魔女の残した物
月の魔女こと風上月子さん。
俺が知らないだけで彼女は初代勇者の仲間として伝説になっている。
問題は彼女の住んでいた屋敷だ。
ローさんは俺なら普通に入れると言っていたので正面の門の結界に手を触れるとゆっくりと門が開いた。
庭は荒れ果て草木が生い茂っている。
屋敷の扉に手をかけるとこちらも鈍い音を立てて開いた。
本当に風上さんが死んで千年誰も入っていないらしい。
「光よ」
瑠香が明かりの魔法を上に向けて放り投げるとそれは天井付近で止まり光が辺りを照らした。
それはもう酷い物だった。
色んな物が所狭しと置かれ足の踏み場もない。
厨房に行き奥の食器棚を開いて皿の下に隠されている魔法陣に魔力を送ると棚が横にスライドして下への階段が出て来た。
風上さんが最後に残した物を隠した隠し部屋。
ローさんからここまでは聞いていた。
あの人が絶対に誰にも見つかって欲しくない物を残した。
俺も明かりの魔法を手に浮かべ思ったよりも長い階段を下りると広めの部屋に出た。
そこで目に飛び込んできたのは大きな中身の見えるカプセル。
うっすらと光を放っているそれの中には女の子が眠っていた。
年の頃は十五、六くらいで恐ろしく整った顔立ちで風上さんに似ていた。
「人によって作られた人ですね」
「この子が問題でな」
この屋敷は悪意のある者が入ってきたらこの子を誰にも渡さないために盛大に自爆するのである。
風上さんはこの子を完成させる前に亡くなってしまった。
ならどうするかと言うと消してしまうくらいしか思いつかなかった。
自爆装置も全てを。
だが瑠香がそれを止めた。
「お待ちください。手を出してはなりません。攻撃するとこの部屋の反撃で英雄様は死にます故」
「自動で反撃するのかこれ」
それでアイメルが俺を庇って死んでしまうと。
そうか攻撃が当たるか当たらない以前の話で魔法を使うと部屋自体が自動反撃するのか。
なんて物を残したんだあの人。
カプセルの横には何やら埃のかぶったパネルがありそれもうっすらと光を放っている。
パソコンのキーボードのようにアルファベットが並んでいるからこれパスワード入力したら動き出すやつだろうか。
だが十四桁要求されているので適当では絶対無理だしローさんも教えてくれなかった。
その横には何かの装置。
「これのパスワード知ってるか」
だが瑠香なら知っているだろう。
「存じておりますが、それは触らない方が良いかと」
「ならどうすればいい。いっその事屋敷ごと消してしまうか」
ローさんから聞いた自爆の威力が大きすぎるんだ。
この街が跡形もなく消し飛ぶくらいだから。
俺の計画ではこの場でこの子を消してしまう予定だったが、それが出来ないとなれば屋敷の外から消すしかない。
つまり向こうから弾丸が飛んできても俺の撃った大砲に弾かれて俺には届かない。
最大範囲の理力収束弾なら屋敷の半分くらい消せる。
「いいえ、その必要はございません。その未来は回避出来ます」
瑠香はそう言うと近くの机の上に置かれていた物を手に取った。
それは何か不思議な感じがするネックレスだった。
大きな色の違う七つの宝石がついていてその一つ一つに物凄い魔力を感じた。
どんな力があるか分からないはずだが瑠香はそれを迷わず首から下げた。
「これは月の魔女が残した最後の魔道具。魔女の使った魔法を無条件に七回使う事が出来ます。これこそが火のあすを倒す切り札でございます」
「風上さんの魔法か」
直接使うのを見た遺失魔法は呪言強制と虹色魔法障壁だがリッシュは同レベルに隕石群があると言ってたな。
多分他にも強力な魔法があるんだろうが七回か。
いや瑠香がやれると言うからには多分詰将棋みたいにやれるんだろう。
「この屋敷が爆発する未来は五日後の戦いで敗れた結果でございます。火のあすの下僕が屋敷の結界を破ろうと攻撃致します。千年の時を経て結界も弱まっておりますので結果そうなります」
「戦いに負けるのか」
「左様でございます。この国の兵は全滅しクロも重傷を負いながら聖剣を振るい戦い散ります。あの子は私がどんなに言っても逃げないのです。ですがこの魔道具があればその未来を覆す事が出来ます。そしてこの子の問題は火のあすを殺せば片付きますので今は引きましょう」
瑠香は大体の未来を知っているし仇を討つために行動している。
そのために俺と一緒に行動したいと言ったんだ。
それに嘘は無かった。
だから気が付かなかったんだ。
この世界に来てずっとリッシュが側にいたから人が嘘を言う事に対して甘くなっていた。
この時瑠香は嘘をついた。




