは相手の力を知っていたのか」
「はい。ですからこそ例え暗示がなくてもやりはしないと思っていました」
アイメルが泣きはらした目をして俺を見てまたグスグスと泣き出した。
瑠香はリッシュはリッシュは果たしたと言った。
「だがリッシュが仇を討ったとしてその後どうなったかは」
分からないと言いたかったが言えなかった。
相手を殺したら沢山の人が巻き込まれて死ぬ。
そうなったらリッシュは自分には関係ないとするだろうか。
いやそれはない。
全て分かってやったんだ。
ならばおとなしくやったと名乗って捕まるか。
それもない。
リッシュなら捕まると言う事は自分のやった事が悪い事だと認める事になると考えるだろう。
ならリッシュはその後きっと。
そうか、だからアイメルは。
「あの時、カイさんからリッシュの話を聞いた後直ぐにショップエチゴの関係者が亡くなっていないかを調べました。あの男の加護の発動には一定ラインがあって関係が深い人が対象になります。シーフラではショップエチゴの店長が亡くなっていました。私はただの偶然だと思いたいのです。でも、でも分かっているのです」
瑠香を見ると小さく頷いた。
「話を顔も名前も知らない沢山の誰かよりも両親を奪った相手への憎しみが勝ったんです。そしてカルラがそうしたようにリッシュも。どうして。どうして」
その夜、アイメルは眠るまでずっと泣いていた。




