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報告と忠告


気がつけばいつもの部屋に座っていて正面にはつものようにローさん。

俺は立ち上がって頭を下げた。


「申し訳ありません」


過程はどうでもよくて結果が全て。

運が悪かったとかそんなものは関係なく任された仕事を果たせなかった。

つまり始末書物である。


「顔を上げてください。あなたはよくやってくれました。今回は本当に時間が足りなかったのでしょう」


最初は迷宮内の道案内を出来る人を雇う事を考えた。

だがつい先日迷宮の地形が変わったためそれは無理だった。

次に考えたのはジンかヒロ君に連絡して手を貸してもらうだ。

彼等は勇者やそれに関わる者には近づきたくない言っていた。

理由はまあ分かるが今回はそれを分かっていても頼んだ。

俺達と別行動出来るし何せ圧倒的に強い。

だが帰ってきた答えは残念ながら王都の迷宮には潜ったことがないから40階層まで行けないだった。

後輩は行けるらしいが1人では無理。

達也君達に頼むのも愛音以外レベル的に無理。

最後は教会に人手を貸してもらう事だがこれも駄目。

何せ行くの通常ではなくはエクストラダンジョン。

どんな敵が出て来るのかも分からないし単純に40階層で戦えるだけの力では無理だと思ったし実際に無理だった。


「実を言いますと今回のような事が今後も起きる可能性があります」


愛音が来たので色々ずれる。

だがこれはあくまでこちら側の都合だ。

愛音が悪いわけではないしむしろ魔王と戦うのに愛音がいるのは良い事だろう。

ならそれを考えて行動する必要がある。


「1つ要望があります」

「何でしょうか」


色々ずれるのならそれに対処出来るように準備しておかなければならない。


「方位針と似たような力を持った物を頂きたい」

「ありません」


きっぱりと言われて目が覚めた。

目が覚めると頭の上あたりを手で探ってしまう癖がある。

いつもそこにスマホと目覚まし時計があるからだ。

そしてそのアラーム機能が役立ったことはない。

この世界に来てからそれは無くなったが時間になったら絶対に目が覚めるのは変わらない。

だからテーブルに置かれた腕時計を見るといつもの時間だった。

さすがに気分が重い。

身支度を整えて下に降りるといつものようにリッシュがポツンと座っていた。

そしていつものように固いパンをもそもそと食べている。

俺が声をかけて正面に座ると言いにくそうに口を開いた。


「あの、今日は行きたいところがありまして、申し訳ありませんが迷宮には」

「それは別に構わないよ」


急ぎの仕事が終わったんだがら1日2日休んでも問題ないだろ。

例えそれが失敗だとしても。


「俺もちょっと愛音に用事があるから今日は別行動だな」


愛音にもある程度は伝えておいた方がいいと思う。

勇者パーティーは4日に1日は休むようにしているとの事なので今日は休みのはず。

するとリッシュが驚いた顔をした。


「私もアイネ、様に用事がありまして。一緒に行きませんか。聖女候補の最後の1人もご紹介します」


最後の1人とな。

どんな子だろうか。

能力が高いのは間違いないだろうが問題は性格か。

朝食をゆっくりと取った後2人で宿を出て大聖堂へ向かった。

のんびり歩いているといつもよりもかなり人が多い。


「闘技大会があったばかりですし今年は勇者様が出場されました。何よりジェード様が王城を襲撃しましたので皆興味があるのでしょう」


ガイアスは達也君に負けたらしい。

技量で負けるとは思えないから多分武器の性能差だな。

聖剣は何でも斬れるから盾も槍もバッサリいかれたんだろう。

そしてドラゴンが城を襲撃したせいで闘技大会は中止。


「だが何考えて城を襲ったんだろうな。いや待てよ」


あのドラゴンが何かするならそれは聖女がらみしかないだろ。

なら城に聖女がいてそこに向かったか。

いや、リッシュの話では人の姿になって聖女に会いに行った事があるはず。

聖女はイケメン侍らせていてその中に第1王子がいると言っていた。


「つまり聖女は女神の盾を封じられて王子の所に行ったけど何かされそうになった。それに気づいたドラゴンが突撃。そんなとこか」

「えっそうなんですか」

「多分な」


多分だが正解の気がする。

この国の聖女アカイセイナ。

向こうで読んだ『私は聖女じゃありません』がそのままだとリッシュは言った。

普通に考えれば聖女が加護が使えなくなって相談に行くとしたら教会だ。

だが女神の盾が使えなくなったと言ったとすると教会側はどう思うだろうか。

普通は原因を調べるだろうし丁度いいから教会で保護する。

だが本人は聖女が女神によってクビになったのではないかと疑うと思ったのではないか。

だからこそ教会には行けなかった。

なら家に閉じこもるか。

だがその性格や行動からかなりの敵がいるはず。

もし女神の盾が使えない事がばれたら襲われるかもしれない。

だから誰にも言えないし特に守りのない家にいるのも怖い。

この国で1番安全なのはどこか。

困ったと言えば助けてくれて力があるのは誰か。


「つまりそういう事だと思うぞ」

「なるほど確かにセイナ様ならそうすると思います」


リッシュが嫌そうに吐き捨てた。

本当に嫌いなんだろう。


「だがドラゴンって聖獣だろ。そいつに城を壊されたら誰が弁償するんだ。修理に金掛かるだろ」


ここから見ても分かるくらい城の一部が崩れている。

けが人だって出ただろう。


「それがですね」


リッシュが言いにくそうに周りを確認して口を開いた。


「ユーべル様がセイナ様を手籠めにしようとしたらしく、それを知ったジェード様が飛び込んだようです」

「ちょっと待て」


ユーべるとは聖女に入れ込んでいるこの国の王子だったはず。

それが聖女を襲ったなら普通どう考えれても王子が悪いが聖女の方はそういった事を考えなかったのだろうか。

相手は間違いなく自分に好意を持っていて衣食住の面倒を見てくれる。

そんな状態でそんな事をしてこないと思うだろうか。

そう告げるとリッシュがムムっと考え込んだ。


「そうですね。あの方ならそれも考えられていたと思います。しかし何とかなると思っていたではないかと思います」

「何とか。ああ、盾がなくてもレベルとか魔法とかか。けど実際どうなんだ。王子って戦えるのか」


異世界の手引き曰く。

王子や王女はたまにめちゃ強い奴がいる。

だがほとんどの場合は戦いなど出来ない。

最低限の剣術や魔法は使えるように教育を受ける事はあるがそれ以上はない。

普通に考えれば当然だが何故か城を抜け出して探索者をやってたり、剣術や魔法に興味を持ってそればかりやって周囲から小言を言われる王族のパターンがあるらしい。


「いえ以前勇者様のお供の件で城に行った時や街でお見かけしましたがそんな様子はありませんでした。しかしアイネ様の事があります」

「ああ、なんか一服盛ったやつな」


どんなに強かろうが人間なら毒などの状態異常には勝てない。

そこではじめて身の危険を感じてドラゴンに助けを求めたと。


「馬鹿じゃねえの」

「そういう方です。だから教会からあまりよく思われてはいません。私もどうしてあの方が聖女なのかと常々」

「いや待て。女神が力を与えたんだよな。聖女にふさわしいって女神が判断したんだよな」


普通才能とは選べないからな。

だが愛音はこの世界に来る際に女神から聖女として魔王を倒して欲しいと言われたと言っていた。

だから彼女も同じはずだ。

カーナさんは何を考えて彼女を聖女にしたんだ。


「それが問題でして。あの方に無礼を働く事はカーナ様への侮辱です。ですがあの方がご自分で聖女ではないとおっしゃっています。しかし間違いなく聖女です。本当に、本当にもう」


リッシュが深い深いため息をついた。


「着きましたね」


話しているうちに大聖堂に到着。

受付で愛音に会いたい旨を伝えるとすぐに奥に通された。

応接室のような場所で待つ事5分程で眠そうな愛音が現れた。


「おはようカイさん。リッシュ。今日はどうしたの」

「ああ朝から済まない。君に伝えておかないといけない事があってね」


正直に伝える必要がある。

だが愛音が悪いわけではない。


「順番に言う。本来君はここにいない。ここまではいいね」

「うん、それは分かってるよ」

「それによって色々ずれた。例えばアイメルは知ってるね。本来は達也君は彼女と戦い続けるはずだった。だか君とアイメルが交代したから迷宮での戦いがずっと楽になって順調に進んでいる。だから達也君達のレベルの上がり方がずっと良くなった」

「うん。アタシ結構強いからね」


達也君と愛音が殴り合いになったら間違いなく愛音が勝つ。

それはもう圧倒的に。


「それにより焦った人がいた。もっと強くならないといけないと」

「えっと誰それ。アイメル」

「いや違う」


あっちはあっちで大変だが。


「今の黒騎士知ってるな」

「ソディナの妹さんだよね」

「そうだ。女神の予定では彼女は1年後くらいに達也君達と同じくらいのレベルになって合流するはずだった。けど達也君達が急に強くなって行くのを知って焦ってしまった」


ここでいったん止めた。

愛音は黙って話を聞いている。


「黒の墓場と言われるダンジョンに行ってしまったんだ。入り口は2つ。ここの迷宮19階層と39階層。予定では達也君達と仲間になった後に20階層から行くはずだった。だが1人で行ってしまった。そこで俺達は女神から彼女の救出を頼まれた」

「まさか。ソディナが家に帰ってるのって」

「俺達は間に合わなかった」


愛音の顔色が変わった。


「間に合わなかったんだ」

「私達が見つけた時はすでに亡くなっていました」


俺は口を開こうとした愛音を止めた。


「君のせいじゃない。むしろ女神カーナが悪い。知っているかもしれないけどこの世界で死んだ使徒は1回だけ加護を失うけど生き返るんだ。けど君は向こうの世界に加護を失うことなく生き返った。ローさんもありえないと言っていた。これは向こうの世界が無茶苦茶になってしまったからその対応として君を向こうに送ったんだ」

「アタシを不死者への対応のためって事」

「そうだ。確かに対応出来るとしたら君が1番だろう」

「でもアタシには!」

「そうだ。君には誓約があったし、原因の奴を見つける事だって無理だっただろう」


俺達が行かなければ愛音はあのままあそこで監禁されたままだっただろう。

だからあの何と言ったか忘れたが七魔人セブンデイズの1人を見付ける事さえできなかった。


「思うに女神カーナはその辺かなりいい加減だ。君の誓約を消しておけば話は変わっていただろうし、何より奴の加護を考えれば無くしておくべきだった」


異世界の手引き曰く。

復讐物の1つにいじめられっ子が異世界に行って力をつけて帰って来てやり返すパターンがある。

その場合圧倒的な力でいじめていた連中をねじ伏せる。

それでも諦めきれないいじめっ子がさらに突っかかって完膚なきまでにボコボコにされてザマァと言うわけだ。

そして何故かモテまくる。

今回はこのパターンだったがこれがネクロマンサーの力だったのが問題だったわけだ。


「君があの世界に戻った時、何らかのお告げでもしておけば問題なかった。力を失っていてもそれくらい出来たはずだ」


愛音は俯いた顔を上げた。


「だがそれもなかった。つまり女神カーナはある程度の設定だけして後は放置するんだ。あの何とかを復讐出来るように元の世界に送ってしばらくしてからどうなったか見てまずいと思って丁度死んだ君を送った。こんなとこだろ」


言葉にすると結構ひどいな。

そこでずっと黙っていたリッシュが重い口を開いた。


「しかしカイさん。ロー様はアイネ様があの世界に残ったら世界が滅びるとおっしゃったんですよね」


ゾンビらけの世界を何とかするために送ったのにそれが原因で滅びては意味がない。

普通はそう思うだろう。


「その通り。具体的に言うと淀みが噴き出して滅びるらしい」

「淀みってそんな、本当に」

「ああ本当にだ。あの世界では淀みに捕らわれた人はゾンビみたいに人を襲うわけでもないから病気扱いになるだろうし対処方法も殺すしかないけどそんな事しないだろ。だから少しでも出たらもう終わりだ。原因不明のゾンビ騒動が終わったと思ったら原因不明の不治の病が蔓延する」


本当に酷い話だ。

世界から隔絶された場所でもない限りは人類は終わる。


「だから何度も言うが愛音が気にする必要はない。女神を信じるのは良いが信じすぎるは辞めておけ。本当に無理はするな。達也君共々少しでも無理と感じたら逃げろ。今日はそれを伝えに来た」


初期設定だけして後は放置。

それがきっちりとしていれば問題ないんだろうがあちこちに穴があるため大変で、そのために俺がいるわけだ。

それを考えると初代勇者達は本当に頑張ったんだろう。


「あの、私ずっと気になっていたんです。アイネ様は日本に生き返るために魔王と戦う事を選ばれたんですよね。しかしアイネ様はこの世界で亡くなられた。けどカーナ様はアイネ様に問題を片付けてもらうために日本に生き返らせた。それってアイネ様の願いが叶えたと言う事ですよね。カーナ様にお力が戻られたと言う事でしょうか」

「いや結構無理やりらしい。アイネがかなり頑張ってしかも聖女だから何とかなったと言ってた」


女神の力は人々の信仰の力。

多分愛音が死んだ時、愛音が世界で1番女神を信じていたんだと思う。

だからそんな無理が出来た。


「うん分かった。ありがとう」


愛音は暗い顔で頷いた。


「俺の話はこれで終わりだ。リッシュも愛音に用があるんだろ」


リッシュは難しい顔をしていた。

内容は聞いてないが愛音に話があると言っていた。

俺の話が終わるとリッシュは立ち上がり愛音の前に跪いて頭を下げた。


「ちょっとリッシュどうしたの。とにかく立ってよ」

「アイネ様。貴女様がカキガハラで沢山の人々から面倒事を頼まれたと聞きました。そして誓約故にそれを断れなかったと。それを知ってこんな事を言う私をどうかお許しください」


驚いた愛音がリッシュの肩に手をかけるがリッシュは動かなかった。


「無理を承知でお願い致します。どうか私の友人をお助けください」


リッシュが絞り出すように声を出した。

確かに愛音は散々聖女様お助けくださいと言われて嫌になったと言っていた。

だからそれを知って聖女に頼む事がどれだけ非礼にあたるのかを考えてそれでも頼んでいる。

その友人がよほど大事なんだろうが多分勘違いしている。


「えっうん良いけど」


愛音の返事は軽かった。

まあそうだろうな。

付き合いは短いけど愛音なら友達の願いくらい叶えてくれると思うし。




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