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バグ技


迷宮の入り口には小さな青い箱が置かれておりそこから青い光が壁のように入り口をふさいでいた。

あれがギルドで言っていた結界なのだろう。

少し離れた場所に教会があるからそこから出張しているらしい。

入り口のすぐ横には小さな仮設の小屋が建てられておりノックするとシスターが1人出て来た。

小屋の中が少し見えたがイスとテーブルが置かれており、何人かがお茶を飲んでいた。

当然だが交代制か。

出て来たシスターはリッシュを見てぎょっとした顔をした。


「リッシュじゃない。アンタどうしてここに」

「誰かと思えばカロンではありませんか」


どうやらリッシュの知り合いらしい。


「もしかして後ろの方は」

「そうですよ」

「これは失礼しました」


俺に気づいたのか3人が出て来て並んで頭を下げた。

その中でカロンと呼ばれた見た感じ20才くらいの女性が代表のように口を開いた。


「カイ・スオウ様ですね。私はカロン・ガロン。カロンをお呼びください。我ら正道教会は迷宮から魔物を出さぬよう魔道具で結界を張り入り口を塞ぎ、交代でそれに魔力を注いでおります。今だ原因は分かっておりませんがその時まで我らをここを守り続けます」


ただお茶飲んでお菓子食べてるわけじゃなかったのか。

確かに魔道具を使うには魔力がいるわけでギルドでも言ってたが教会の人が頑張ってるのか。

普通に考えればギルドがそれをするはずだが単純に結界を張るのは教会の方が得意分野だっただけらしい。

この世界の教会は実在する女神に仕えるためよくあるような私腹を肥やしたり権力や立場をかさにきるような奴は絶対に上の立場にはなれないし許されない。

何せ悪事を働いたら絶対にバレるし。

本当の女神に仕えているからこそ教会の人は困っている人のために苦労を惜しまない。


「リッシュ落ち着いてよく聞いて。ライラ様がカーナ様の下へと旅立たれたわ」


カロンが言いにくそうに口を開いた。

それはつまりあの人が亡くなったと言う事だろうか。


「カロン。私はそんな冗談は嫌いです」

「冗談ではないの」


カロンを含め全員が視線を落とした。


「魔物が溢れ出た時すぐに守護者の方達があちこちで戦われた。私達も怪我した人の治療に走り回っていた。けど1匹だけ教会の裏側に来た奴がいたの。まだ幼い子供達がいる所に。だからライラ様が戦われたの」

「でもあの方は足が!」


ライラさんは片足が悪くて杖をついていた。

そんな状態で戦ったのか。


「そうよ。だからライラ様は秘儀を使われた」


リッシュの息を飲む音が聞こえた。

それは聖火隊の中でも教会の針と呼ばれる人が使える自爆技。


「そんな。そんな」


リッシュがその場に泣き崩れた。

この事件を起こした奴に本当に殺意を覚えた。

これはローさんもゴーサイン出すわ。

これは例え駄目と言われても俺はやる。


「俺達はこれからこの事件の元凶を潰してきます。リッシュ。無理なら来なくてもいい」


冷たいようだが元凶を始末しない限りこの状況は終わらない。

リッシュは乱暴に目元をぬぐった立ち上がった。


「いいえ。絶対に行きます。行かせてください」


迷宮の方を見ると結界の向こうには薄っすらとすでにゴーレムが見えている。

結界のこっちから魔法を撃てばいいのだがそんな事をしたら結界が消えてしまう。

面倒だが入ってからやるしかない。


「最初は私に任せてください」


マリンが元気よく声を上げ腕をグルグルと回してやる気を見せた。

それは良いんだが大丈夫だろうか。

ヒロ君の方を見ると小さく頷いた。


「こいつ主人公タイプですよ」

「どういう事ですか」


リッシュの疑問はもっともでどういう事だ。

マリンが腰をグッと落として力をためたと思ったらドンと物凄い音がして姿を見失った。

一呼吸遅れて迷宮から何かが壊れるような腹に響く音がいくつもした。

これでもかなりレベルが上がって動体視力も良くなっているのにほとんど見えなかった。


「行きましょう。マリンが暴れてるだけですよ」


ヒロ君が何事もないかのよう歩き出したので後に続く。

青い光の壁を抜けるとそこにはいくつものゴーレムの残骸が転がっており既にいくつかは結晶と10センチ程の小さな瓶になっていた。

ゴーレムは大きくへこんでいる物や穴が開いている物、頭が変な方向にねじれている物など様々で直ぐに結晶と小瓶に変わる。

先日戦ったのゴーレムは黒鉄と呼ばれる金属の塊だったらしいがここの奴は何かの金属が迷宮の魔力で強化されているらしい。

少し離れたところからドカンドカンと物凄い音が聞こえていたがやがて静かになるとマリンが戻って来た。


「やっぱり大した事はありませんけど無限沸きって面倒ですね。この辺は昨日も片付けたのに同じくらい沸いてますよ」


怪我もなく何事もなかったように戻って来た。

この子滅茶苦茶強い。

しかも見た感じ魔法の類は使ってなかった。


「言ったでしょ主人公枠だって。しかもこれでも対人特化ですよこいつ」


人相手の方が得意とかまさか古武術とか言うんじゃないだろうな。

俺の言いたい事が分かったらしいヒロ君が少し嫌そうな顔をした。


「古武術じゃないですよ。それは俺も最初に確認しました」

「それは良かったよ」


異世界の手引き曰く。

古武術。

よくある異世界転移などでたまに出て来る。

実家のじいさんに習ったとかでアホみたいに強く異世界に飛ばされた主人公がそれで無双するのだ。

異世界には無い打撃に関節に投げ技で。

だが現実に武器持った相手に素手で無双なんか漫画じゃあるまいし出来るわけがない。

世の中舐めんなと。

その説明読んだだけで分かった。

中学生くらいが思い描く僕の考えた最強の主人公だ。

しかしどうやらマリンはそれとは違うらしい。


「主人公枠ってのが分からんのだが」

「主人公は主人公ですよ」


ヒロ君は俺が分からないと言ったのが意外だったのか少し驚いた顔をした。

どういう事だ。


「マリンの1番の特徴は純粋な力の強さです。速さも要するに力が強いって事です。よくあるパターンではパワーキャラは力は強いが動きが遅い序盤のかませ役ですが実際は力が強いからって動きが遅いわけじゃないです」

「そりゃそうだ」

「力がめちゃ強くて動きがめちゃ速くて道場で学んだ理にかなった殴り方をする。格ゲーで言えば通常攻撃が超必殺技の威力でガード不能って事です。そこまで通常攻撃が強ければ必殺技なんかいらないでしょうけど、あるんですよあいつ。派手ではないんですけど決め技が。魔力が無限とか魔法に呪文がいらないとかそんなインチキはなくてもただ単純に強いんです。レベルが上がれば当然さらに強くなります。正しく王道を行く主人公ですよ」


そっちの方がインチキだと思うが言わんとする事は分かった。

単純に物凄い力と速さがあればそれだけで強い。

勝てるとするなら搦め手ぐらいで正面から戦うならそれこそレベル差で押し切るくらいか。


「この辺の奴は全部やりました。さあ行きましょう」


マリンの細腕から繰り出される攻撃が金属の塊をへこまして穴を開ける。

まさにファンタジーだ。


「俺が前を歩きます。マリンは後ろを頼む。目的地は北東の隅ですね」

「そうだ。そこなら人も来ないだろ」


目的地は2階層への階段とは反対方向。

しばらく歩いていると通路の先からゴーレムが3体現れた。

直接動いているのを見るのは初めてだが、まず大きさは上下左右2メートル程で丸い胴体に小さい頭と短い手足がついている。

ベースは金属製で金色の無数の大小の歯車が音を立ててかみ合っていて頭にはまるで時計のように2本の大小の針がゆっくりと動いていた。


「せっかくなので俺の遠距離攻撃を見せましょう」


先頭を歩いていたヒロ君が立ち止まり剣を構えるのを見て違和感を覚えた。

ヒロ君の持っている2本の剣。

右手のは聖剣だが左手のはそうじゃない。

そんな左手の剣を少し腰の辺りに構えると剣に刻まれている文字の刻印が赤く光った。

武器に魔法の文字を刻む技術がある。

魔力を流すと切れ味を良くしたり頑丈になったり火が出たり様々だ。

果たして聖剣ではない剣の力はどうなのかと思っていると腕がぶれて見えた。

多分物凄い速さで右に振って戻したんだと思う。

一呼吸遅れてゴーレムの胴体が斜めにスライドされて上半身が大きな音を立てて床に落ちて結晶になった。

それもまとめて3体。

もしかして真空の刃とか言うのだろうか。


「こんな感じです。結構魔力食うんで使い勝手が良くないんです。だから出番はあまりないですね。攻撃魔法も出来ない事はありませんがちんたら呪文を唱えるくらいなら寄って斬った方が速いんです」

「いや、魔法いらんだろ」


普通は金属の剣で金属の塊は斬れんぞ。

まして剣で直接ではなくて何かを飛ばして斬るとか。

あれは聖剣じゃないんだから純粋にヒロ君の技術だ。


「そうでもありませんよ。まあ切り札の1つですけど。とにかく戦いは俺達に任せてください」


実に頼もしい。

俺とリッシュだけだと目的地まで行くのが難しいのだ。

俺達でも倒せるがマリンが言っていたようにとにかく無限沸きがきつい。

だがいくらゴーレムが出て来てもヒロ君がサクサク斬り捨ててくれる。

面倒だから結晶も瓶も拾わずに進む事3時間ほどで目的地に到着。


「じゃあ行くか。理力集束弾エーテルストライク


突き出した手から出た理力集束弾エーテルストライクは直径2メートル程。

それを壁に向けて撃った。

当然それは壁を消しながら進んで行ったのでその後を歩数を数えながら歩く。

そのまま歩き続けて理力集束弾エーテルストライクが射程距離の限界で消えた場所にぶつかるとまた穴を開けて歩いて夜になり食事をとり寝てまた歩いて穴を開けを繰り返す事5日。


「多分この真下当たりだと思う」

「多少のずれは仕方ないかと」


地図を重ねて歩数を数えて来たがコンパスの類が無いので大体になる。


「じゃあ行くぞ。理力集束弾エーテルストライク


今度は下に向けて撃った。

かなりの距離を進んだ魔力集束弾エーテルストライクが限界になって消えた。

そこにライト浮遊レビテーションのスクロールを使って飛び込んだ。

距離感が分からないが結構落ちたところで穴の底に到着したので同じ事を繰り返す。

それを何度も何度も繰り返したところで穴の底が明るくなった。

ようやく目的地に着いたわけだ。


「やるぞマリン」

「はいヒロ先輩」


すぐにヒロ君とマリンが飛び降りた。

結構な高さだが途中で見えない床のような物を出してそこに着地を繰り返して勢いよく降りて行く。

2人は着地して互いに背を向けると次の瞬間には視界から消えた。

ヒロ君の消えた方からは重い物が落ちる音、マリンが消えた方からはドカンドカンと派手な音が聞こえる。

俺達が下りた頃には周りに動くものはなく、しばらくすると2人が帰って来た。


「35階層に到着と。いや分かってはいましたがこれはずるいですね」

「ゲームで言うなら壁抜けのバグ技だからね。だからと言って正面から進むのは現実的じゃないし」

「それはそうです」


正面から1階層ずつ下に進んでいてはどれくらいの時間がかかるか分からない。

転移陣が使えない以上はその間ずっと迷宮で寝起きしなければならない。

そのためには大量の食糧や水がいるし武器だって使えば劣化するため予備も必要になる。

そんな事が出来るとすればそれこそセカイエの迷宮を攻略したヒロ君ぐらいだろう。

だからローさんから話を聞いた時からこの方法で行くつもりだった。

だが俺とリッシュではまず1階層の目的地までたどり着くのが大変なんだ。

そこから35階層に降りた後も戦い続ける必要があるため疲れたら天井に穴開けてそこで休みながらやる予定だったんだがこんなに簡単になってしまった。


「今更ですけどあの穴は大丈夫でしょうか。探索者の人が落ちたら大変ですよ」


マリンの言いたい事は分かる。

そもそもあの場所に行く探索者自体いないし普通に考えれば大丈夫なのだが世の中にはどうしてそんな事するのか分からないような奴はいるからな。


「全部終わったらギルドに報告しておくよ。しばらくしたら勝手に埋まるしね」


注意喚起くらいはしてくるだろうしそれを無視したら自己責任だ。

さて目的の階層までのショートカットはうまくいった。

後は簡単なはずなんだがこの後を考えると嫌な気分になる。

アレはたまの休みの日にたまたま駅前のコンビニに行ったら課長に会ってしった時のように。

あと五分でも時間がずれていれば会わなかった。

その日は最悪だった。

何せ飲みに強制連行の上馬場野主任を呼び出して2対1でどうでもいい話をエンドレスで聞かされた。

もう何もかもが嫌になって限界を超えて飲んで潰れてタクシーに乗って帰った。

その日の記憶はなく次の日は二日酔いで仕事。


「あのクソ課長があああああ!!たまの休みくらい休ませろ!!お前に誘われたら断れないんだよ!!断ったら寮の部屋まで押しかけやがって!!俺は酒は嫌いなんだよ!!死ね!死ねええええええ!!」 

精神鎮静化マインドクリア


スゥと頭が冷えた感じがして俺を見るマリンが引いていた。






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