復讐に全てを
屋敷を出た後俺達はアイメルと話すため教会に戻ったがアイメルがいない。
しばらく待っているとアイメルが青い顔をして戻って来た。
何かあったのかと尋ねるがアイメルは何でもないと首を振り教会と俺の状況を話してくれた。
教会としては俺だけではなく使徒の側には教会の人間を誰か置いて欲しいらしい。
これは使徒が無茶をしそうな時に止めたり、何かあった時にサポート出来るようにだ。
リッシュも言っていたが何せ使徒はアホが多いようで女神に仕える教会としては無駄に死んでほしくない。
もしくは力を持ったアホがアホをやって人に迷惑をかけて欲しくないと言う事だ。
そして今、俺の側にもうリッシュはいない。
「どうかリッシュの代わりに私がお供する事をお許しください」
アイメルが深く頭を下げた。
言いたい事は分かる。
教会はリッシュがいない以上他の誰かに側にいてもらいたい。
俺としても実際リッシュがいてくれなかったら色々と困っていたし。
けどそれは難しいんだ。
「アイメル。俺は普段王都で迷宮にもぐってること知ってるよな」
「当然です」
「なら俺が四十一階層辺りにいる事も知ってるだろ」
アイメルは達也君と迷宮にもぐっていたがまだ三十階層に到達していない。
だから俺と一緒に四十一階層に行く事は出来ない。
「それは分かっております。ですが、ですがどうか王都に戻られたなら三十日。三十日だけお待ち頂きたいのです」
「いや三十日でどうするんだ」
「なんとか致します」
「ならんだろ」
「致します」
アイメルの目がすわっていた。
これは何を言っても無駄だと思ったね。
ベールさんに話して無理をしないように言ってもらった方がいいな。
チラリと隣に目をやると、瑠香は小さく頷いた。
止めた方がいいらしい。
「それにルカ様とてカイ様について行くのは無理なのでは」
それは俺も気になっていた。
「私は英雄様の物でございます。英雄様が武具を持って行くように私も同じく持ち物として何処までも共に行きます。例えそれが地獄への片道であっても」
「物ですか」
「左様です。私の全ては英雄様の物故に転移さえも共に行けます。そうでなければあ奴に届かないのです」
「復讐のために全てを捧げると言うのですか」
「それが私の全てでありますので」
「では答えてください」
アイメルは瑠香の手をとり呪文を唱えた。
これは審判眼か。
「貴女は復讐を成した後、生きていますか」
「いいえ。私にそれ以後の未来などありません」
迷いなく瑠香は答えアイメルは青く光った。
自分の最後が死ぬと分かっていて、それでもやると瑠香は言い切った。
「どうして復讐を望む人は皆!」
アイメルが声を張り上げすぐにハッとした表情を浮かべ俯きそのまま俯いた。
アイメルとリッシュとカルラの三人は小さい頃かずっと一緒に育ったと聞いていた。
カルラは自分から未来を奪った相手に復讐を果たした。
大司教様やベールさんをはじめ沢山の人がカルラの事を大切に思っていた。
だが例え周りの人全てを悲しませてもカルラには譲れない物、許せない事があった。
それはきっと瑠香も同じなんだろう。
自分が死んでも絶対に許せないんだ。
それが自分が死んで自分を知っている人が悲しむ事が分かっていても。
「私の事を知った多くの人が言いました。復讐など辞めろと」
瑠香は大きくため息をついた。
「以前危ないところを助けた男女二人の探索者がおりました。二人は幼馴染で好き合っているのが見て取れました。何度か会う事があったのですが私の事を知ったらしく復讐などやめろ。そんな事をして何になるとしつこく言ってきました」
それは迷惑な話だ。
人の事情に口を挟むなと言いたい。
そいつらは平和に生きて来たんだろうな。
「私は何度も言いました。私の気持ちは私にしか分からない。やらなければ気が済まないのだと」
「それはそうだろ。復讐なんて何かのためじゃない、ただ自分が納得するためにやるんだから」
考えればわかる。
自分から大切な物を奪ったくせに相手は普通に生きている。
自分は苦しみ悲しんでいるのに奪った相手は笑っているなどそんな事が許せるわけがない。
「あまりにもしつこいので女の子の方を殺したんです。そしたら男の子の方は怒って言いましたよ。どうしてこんな事をと」
瑠香は小さく笑った。
「だから答えました。私の邪魔をしたからだと。すると怒って斬りかかって来ました」
「それはやりすぎだ。半殺しで十分だ」
自分の考えを押し付けてくるのがうっとうしいというのは分かるが俺ならギルドと教会に頼む。
多分それが一番手っ取り早いし何とかしてくれるだろうし。
「だから手足を折って這いつくばらせて言ってやったんです。復讐などやめろ。そんな事をして何になると」
最高の返しだがそんな事を言う相手が納得などしないだろう。
まず過去の自分の言動など忘れて激昂する。
「相手はまだ子供だったのでしょう。小さな村から出て来たような平和な世界で生きて来たような」
「年は十五と言っておりました。それに私の都合を考えない相手に向こうの都合を考える必要などありますまい」
「それはそうですが何も殺さなくても良かったはずです」
「ええ、何やら泣き叫んでうるさかったので幻術を解いて治療致しました」
「ああそう言う事か」
さすがに殺しはやらなかったか。
しかし相手をそこまでだます幻術とか聞いた事がなくつい隣に目をやってしまった。
いつもならそこにリッシュがいて解説してくれたから。
アイメルは何かと首を傾げた。
「故に私の最後は決まっておりますし変えるつもりもございません」
七魔人が攻めてくるのが五日後らしい。
そしてローさんの依頼は爆発を阻止して欲しいとの事。
時間がないと言っていたので急いで来たがまだ時間がある。
だが五日では何かをするには短いのでギルドを覗いたり迷宮に行ってみたりなどして過ごした。
そして五日後。
街の北側にはこの国の兵隊が集まっていた。
勇者が今日ここに七魔人の一人火のアスの下僕が攻めてくると国に訴えたからこその結果。
薄っすらと見えるのは群雲のような動物系の魔物だが狼が多い。
何よりも目を引くのは巨大な猪が二匹。
特撮映画に出て来るような大きさだ。
そいつら全てが紫色のオーラのような物を漂わせている。
あれが瘴気か。
アクションゲームをやった事があるなら分かるが下手な魔物よりも狼や熊などの方が手ごわい。
動きが速く爪や牙での攻撃は鋭く群れで襲って来る。
人型と違い低い位置にいるため攻撃しにくい。
俺もこの世界で狼にやられかけたし。
しかも魔物だから固い。
だからレベルが低かったり武器の扱いが拙いと鉄の剣でも貫けない。
本来なら魔物を相手にするなら国に属する兵隊よりも探索者の方が向いているがこの街には探索者が少ない。
この街にも迷宮はあるが最下層が十五階なので本気で稼ぐなら他の街へ行く。
国は今回の件に対して探索者ギルドに要請を出している。
戦ってくれればと提示した金額は悪い物ではないが何せ相手が七魔人の中でも数で押すと言われているらしい火のアス。
数は力だ。
ゲームのように一般の探索者が無双出来るわけはない。
どの国でもギルドに強制は出来ないが他の街にいる探索者も結構駆け付けているらしい。
この場にいる探索者はこの街に何か関りがあるんだろうな。
本来ならこれだけの人が集まって戦っても勝てなかった。
いや違うか。
火のアスが攻めてくる前に準備出来たのは瑠香がいたから。
ローさんの話に瑠香はいなかった。
だからこんなに人が集まらならなかったはず。
非常にややこしいが俺の役目はあくまで屋敷の爆発を防ぐ事。
そしてそんな俺が何故ここにいるかと言うとあの馬鹿デカイ猪のためである。
奴こそが屋敷自爆の元凶らしいので念のためにやる必要がある。
敵の軍が大分近づいて来た時だ。
先頭に立っていたクロが振り返り剣を掲げて大きな声を上げた。
「聞け!これより月の魔女が残した大魔法を放つ!その後残りの魔物を倒すのだ!この街を守る者達よ勇気を示せ!」
あのグズグズ泣いてた姿からは想像も出来ないほど青く輝く聖剣を掲げ皆を鼓舞するその姿は正しく勇者だった。
その横には教会の服を着た女の子がいるので多分話にあったナナリーさんだ。
教会も戦える人が参加はしているが基本的に少ない。
この世界の教会は戦いのための力をあまり持っていない。
例外が守護者と聖火隊であり、聖火隊は魔王軍との戦いには基本的に出てこない。
そして俺の隣には瑠香と少しやつれいているアイメルがいる。
「では行きます」
瑠香が目を閉じて手を掲げた。
「天より来たれ破壊の力よ。隕石群」
ネックレスの宝石の1つが目を焼くような強い赤い輝きを放つと空が暗く曇った次の瞬間には雲を割いて風を切る音と共に火に包まれた岩が無数に降りそそぐ。
「こっこれが月の魔女様のお力ですか」
あわわと悲鳴を上げながらアイメルが驚いていた。
あちこちで着弾の轟音と魔物の断末魔が響き渡る。
いや俺もここまでとは思わなかったよ。
着弾した隕石は爆発と共に辺りを溶岩に変え魔物を容赦なく吹き飛ばし燃やし、隕石の雨が終わった時にはもう動くものはほとんどいなかった。
さすがにデカイ猪は健在だったが。
「行くぞ!私に続け!」
クロが勢いよく駆け出し兵士達も雄たけびを上げて続く。
映画のワンシーンのようだ。
「あちらはクロに任せて我々は西の方へ参りましょう。一匹は向きを変えて向かってきます故」
正直に言うと最高ランクと呼ばれるとは言え一人の魔法使いが使う魔法だとなめてた。
良く考えれば方向性が違うとはいえ風上さんの使った魔法もとんでもなかったな。
失われた魔法と言うからにはてっきり使うために必要な素養が高すぎるために残らなかったのかと思ったが危険すぎて伝えなかったパターンもある。
結局俺達が西で待っていると傷だらけの猪がフラフラと走って来たので倒して終了である。




