再会
旅の疲れは思っていた以上の物だったらしくベッドで横になったらすぐに朝になった。
以前はこれが嫌で嫌で仕方なかった。
だからと言って眠らなければ体がもたない。
辛いし眠い。
毎週あるクソ課長の何の意味もないミーティングで寝そうになった事は何度もあった。
たまにある休みの日はいつも同じ時間に起きてしまうが2度寝をしてしまった時は目が覚めたら夕方だった。
起きても何もする気が起きずただぼんやりとして気がついたら夜。
次の日を考えて寝る事が苦痛だった。
それが今はどうだ。
ゆっくり眠りにつける。
明日を頑張ろうと思える。
ああ、俺は今生きているんだと実感出来る。
やっと地獄から抜け出してこれからという時に自殺に巻き込まれて死んだ。
それで終わった人生なのにこんな機会を与えてくれたローさんには感謝しかない。
身支度をし下に降りるとギルドおすすめの宿の1階は食堂っぽくなっているのはどこでも同じらしくテーブルの1つにリッシュが俺を待っていた。
しかしそこにもう1人。
「おはようございます」
「おはよう。どうして君がここに」
黒い革製の鎧を身に着け右腕に綺麗な腕輪、指によく似た指輪を着けて首に魔道具のチョーカーがない。
ヒロ君である。
「ギルドで依頼を受けまして報酬につられたと言ったところです。昨日ギルドで王都から2人組が来て女の子は天秤の針を持っていたと。ジンさんから話は聞いていましたし」
リッシュは目立つからな。
そんな朝に弱いリッシュもヒロ君の前ではシャキッとしている。
いつも眠そうにぼそぼそとパンをかじっているのに今日は背筋が伸びてる。
「リッシュからある程度の話は聞いています。ここにいるという事は女神の依頼ですね」
当然そうなるはな。
「俺がここに来て5日になります。斬っても斬ってもきりがありません。大した相手ではありませんが終わりが見えないのがしんどいです」
ここの迷宮は少し特殊で、出て来る敵の強さが20階層を境に急に跳ね上がる。
王都の迷宮で言うなら1から10階層がここの1から20階層に相当する。
それだけ見ればここの迷宮は簡単と思ってしまいそうだがここの20階層から出てくる敵は王都の40階層からの敵の強さを持っている。
それ以降は普通に10階層ごとに強くなる。
ここの迷宮の人気がないのも納得だ。
だがヒロ君は凶悪な魔物が無限に湧いて来るのに大した事ないと斬り捨て続けている。
さすがである。
俺はそんな話をしながら薄い肉の入った卵焼きと固いパンを食べているがこれがおいしい。
この世界に来てから朝食をとるようになったのはこれが原因である。
いや、元の世界でもおいしい朝食はあったのだろうが俺が食べなかっただけか。
「詳しい話を聞かせてもらえませんか。目的がこの騒動の解決なら俺も協力しますよ」
ヒロ君と一緒に戦った事はないが迷宮を単独で攻略した話は聞いている。
つまり滅茶苦茶強い。
「それはありがたい。リッシュはどうだ」
「とてもありがたいお話だと思いますが、お1人なのですか」
「いや、連れは飯食いに行ってるよ。もう帰ってくると思う」
ヒロ君は後輩がいると言っていた気がする。
リッシュも確かヒロ君が誰かと一緒にいると言っていた。
しかし後輩という事は年下なわけだが大丈夫だろうか。
言っては何だが日本の中学生くらいなら風上さんの話からも世の中なめてるイメージがある。
しばらくして宿の入り口が開いたのでそちらを見ると、現れたのはリッシュと同い年くらいの女の子。
その子は嬉しそうにこちらに歩いて来ると元気よく挨拶してきた。
「お待たせしました!はじめまして!」
茶色い髪を肩辺りで綺麗に切りそろえている。
明るい感じのかわいい子だった。
「私はマリンです。苗字がクレイで名前がマリンです」
マリンとな。
真鈴とか麻凛あたりか。
名前でそう考えてしまうのは光宙でピカ〇ュウとか天使姫でエンジェルプリンセスとか頭が沸いてるとしか思えないのがあるからだ。
身に着けているのは多分金属製のグローブのような物と金属製のプロテクターで武器は持っていない。
リッシュが立ち上がるとその前に跪いた。
「初めましてマリン様。私は正道教会グラス王国所属リッシュ・ナインスタークと申します」
「ちょっと待って!立って!」
マリンが慌ててリッシュを立ち上がらせた。
うん驚くよね。
教会の人間は使徒に対してまずこう挨拶をする。
「俺は周防甲斐だ。カイでかまわない。マリンさんでいいかな」
「さんはいりません。気軽にマリンでいいですよ」
「ではマリンと。早速だけど2人は迷宮に行ったんだよね。どんな感じなんだ。迷宮が魔物で溢れているとは聞いているけど具体的にどうなんだ」
下層の敵が普通に1階に出るとかは知っているがそれだけだ。
どのくらいの数とか探索者はどれくらいいるのかとか一応聞いてはいるが実際はどうなのか分からない。
「そうですね。35階層の奴で溢れてます。同じ種族は問題ないのに他の種族は殺します。結果強い奴が残るわけで歯車のゴーレムで一杯です」
「歯車のゴーレムか。うん知ってた」
「予想されてましたか」
「そいつが問題だからね」
問題と言ってもゴーレムが何かしたわけではない。
というかそいつも被害者だ。
「ゴーレムは何故か帰還用の転移陣と下の階段から無限に湧いてきます。本当に倒しても倒しても出てきます。2階も3階もゴーレムしかいませんでした。それでギルドは試しに1階の転移陣を壊そうとしたんですけどボス部屋の壁みたいに破壊出来ませんでした」
ボス部屋の壁か。
1度ボス部屋に入ると出られないように光の壁が出来る。
それは当然越えられないし物理も魔法も受け付けない。
そしてボスを倒すと消えて行き来できるようになる。
だが試しに理力弾を撃った所は穴が開いがゆっくりと塞がったのでつまりそういう事だろう。
「原因は35階層にあるとギルドも予想してそこを調査する事になったわけですが何故帰還用の転移陣からゴーレムが出て来るか分からないためまずそちらを結界で封鎖しました。問題は転移陣が使えない以上35階まで地上に戻る事なく行かなくてはなりません。だから実力のある探索者のチームがいくつも向かいました。最近来た俺達は浅い階層で間引きしているわけです」
「そんな状況か」
確かに普通に考えればかなりの数の探索者、それも実力のある人間が必要だな。
元々この街には実力のある探索者が少ない。
だから王都はもちろん他の街からも探索者が集まったわけだ。
「なら速いとこ行って速い事片付けようか」
「出来るんですかそんな事」
ヒロ君達もこれは予想外だったのか驚いていた。
そして何故かリッシュも。
リッシュには言ったはずだが。
「そうだ。俺とリッシュだけなら少し面倒だったけど、君達が力を貸してくれるなら簡単になると思うよ」
「簡単ですか。その、具体的には」
普通に考えれば簡単な攻略などない。
あるとすればイベント戦闘ぐらいだが俺はイベント戦闘が嫌いだ。
まして負けイベントなど論外。
だから貰ったのはルール破りの力。
ならこれからやる事もそれだ。
「本当ならやっちゃいけない技だ」




