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全てを見通す



瑠香の隣には顔を布で隠したシスターが手をつないで座っている。

今までずっと青く光っていたので嘘は言っていないらしい。

しかし困った。

自分の姉を殺した相手に復讐したい。

別にそれが悪い事だとは思わない。

ただ俺には何の関係もないわけで。


「分かっております。英雄様がお断りされる事も」


そもそも俺の未来が見える事自体驚きなんだが。

そういった事は通用しないはず。

なら何かからくりがある。


「英雄様はこう思われたはず。自分の未来が見えるはずないと」

「その通り。女神様の加護で絶対に見えないはずだ」


絶対だと断言出来る。

そう絶対だ。

絶対。

投資の営業で使ってはならい言葉の一つ。

アレは俺が会社に入って二年目の事だ。

俺のいた営業一課には課長代理と言う役職がありそこに柳さんと言う四十くらいの人がいた。

同い年くらいでも馬場野主任とは比較にならない程のビシッとした人で人当たりも良いまともな人だった。

そんな柳さんに毎日ひっきりなしにで電話がかかって来ていた。

内容は良く分からないが大丈夫とか落ち着いてなど言っていた。

そんなある日。

電話中の柳さんの胸倉を課長がつかんで怒鳴ったんだ。


「お前、ざけんなよ!」

「ちょっと待ってください。今電話中で」

「切れ!ちょっと来い!」


そして会議室へ。

何事かと思ったね。

支店長の方を見ると我関せずとパソコンを見ていた。

本当に役に立たねえな。

次に隣にいた浅野さんに何か知っているのかと尋ねてみると渋い顔をしていた。

つまり知ってるのだ。


「あの人な元本保証したんや。八百万」

「マジですか。それであんなに電話が」


投資の営業で元本を保証するとか絶対にやってはならない。

つまり八百万円を投資して損が出てもそれは保証して返すと言った事になる。

投資は損するかもしれないからやらない人が多い。

だが元本保証となればやろうと人も出て来る。

実際にそんな事が出来るかは別だが。

勝てば問題ないが負けたらえらい事になる。

つまりそのえらい事になってるんだ。


「それで何をいくらほど突っ込んだんですか」

「ガソリン売り一点張り」

「それは終わったのでは」

「そうや。終わった」


つまり柳さんはガソリン価格が下がれば下がる程利益が出るようにしたのだ。

だがこの時ガソリン価格大暴騰。

連日ストップ高。

ストップとは一日にこれ以上値段を動かしてはいけないと法で決められている値段の事だ。

つまり毎日その上限に行っている。

皆が皆値段が上がるから買い注文を入れているわけだ。

注文は売りと買いの両方の注文がでてはじめて成立する。

そして柳さんが取引を終了するためには買い注文が入らなければならない

だが買い注文を入れるためには誰かが売り注文を出さなければならないが、こんな状態で売り注文する人など少ない。

そんな状況だから柳さんは注文が入らず取引を終わらす事が出来ない。

取引を終わる事が出来なければどうなるかと言うとマイナスになる。

当然資金の八百万などとっくに無くなって借金状態。

ストップ高が終わらない限り借金が膨らみ続ける。

一体いくらまで行くんだろうかと毎日ワクワクして見ていた。

最近柳さんの顔色悪いから客が大損したのかと思っていたがそんな甘い話ではなかったのか。


「お前先々週の会議中に柳さんがどっかに電話してたの覚えてるか」

「ああ、課長が騙してでもいいから契約取ってこいとか言って突き上げされた柳さんがその場で電話して取りましたって言ってましたね。アレですか」

「多分アレや」


騙してでも良いから新規取ってこいとか、いざとなったらケツもったるとか言っておいてやったらホンマにやるなってやつだ

当たり前だが課長の言う事など真に受けてはいけない。


「先々週の最安値がコレで今日の値段がコレ。と言う事は」

「そうやな多分ホンマに最低でも一千五百は足が出てる」


今でそれだからいくらまで行くのか想像出来ない。

ストップ高がはずれたのはそれから三日後。

そして柳さんは元本保証というやってはいけない事をやったので実質クビとなった。

当然保証したからには金を返さなければならないので借金がいくらになったのかは知らないが人生終わったのは間違いない。

そんな柳さんが最後に荷物まとめて会社を出ようとした時に信じられない事が起きた。


「柳お前麻雀の負け分払っていけ」


課長の言葉に皆が固まった。

こいつ本気か。

莫大な借金抱えて会社クビになった人に言うか。

柳さんは死んだ顔で三万払って出て行き課長は嬉しそうに出て行った柳さんを馬鹿にした。


「アホやなあいつ。お前らも絶対とか絶対に言うなよ」


こいつ。

こいつ本当に。


「あああああ!あのクソ課長がああああ!お前の部下だろうが!腰巾着の馬場野は優遇する癖に!借金抱えて路頭に迷う事になる人から金巻き上げるとかお前人間か!逆に少し渡すだろ普通!ありえムムグッ」


何かが口に入って来て頭がスッキリした。

目の前には瑠香の顔。

呆然としていると瑠香が離れて少し赤くなった顔で唇をなでいる。

まさか口移し。


「りっしゅ様は丸薬を口に放り込み水の入った革袋を含ませて鼻と口を手で塞いでおりました」


何か飲んでる気がしてたけどそんなやり方だったのか。

乱暴だが正気に戻るなら十分だ。

リッシュの助けが無かったら一日経ってたし。


「私は水薬を用意しておりますので」


本当に必要な未来を全部見たらしい。



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