聖女は聖女が嫌い
これも犯人分かっただろ。
どう考えてもそのお嬢様。
そもそも魔法のスクロールは高いんだ。
しかも対人系の魔法は特に高い。
それをポンポンと使いまくっているし人も雇っているからよほどの金持ちだろ。
カルラを襲った場所もそうだし時間もとても短くかなり綿密に計画も練っている。
「カルラが斬り捨てた相手は6人ですか。あの日ショップエチゴの裏通りに血の跡があった事件はありしたが死体などなかったと聞いています。それが残っていればまた話は違ったでしょう。ですが人通りの少ない場所と時間とはいえ、死んだ人間を6人も運び出すの難しいはず」
「普通に考えたら川に捨てたんじゃないのか」
これしかないだろ。
しかしリッシュは首を振った。
「翌日以降川に流れていたのはカルラだけでした。6人もの死体は見つかってません」
「あっアタシ分かった」
愛音が明るい声を上げた。
「肉を石ヘじゃないかな」
知らない魔法だが名前だけで何となくわかる。
石化魔法だ。
やっぱりあるのか。
「しかし石化は高度な魔法です。スクロールには出来ませんし、それを使える魔法使いとなれば」
「それこそ金持ちの貴族でもない限り雇えないでしょ」
高度な魔法はスクロールに込められない。
俺の理力魔法も込められなかった。
高レベルの魔法使いに仕事を依頼するためには高い金が必要になる。
まして人を襲う依頼となればさらにだ。
「貴族か。例えそれがどんな地位であろうもとカルラをこんな目に合わせるなど」
低い声が部屋に響いた。
それはベールさんだった。
少し俯いたまま立ち上がると俺達に大きく頭を下げた。
「申し訳ありませんが急用が出来ました。失礼させて頂きます」
静かにベールさんは部屋から出て行った。
「これは終わりましたね」
「うんそうね。ベール様があんなに怒ったの貴女が黒毒飲んだ時くらいじゃないかな」
「あれは、その、黒と赤を間違って飲んだだけですし」
「それで大騒ぎになったの忘れたの。そもそも普通は訓練で赤毒なんて飲んだりしないわ」
2人はのんきに話しているが相手は貴族。
その辺どうなだろうか。
相手が高位の貴族だったらもみ消しとかありそうだが。
「じゃあアタシもそろそろ行くね。右手は無理なんだごめんね」
「俺も失礼する。リッシュも今日はゆっくりするといい」
強力な神聖魔法でもなくした腕を元に戻す事は出来ない。
斬れた直後ならつなげる事も可能らしいが漫画の様には行かないのだ。
そんな事が出来るとすればそれこそ神の奇跡だろうがそれが可能となるかもしれない物を俺は持っている。
ジンから貰った3つの霊薬の1つでどぎつい蛍光黄色。
これを飲むと望む姿になれるかもしれないらしい。
毒でも呪いでもガンのような病気であろうとも望めば健康な体になる。
例えそれが手足を無くてしまったとしてもだ。
ただ望む姿が問題で、両腕を無くした男が飲んだ時は腕が生えた。
ただし両腕と肩からの計3本。
腕を無くす前はもう1本腕があったら便利だとか思っていたらしい。
病気で余命いくばくもない女性が健康になって外を歩きたいと願って飲んだ。
その女性は健康になったが男になった。
何でも女性はいつか自分を迎えに来てくれるイケメンな王子様がいると心のどこかで思っていたらしい。
だからカルラを見て気の毒だと思うが霊薬を渡そうとは思わない。
これがゲームなら迷うことなく渡すのだろうがここは現実だ。
どうなるか想像も出来ないし下手したら腕が4本とかになる。
この霊薬を使うとしたら本当に最後の最後。
もう死ぬしかない状態になった時。
霊薬で腕をはやす以外なら心当たりが1つあるのでダメ元でそちらに頼んでみてみるか。
扉を開けるとシスター達は俺達が来た時のまま跪いていたが愛音は驚くことなく歩いているのでこれが普通らしい。
教会を出た俺達は向かう方向が同じだったためそのまま一緒に歩いていた。
愛音も俺に話があったらしく周りを気にしながら口を開いた。
「カイさん。この国にも聖女いるんだよね。たっくんから聞いてるけどアイツなんだよね」
「アイツって、知り合いなのか」
「知ってる。赤井聖名でしょ。聖なる名でセイナで今は聖女とかふざけてんのかな」
達也君は嫌いと言っていたし愛音とも知り合いでおかしくないが口調からかなり嫌いらしい。
確かに話を聞くに男には好かれるが女には嫌われるタイプだろう。
「あいつ近所に住んでんの。たっくんに大きくなったらお嫁さんになってあげるとか言ったのよ。アタシが隣にいるのに」
「それは小さい頃だろ」
近所の綺麗なお姉さんと結婚の約束とか俺もしてみたかったよ。
漫画だと大人になって再会してってのがお約束。
だが愛音の顔が歪んだ。
「あいつなんか変なのよ。確かに可愛いと思うけどゲームみたいに男が寄ってくるの。そのくせ誰かと付き合ってるって話は聞いた事ないし。中学になってもアタシがたっくん好きなの知っててちょっかいかけて来るとか最低だったわ」
乙女ゲームの主人公か。
イケメン侍らせてお姫様を楽しむとか。
赤井さんに関しては以前ローさんも言ってたな。
「そいつは所謂魅了の力だ。たまに俺達の世界でも不思議な力を持っている奴もいるらしい。ゲーム程ではないけど何となく好かれるんだと」
愛音がえっと驚いて立ち止まった。
想像もしていなかったらしい。
現実にそんな物あるとは思わないよな俺もそうだったし。
「マジで。ああ、魅了か納得だわ。あれだよね。漫画とかでよくあるあれだよね」
「そうだ。よくあるあれだ」
異世界の手引き曰く。
女主人公は恋愛が絶対だが異世界に行って能力として魅了の力を得る主人公はまずいない。
何故ならそれでは話が成り立たないからだ。
魅了の力でイケメン侍らせて満足したら話は終わってしまう。
なら魅了の力を貰った使徒がいないかと言うとそんな事はないが、いたらそいつは絶対に女主人公と敵対する。
それで最後はそいつが死んで力を失うか、あるいは力がバレて罪に問われて処刑なりなんなりされる。
最後に主人公に対して酷い事をしてきた男達が正気に戻って復縁を求めてくが主人公はそれを拒む。
あとはいつものパターンで最後に出て来た男に『以前から貴女が好きでした。結婚してください』『あ、あなたはあの時の。はいよろこんで』となるらしい。
「じゃああいつ1回殺してもその力は加護じゃないから失われないって事だよね」
「まあ、そうなるな」
物騒な話であるがチッと舌打ちした愛音の目は笑ってない。
こいつやる気だったな。
「カイさん。何とかならないかな」
「なんとか、なんとかな」
なんとか言われても困るがなんとかしなければ聖女が聖女に殺されて死ぬ。
それはどうなんだ。
「ちょっと相談してみるからしばらく待っててくれ」




