最後の聖女候補
王都の教会はさすがに大聖堂ほどではないが大きかった。
外見は俺の知っている教会によく似ているが当たり前だが十字架はなく女神のシンボルがでかでかと掲げられていた。
リッシュを先頭に教会の敷地に入ると裏にまわり割と大きな裏口から中に入った。
床は綺麗な石が敷かれていて毎日掃除されているらしく埃1つない。
「リッシュじゃない」
「えっホントだリッシュだ」
「ここに来て大丈夫なの」
沢山のシスターらしき人が声をかけて来た。
先頭を歩いていたリッシュは彼女達に愛音が見えるように少し横にずれた。
「皆よく聞きなさい。この方は聖女アイネ様です。女神様のご加護によりこの世に戻られました。今日はカルラのために来ていただきました」
リッシュの言葉に全員が一斉に道を開けて跪き頭を下げた。
愛音の事はある程度伝わっていただろうが見事な動きだ。
なるほど本来聖女とはこれくらい敬われるものなのか。
そしてカルラと言うのがリッシュの友達か。
広い廊下をリッシュは真っすぐ歩き階段をのぼり、1つ部屋の前で止まった。
そのままノックすることなくドアを開けるとベッドがあり側には椅子に座った濃い茶色の髪の女性が1人。
こちらに気づいて立ち上った。
年の頃はおそらく40くらいで他のシスターとは少し違う青い部分の多い服を着ている。
「ここに来ては駄目でしょうリッシュ。あら後ろの方は」
「この方は私がお供させていただいているカイ様。そして聖女アイネ様です」
リッシュが俺達を紹介すると彼女は跪いて頭を下げた。
「ご無礼を致しました。私は正道教会グラス所属高司祭ベールと申します」
その名には聞き覚えがあった。
確かリッシュが小さい頃からお世話になったとか聖獣怒らしたリッシュに拳骨くらわして天秤の針を渡して送り出したとか。
リッシュはそのままベッドに近づいたので俺達も続くとそこにはリッシュと同い年くらいの少女が眠っていた。
綺麗な子だった。
艶のある長い黒い髪に人形を思わす整った顔。
だが右手が肘の辺りから先がない。
「この子はカルラ。私と同じ聖女候補でした。お城での勇者様との顔合わせの日です。孤児院から帰る途中何者かに襲われ川に落ち岸に流れ着いた所を通りかかった方に助けられました。それからずっと眠ったままです」
リッシュがカルラの頬を撫でながら話した内容は衝撃だった。
聖女候補が襲われたとか物凄い事だろ。
「カルラを襲ったと思われる男は次の日路地裏で死んでいるのが見つかりました。毒と自分がやったと書かれた紙と共に。ですがその男程度にこの子がやられるはずがない。この子は強いんです」
それはどう考えても出来すぎている。
替え玉だろ。
俺の時のように無理やり。
上司の馬場野主任が代わりに警察に行けと言ってきたから断ろうとしたら課長が行けと言ってさらに支店長にまで行けと言われた。
アイツらみんな死ねばいい。
だがさすがに身代わりで死ぬ事はないから金とかで騙されて口封じか。
「教会も本当の犯人を探したのですが、分かったのはよほど高度の魔道具や魔法を使ったとしか。この子を狙った理由も分かりません」
魔道具は高い物は本当に高い。
教会の捜査を逃れる程の物となるとどれほどの物だろうか。
「アイネ様。どうかこの子に女神ノ涙を。大司教様もこの子のために使ってくださったのですが目を覚ます事はありませんでした。ですが貴女様なら。どうか右目の上辺りに集中してお願いします」
女神ノ涙は回復魔法の最高位。
どんな病気や怪我、呪いさえも回復させるらしい。
現在使えるのは大司教しかいないと聞いているが。
「女神ノ涙はいいけど集中か。ちょっと待ってね」
愛音は女神の笛を使っているらしく口笛のような音と共に指先が小さく光ったり消えたりしている。
当たり前だが最高位の魔法を使えるか。
「やけに具体的だけど、もしかして春ちゃんに聞いたのか」
「はい。カイ様のおかげです」
どんな質問にも答えてくれる。
人によっては値千金の1つを友達のために使ったのか。
「よし行けるわ。女神ノ涙」
部屋にヒュッと風を切るような音と共に愛音が指先を青く輝やかせてカルラに当てた。
しばらくして指を離すと皆が見守る中それまでピクリとも動かなかったカルラが小さなうめき声をあげた。
「カルラ。起きなさいカルラ」
リッシュがカルラの頬を軽くペチペチた叩くと閉じられた目がゆっくりと開いた。
てっきり瞳も黒いと思っていたが綺麗な青だった。
「リッシュ。あれ私どうして」
「ああカルラ。良かった」
「ありがとうございますアイネ様。女神の奇跡に感謝いたします」
リッシュが泣きながらカルラに抱き着きベールさんも膝をついたまま泣いていた。
「憶えていますかカルラ。あなたは勇者様とお会いした後孤児院に行きましたね。その帰り道で襲われたんです」
それを聞いたカルラはしばらくぼんやりと動かなかったが、カッと目を開いて勢いよく体を起こして左に倒れた。
それがとても痛々しかった。
「あれ、私の、私の、手」
「カルラ聞いてください。貴女が見つかった時、傷だらけで、それは何とか治しましたけど腕だけは」
カルラはじっと自分の無くなった腕を見た。
そのままどれくらいたっただろうか。
「そっか。あの女殺してやる」
地獄の底から響くような声でそう言ったのだ。




