ガチャの確率
ジェードがいた場所には瓶が二本落ちていたので一応回収しておく。
多分これが+10だろう。
片方は真っ黒でもう片方はドギツイ虹色しているし。
どっちも問題があるので野放しにならない。
「片っぽ真っ黒ですけど。何ですかそれ」
「これな。これ本来なら当たらないんだが色ボケトカゲが反転の秘術ってのをやりやがってね。黒い方」
「反転ですか。もしかして絶対当たるとかですか」
普通反転と聞けばそう思うだろ。
だがそうではない。
「当たる確率は十倍で願い叶う。無くした片腕を取り戻したいと願って飲んだら十分の九で願いが叶う。さらに寿命が百五十日増える」
「それは凄いじゃないですか。若返りもあるしそれなら飲むでしょう、と言いたいところですけど当たりを引けなかったらどうなるんですか」
「二十五年の寿命を失う」
本来なら十分の一なんてまず当たらないと思うだろうが飲むかと言われれば飲めるだろうか。
俺なら飲まない。
なんかこうあるだろ。
他の奴は何ともなかったのに自分の時だけって奴。
「これ貰っていいだろうか」
「まさしくガチャの雫ですね。構いませんよ。どっちにしろ怖くて使えませんし」
本当に最後の最後に藁にもすが思いで使ってみるのもいいかもしれない。
瓶をカバンに放り込んで辺りを見回せば書き換えられていた転移陣は元の青い光を取り戻した。
これで後は他の階層に行ったゴーレムを倒せばこの騒動は終わりだ。
「お疲れ様。これで俺も一息つけるよ」
本当にヒロ君達には感謝だ。
だが何やら様子がおかしい。
「あの、思わずやっちゃんたんですけど。アイツこの世界のなんかこう、重要な奴なんですよね。まずいですかね」
なるほど。
やっちまった事を気にしているのか。
ヒロ君は何やらばつの悪そうな顔をしている。
具体的に何かと聞かれれば分からないが、なんかこう重要っぽい奴じゃないかと思っているらしい。
「カッとなってやりました。ちょっとまずいかと思っていますけど反省はしていません。それに先陣切ったのはヒロ先輩ですし。とどめ刺したのはリッシュだし」
対してマリンは目をそらして責任ありませんと主張している。
こいつ良い性格してるな。
「大丈夫だ。今回の裁量は俺に任されている。どの道ぶっ殺すつもりだったし」
ローさんも俺に全て任せた時点でアイツを殺すと思っていただろうし。
逆にもし殺すなと言われていれば困っていた。
それを聞いて二人とも安堵の息をもらした。
問題はリッシュだ。
ジェードだった物は今まで見た中で一番ひどい状態だ。
なまじ頑丈だったためにリッシュはひたすら殴った。
まだ肩で荒い息をして挽肉になったジェードを睨みけている。
「帰るぞリッシュ」
だが返事がない。
「リッシュ」
「あっ、えっと、はい」
色々言いたい事はあるだろう。
だがどんなに願っても死んだ人間は生き返らない。
ライラさんと会ったのは一度だけだがリッシュが慕っているのは分かった。
世の中は残酷だ。
あんなゴミカスのせいで良い人が亡くなるとか。
しかしリッシュには言えないが実際ジェードの言う事も分からないでもないんだ。
自分の本当に大切な人が理不尽に一生治らない傷つけられたとして、それを無かった事に出来るなら俺だって考える。
考えるが沢山の無関係の人を巻き込んで殺してまでやるかと言われればその相手次第だ。
まずやったとして誰にもそれがバレない事が絶対。
そして相手が生涯それを知らずに終わる事が出来るか。
最後にやった事がバレたら別に感謝しろというわけではなく、自分のためにそこまでした事を思えるかどうかと言う事だ。
漫画やゲームなどで自分のためにそんな酷い事をとか、そんなの望んでないとか言って全てを捨ててやった事を否定するやつだ。
相手が本当に大事なら別にどう思われようとも関係ないのだが、こっちがやった事を否定するならばそれは相手のためにやらない方が良いと言う事だ。
俺は人魚姫の話が嫌いなんだ。
ジェードはその辺どう考えても軽い気持ちでやった。
もし聖女が死んでしまって女神様に罰を受ける覚悟で生き返らせるために今回のような事をやったなら俺は色ボケトカゲなどと呼ばなかった。
やった事は許さなかっただろうが馬鹿にしたりはしなかった。
それだけの事だ。
ジェードを理力収束弾で消し飛ばして終わり。
帰還用の転移陣に入ると一瞬の浮遊感の後そこは一階層。
そこからはすぐに迷宮の出入り口があり青い光の壁をすり抜けた。
俺達が迷宮から出るとカロン達が飛んできて目の前に跪いた。
「目的は果たしました。これで迷宮は元に戻ります。後は移動したゴーレムだけです」
「はい、我ら正道教会一同感謝いたします」
カロンは俺の後ろにいるリッシュを見てぎょっとした顔をした。
俯き加減で服は返り血で赤黒く染まっている。
ゴーレムを倒しに行ったんだから血が付くとしたら自分の血と言う事になる。
「あの、リッシュ大丈夫」
「大丈夫、ですよ。返り血です。あのクソ野郎はぶっ殺しましたけど」
天秤の針にも血がこびりついている。
いつも明るい様子とは正反対。
「クソ野郎って、あなたまさか聖獣様を」
そこで俺がカロンに待ったをかけた。
「リッシュ。俺は本当のことを言う」
「はい。では審判眼を」
リッシュは俺の手をとった。
俺の言葉に対するこれ以上の証明はないだろう。
「女神様から許可は貰っている。今回の件は流石に女神様も業を煮やした。だから殺したし何も問題はない」
リッシュが青く光った。
この世界の人間、それも教会にとって色ボケトカゲは一応敬うべき存在らしい。
だが限度があった。
本当に色ボケトカゲと言うわけだ。
こんな事ならあの時やっとけばよかった。
言うべき事は言ったのでリッシュから手を離した。
後は今回使ったショートカットの話だ。
「迷宮北東の隅に穴を開けました。二、三日で埋まりますがそれまで注意をして頂きたい」
迷宮は傷ついたとしても時間がたてば元に戻る。
だが俺が明けた穴は俺の匙加減である
ずっと穴を望んで開けたなら埋まらないが今回は二十日程開けたいと願ってやっただけなのでそのうち埋まる。
「承知いたしました。どうか後はお任せください」
カロンはそれ以上何も言わなかった。
こうして色ボケトカゲがしでかした最低の事件は幕を閉じた。
後はギルドで報告して終わりだ。
「ところでアイツこれを聖剣と言ってましたよね」
「そうですよ。それ聖剣なんですか。ビームとか出るんですか」
「何で剣からビームが出るんだよ」
ヒロ君は知らないのか。
その聖剣は二本で一対。
一本はヒロ君が。
多分もう一本はジンが持っている。
だから本来の力は発揮できない。
ジンが黙っているなら理由があるんだろうしここは俺も黙っておいた方がいいか。
「あの色ボケトカゲの言う事だしあんまり真に受けない方がいいと思うよ。聖剣は持ち主を選ぶし、どんな力があるか分かるらしいけどヒロ君分かるのかい」
「いえ全然です」
そりゃそうだ。
そう言えば以前ジンが言ってたな。
最初からそんなもの持ってたせいで強くなろうとしなかったと。
「勇者が持ってるんですよね。闘技大会で見ましたよ。勇者自身はまだまだでしたけど。確か半年くらい前に召喚されたんですよね。それなら私と一緒ですよ」
「マリンってこっちに来てそんなもんなのか」
「そうです」
それでこの強さか。
なるほどこれは主人公だ。
「途中であのドラゴンが飛んで来たせいで中止なったんですけど、聖剣がなければ、えっとガイアスって探索者に負けてましたよ。戦い方もなってないし何よりレベルが足りてません。もっと気合入れてレベル上げやらないと」
ここでその名を聞くことになるとは。
だが結局ガイアスは今年も優勝できなかったか。
「お前の言う事も分かるけど、死んだら終わりなんだから無理せずコツコツレベル上げるのが正解だ。まして俺達と違ってバランスの良い仲間がいるんだから一緒にレベル上げが基本だ」
「でも聖剣ですよヒロ先輩。ゲームなら勇者の最終装備ですよ。きっと凄い力があるんですよ」
そう言えば俺も達也君の聖剣がどんな力があるか知らない。
リッシュを見ると小さく頷いた。
どうやら説明してくれるらしい。
「そうですねマリン様。アレはずっとグラス王国が保管してきた聖剣グラスリード。初代国王が使ったとされています。代々の勇者様が使えないかと試しましたが担い手になれたのは千年でわずか二人。詳しい力は秘密とされておりますが魔王軍との戦いで凄まじい力を発揮したとされております」
名前あったんだな。
しかし国の名前を持った聖剣か。
風上さんの時代にすであった国だから初代勇者の使った聖剣とは別か。
そんな話をしているとギルドに到着。
「それは良いんですが実は一つ気になる事があります」
「何かな」
ヒロ君が何やら難しい顔をしてる。
「アイツが迷宮にもぐってからガチャの雫を作っていたにしては二本は少ない気がします。もう一セットくらいあってもおかしくないと思うんですよ」
「確かに。だとしたら聖女に送っている可能性があるか」
「でもハズレるでしょう。あれ、どっちをおくったんでしょうか」
運が悪ければ大惨事だ。
「ならアイツは一セット出来たらからこんな物があると送った。後は大量に作って持って帰るつもりだったんでしょうね。これだけあれば願いが叶うだろうって」
「最低ですね」
まったくもってその通りだ。
「よく考えたら結晶一個も拾ってなかった」
「ああ、そうですね」
行きしなにヒロ君達が蹴散らしたゴーレムの結晶は面倒だから拾わなかった。
だからその後に一階層に来た探索者が拾ってしまったんだろう。
まあいいか。
総合窓口で受け付けさんに事の顛末を報告しよう。
ヒロ君はわざわざギルドに報告するのを不思議に思っているようだがそうはいかない。
片付けた報告をしておかないと
最低限の報告連絡相談は社会人の基本。
「失礼。迷宮のゴーレムが溢れる件ですが終わりました」
「それはどのような意味でしょうか」
受付の人は先日会った人と同じ人だった。
少し疲れた様子が見えるがそれでも綺麗な立ち姿だ。
さすが建物に入って最初の受け付けにいるだけの事はある。
「転移陣は正常に戻りました。後は階層を移動したゴーレムを片付ければ終わりです」
受付の人は俺と隣にいるリッシュを見て何か察したらしくその場で綺麗な一礼をした。
「カイ・スオウ様とリッシュ・ナインスターク様ですね。詳しいお話を聞かせていただきたいのですがよろしいですか」
「いいえ。報告は以上です」
俺達の事もギルド間で共有されたようだ。
なら報告はこれだけでこれ以上は話す必要はない。
最低限の結果とその後に必要な事は話したからな。
何より疲れた。
「迷宮には聖獣様が入られたと聞いておりますが」
色ボケトカゲは出入りした所見られたんだろう。
だから当然ギルドも知っていたし多分原因もそれだと言う事も分かっていた。
だから扱いに困っていた。
何を言ったところでこちらの言う事を聞くとは思えないし逆に怒らせたらどんなことになるか分からない。
「それに関しては迷宮入り口の正道教会の方に話してありますのでそちらにお願いします」
決して面倒だからと丸投げしたわけではない。
うまい事ごまかしてくれるだろう。




