あれがああなってこれがこうなる
「貴方様の側を離れる事をお許しください」
しばらくリッシュが何を言っているのか考えた。
何かしただろうか。
俺に心当たりがなくても年頃の娘さんに何かやったのかもしれない。
「俺な君に何かしてしまっただろうか」
「いいえ。カイさんにはとてもお世話になっております。そして勝手な事は分かっております。ですがどうしてもやりたい事があるのです」
以前リッシュはやりたい事が二つあると言っていた。
一つは欲しい魔道具があるのでそれを手にしたいと。
そしてもう一つは聞いていない。
つまりそれが出来るようになったと。
これはもしかして春ちゃんに聞いたのだろうか。
「私から貴方様に無理を言ってお供させて頂いておきながら勝手な事を申しております。ですがどうしてもやらねばならないのです」
リッシュが跪いて深々と頭を下げた。
初めて出会った時もリッシュはこうして俺に頭を下げた。
寂しくなるがやりたい事があるのならやるべきだと思う。
去る者は追わずが俺の信条だ。
ただそれが何か最後まで教えてくれなかったのが少し寂しい。
リッシュはジッとうつむいたまま俺が答えるのを待っている。
「分かった。今までありがとう。君の願いが叶う事を祈っているよ」
「お心遣い感謝致します」
俺の答えが意外だったのかあるいは俺ならそう答えると思っていたのか分からない。
リッシュは立ち上がり一礼して部屋を出て行った。
何故かもう二度と会う事はないと確信めいた何かがあった。
だがそれでも止める気にはならなかった。
酷く疲れてもう何もする気が起きずベッドで横になるとすぐに意識が落ちた。
するといつもの会議室。
目の前には何やら複雑そうな顔をしたローさん。
「えっと、その、大変言いにくいのですがお仕事です」
ある程度分かってはいたが何処から何処まで見てるんだろう。
おはようからお休みまで見ているわけではないだろうけど。
さっきリッシュと別れた事は知っているんだろうけど気を使われとこっちが困る。
別に特別な理由で分かれたわけじゃないし。
「すみません。覗くつもりはなかったんです」
「いえ別に気にされるほどの事ではありませんし」
ローさんはしばらくジッと俺を見て小さく頷いた。
納得したらしい。
「では改めてお仕事です。この国の西にサイアンと名の国があり、その東の街にはツキコさんが建てた屋敷があります。彼女は魔道具を色々作っては壊し作っては壊し、気に入った物が出来るまでひたすら没頭し、いつしか屋敷から出る事無く生涯を終えました。屋敷には結界が張られ誰も入れないまま千年が経ちました」
あの人引きこもったのか。
女主人公なんだから恋愛はどうした。
あれだけの美貌があれば男なんか好き放題できただろうに。
夢の中での地獄の教師生活を脱して晴れて自由になって好き勝手生きたと思ってたんだが。
いや逆か。
あれのせいで人付き合いが嫌になったのか。
なんというか気の毒だ。
「そこを魔王軍七魔人の1人火のアスの配下が攻めてきます。本来ならサイアンの勇者達と黒騎士のアンセムさんが力を合わせて多大な犠牲と引き換えに何とか乗り切るはずでした」
「しかしアンセムさんは」
「はい。亡くなりました」
「そうですね。と言う事は」
大惨事だな。
だが勇者とはどういう事だ。
達也君が向かうのか。
「いいえ。サイアンでは国がふさわしいと認めた者に勇者の称号を与えます。姉さんに力を与えれた勇者のように特別な力があるわけではありませんが、人々にそう呼ばれるだけの力を持っています。今の勇者クローシュさんは聖剣を持っていますし」
「聖剣ですか」
「ちょっと特殊ですけどね」
ヒロ君が片方だけだが持っていたな。
本来の凄い力を出せるわけではないがゴーレムも性獣もスパッと斬っていた。
何でも斬れると言っていたがそれだけでも凄いと思う。
後は使い手のレベルと技術か。
いや聖剣には固有の力があるはず。
「聖剣の力についてはお話し出来ません。アンセムさんの生きている世界ではセイナさんに無礼をはたらいたグラスの第一王子は継承権をはく奪されて王命でサイアンの第二王女の婚約者として彼女の元で過ごす事になりました。そこに魔王軍が攻めてきます。ここまでは同じですがそれを知ったセイナさんが助けに向かいます」
「聖女一人でなんとかなるんですか」
自分は聖女じゃないとか言ってイケメン侍らせてニヤニヤしてるイメージしかないんだが。
女神の盾を持っているが愛音のようにレベルや魔法の熟練を上げていると言う話も聞いた事もない。
そんなのが一人行った所で何が変わるのだろうか。
「問題は相手が瘴気で強化されている事です。相手は軍ですがそれ程高いレベルの魔物はいません。聖女が瘴気を浄化してしまえば勇者もいるのでサイアン側が勝ちます」
「なら何も問題ないのでは」
勇者がどれほどか知らないが国が認める程だし聖剣もある。
そこではて、と気づいた。
「あの、現実的に自分を襲った男を助けに行くとは思えないんですが」
普通は助けない。
都合のいい漫画や小説じゃあるまいし。
いや待て、もしかして聖女の女神の盾を封じなければ王子に襲われたりしなかったのだろうか。
本来なら助けに行ったのだろうか。
いやそれならそもそも継承権を剥奪されたりしないから王子がサイアンに行っていないから聖女も行かない。
ローさんが大きく頷いた。
「その通りですが少々違います。女神の盾を封じない本来の未来ではセイナさんは同じ人に一服盛られます。そして後は同じなんです」
「つまり結局色ボケトカゲが城を襲撃して王子はサイアンの婚約者の所に送られると。では本来の未来でも聖女はサイアンに行かないのでは」
「いいえ。アンセムさんに出会ったセイナさんがその事を知り行くはずだったんですよ」
ローさんは涙声だった。
つまり知らないから行かないと。
だが知った所で行くだろうか。
自分を襲った奴を助けようとは思わないだろう。
「時の雫憶えていますね」
「ええガチャの雫ですね」
「それでセイナさんは主人公に戻りまして、王子の状況を知り一発殴らないと気が済まないとカルナガルナに乗ってサイアンに行き魔王軍を薙ぎ払います」
つまり別の世界線であの確率を引き当てたと。
それはどっちだ。
普通に考えれば黒い方か。
だが数を用意するためにノリンにどれだけの被害が出続けたんだろうか。
ずっと迷宮は封鎖され、仮に探索者があそこまで行ったとしてやめろと言ってあの色ボケトカゲがやめるとは思えないし邪魔するなら殺すだろう。
「そして今セイナさんはサイアンに行っていません。そしてセイナさんが行った後スリアーノが同じ七魔人の配下達に襲われます」
聖女が王子を助けるためによその国に行っている間に自分達の国が被害を受けたら恨まれると思う。
聖女がいてくれたらと。
いや違うか。
自分は聖女じゃありませんとか言ってるし勝手に聖女だからと頼られても困るとか言いそうだし何より今の聖女がいたところで役に立つのだろうか。
いや、そっちの聖女はともかく今は愛音がいるから大丈夫かもしれないがサイアンの方はまずいのではなかろうか。
「それ、大丈夫なんですか」
ローさんが頭痛をこらえるような顔をした。
それだけでもう察した。
「とにかく今回は時間がありません。このままではツキコさんの屋敷が爆発して街が消し飛びます。魔王の軍はおろかサイアンの人々もまとめて。ですから移動手段を用意しますのでお願いします。まさかこんな事になるとは」
ローさんの深い深いため息がこだました。
あれがああなってこれがこうなって結果こうなる。
最悪だ。




