復讐の責任
セカイエでヒロ君達に別れを告げて歩いて帰る事十二日。
到着したのはもう夜だったのでいつもの宿でゆっくり休むといつもの時間に目を覚ました。
今日はどうしようかと考えながら一階に降りるとリッシュと前に大聖堂で会ったキャリさんが待っていた。
「カイさん。私はこれから教会に行ってまいります。申し訳ありませんが今日は迷宮には」
「何があったんだ」
リッシュがびくっと体を震わせた。
昨夜ライラさんとジェードの事は明日詳しく教会に報告すると言っていた。
だがキャリさんがいるなら多分別問題。
「リッシュ。カイ様も無関係ではないでしょう。それどころかカイ様のおかげでもあったで聞いてるわよ」
「キャリさんそれは」
「貴女何かあったの。ライラ様の事だけじゃないわね。少しおかしいわよ」
確かにどうもこの世界に帰って来てからリッシュの様子がおかしい。
何か考え込むような事が増えた。
春ちゃんに何を聞いたんだろうか。
キャリさんは俺の前で深く頭を下げた。
「カイ様。カルラにお会いになったと聞いております」
「確かにこの前会いました」
リッシュが春ちゃんに怪我を治す方法を教えてもらった聖女候補。
片腕を失い、ずっと目を覚まさなかったが愛音のおかげで目を覚ました。
キャリさんは周囲を見回して声を落とした。
「カルラは女神様の元へ旅立ちました」
リッシュは黙って俯いている。
それはつまり死んだと言う事か。
「どうして」
怪我が良くなかったのだろうか。
いや愛音が魔法で治療したから何かあったんだろう。
まさか。
「詳しくはベール様に。申し訳ありませんが教会までご一緒頂けますか」
「構わない」
込み入った話なんだろう。
教会へ向かう途中リッシュは一言も話さなかった。
教会に着いて前と同じように裏から入ると俺に気づいたシスター達はスッと道を開けた。
以前跪くのは辞めて欲しいと言ったのが通じていた。
そのまま一階の食堂に着くと奥にベールさんが待っていた。
「ベール様。カイ様をお連れ致しました」
俺達が近づくと立ち上がり頭を下げた。
その様は酷く疲れているようだった。
「お待ちしておりました。カルラの件お話いたします」
ベールさんはゆっくりと語りだした。
十日前カルラがターゲットヤード侯爵の屋敷に乗り込み護衛の騎士達を皆殺しにしてアルフリア様の両腕を斬り落としました。
そうです。
カルラの生家です。
ターゲットヤード家は白騎士の一族。
長女アルフリア様は王家剣術指南役剣聖ゼンレン様の弟子です。
ゼンレン様は王家以外には気に入った人間しか弟子にしないと有名ですがターゲヤード家が無理をお願いしてアルフリア様に剣を教えてもらっていたようです。
ですがカルラに剣を教えていたひげが似合っていないおじ様こそがゼンレン様。
ましてや剣を渡すとなれば一番の弟子を意味しています。
それが気に入らなかったのでしょう。
ですがカルラに挑み返り討ちにあいました。
どうやらカルラの出生は知らなかったようですね。
ですがスタックヤード家として醜聞を晒す事など許されない。
だからカルラを闇討ちしたのでしょう。
高価なスクロールを大量に用意して人を雇い、間違いなくカルラを殺すつもりでした。
カルラが逃げのびたのは予想外だったでしょうが大司教様のお力でも目を覚まさなかった。
仮に目を覚ましたころで自分にたどり着くことはないと思っていたのでしょう。
実際に我々はアルフリア様にたどり着くことは出来ませんでした。
それほど証拠の類が残っておりませんでした。
ですがアイネ様のお力でカルラは目を覚ましました。
あの時カルラが言ったようにカルラは剣の使い方から相手が分かったのです。
ですから簡単にスタックヤード侯爵家にたどり着きアフルリア様がカルラを襲ったと教会は判断いたしました。
例え侯爵家であろうとも聖女候補を襲い殺そうとしたとなれば許されません。
現当主もこれには驚いたようですが無かった事には出来ません。
しかし侯爵家としては直系はもうアフルリア様のみですから方腕を封じる事で収めて欲しいと。
ええ、当然です。
カルラを思えばとても許せる事ではありません。
相手が例え侯爵家であってもスタックヤードでなければ間違いなく死を与えられました。
先ほども言いましたがスタックヤードは白騎士の一族。
白騎士が残した神器白の盾を受け継ぐ一族。
最後に白の盾を使えた人は百年前とはいえその力は絶大。
スタックヤード家には後継ぎが四人いましたが長男ルーヒズ様は迷宮で亡くなり次女のカンナルナ様は幼い頃他家に嫁がれて病で亡くなりました。
そしてカルラはご存じの通りです。
先日エイアル家の黒の剣を継いだ方が倒れました。
だからこそ国としても余計に白騎士の一族を途絶えさせてしまうわけにはいかなかったのです。
今まで直系の者だけが白の盾を受け継いでいたので分家から養子を迎え入れたとしても白の盾を使える可能性は低い。
国からの要請です。
終わりにするしかありませんでした。
ですがカルラは自分から剣を、腕を奪った相手を絶対に許せなかった。
私も甘く見ておりました。
十日前の夜カルラは一人でスタックヤード家に行きました。
そうですね。
どれだけカルラの剣術が優れていようとも片腕では。
それは本人が一番良く分かっていたはずです。
あの子の部屋に自分の最後を思った手紙が残っておりました。
『例えこの身が砕け散ろうともあの女だけは許せない』と。
自分から大切な物を、未来を奪った相手を許す事がどうしても出来ないかったのです。
利き手を失っても有象無象に後れを取る事はないでしょうが侯爵家の護衛となればそうもいきません。
それでもカルラは戦い追い詰められた。
そんなカルラに白の盾が力を貸したのです。
百年誰も使えなかった白騎士の残した神器。
それがカルラを使い手として認めたのです。
盾を手にしたカルラを護衛の騎士達の誰も止める事は出来なかったらしくそのままアルフリア様の両腕を斬り落とし治療出来ないようにバラバラに刻んだのです。
そしてすぐに魔法で死なないように治療した。
殺すのではなく両腕を奪ったのです。
スタックヤード家としては驚いたでしょう。
長女の人生を終わらせたのは死んだはずの三女。
しかし侯爵家としては例え長女を殺されてもその相手が自分の娘で白騎士の盾の担い手ならそちらを取るでしょう。
カルラは父親から色々言われたようですが黙らせたと言っていました。
私が詳しく知っているのはカルラ自身から話を聞いたからです。
カルラはここに帰って来ました。
私に全てを話して自ら剣で胸を突いたのです。
やるべき事はやった。
偶然白の盾に選ばれてもあの女の事を侯爵家の力でなかった事に出来たとしても、自分が教会の皆の思いを踏みにじった事に変わりはない。
自分が生きていていけないと。
助けようとしても盾に阻まれて近づけなかった。
魔法を飛ばしても全て跳ね返された。
目の前であの子が力尽きるのを見ているしかなかった。
私は無力です。




