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突発の仕事



この世界に戻って来て10日程。

俺達は迷宮の41階層でレベル上げを続けていた。

その成果が確実に出ているのが分かる。

レベルが上がるとゲームのようにステータスを見る事は出来ないが強くなったのは何となくわかる。

しかも敵とのレベル差があるせいでもりもり上がる。

これ程テンションが上がる事はない。


「行きます」


リッシュが向かって来る3匹のホワイトファングに走り出した。

そして少し横にずれてすれ違いざまに天秤の針を大きく振り抜いた。

すると悲鳴を上げながら2匹が勢いよく壁に叩きつけられてグチャと嫌な音を立てて後には結晶が転がった。

残った1匹が俺に向かって来るがそれが普通に見えた。


「理力散弾(エーテルショット)」


魔法の直撃を受けたホワイトファングが結晶になった。

続いて大きな音を立てて向かって来るリビングアーマーが2体。


「行きます」


休む間もなくリッシュがそれに走り寄った。

盾を構えたリビングアーマーの脇を走り抜けて後ろから振り返りざまにフルスイングすると轟音を立てて真っすぐ壁に吹き飛んだ。

リッシュはそのまま1回転してもう1体のリビングアーマーも吹き飛ばした。

俺はそこに向かって理力散弾(エーテルショット)。

後には結晶が残った。

問題ないな。


「良い感じですね。これならもっと下にも行けますね」


初見の時はほとんど動きが見えなかった相手だが今は普通に対処出来るようになった、

それにリッシュは魔法を使っていなかった。

リッシュの使う支援魔法の祝福(ブレス)は全ての能力を多分1割程上げる魔法だ。

たかが1割と言うかもしれないがあるとないとでは全く違う。

強敵と戦う時には必須。

それなしで問題なく戦えるようになった。

リッシュの竜爪(ドラゴンクロー)は光っているのでそれは使っているらしい。

あれは純粋に力を高めるのであって反応速度なんかが上がるわけではない。

それを考えればリッシュのレベルもかなり上がっている。

金も結構貯まって来たので転移結晶も買った。


「確かにこれなら下の階に行っても大丈夫そうだな。なら明日から目指すか下の階」

「はい。もう以前の私達とは違います。今度はしっかりと準備して行きましょう」


前の時は事故だったし、まともに戦えなかったからあんなになった。

たまたま探索者はガイアス達しかいなかったから良かったものの、そうでなければ大量殺人してた。

ある意味運が良かった。

ガイアスから聞いた話によるとあの時開けた穴の数々はなくなっているらしい。

迷宮は時間経過で修復されるとの事。

夕方までそのまま戦い、迷宮から出て換金すると2人で30万カナ。

稼ぎとしては十分すぎる。

今なら普通に下の階へ行けるはず。

明日から気合を入れて行くか。

そう思って寝たんだ。

気がついたらいつもの会議室。

テーブルを挟んでローさんが何とも言えない微妙な少し困ったような顔をしている。

厄介ごとの予感がする。


「さてカイさん。次のお仕事です」

「速くありませんか」


とっさに言葉が出てしまった。

いかん。上司に決定に口答えするなど論外。

どんなに嫌でもやれと言われればやらなければならない。

それが社会人だ。


「いえまだ帰って来て間がないので少し驚いただけです」


慌てて言い訳が出た。

だがローさんは申し訳なさそうに口を開いた。


「いえ、カイさんのおっしゃる通りなんです。本当はもう少し後に別の仕事をお願いするつもりでした」


そう言うとため息をついて頭痛を耐えるようにこめかみを指でグリグリしている。

つまり想定外の事態が起こったと。


「タツヤさんの元にアイネさんが行った事により色々、そう色々ずれたんです」

「ああ、なるほど」


愛音の事か。

当然だが愛音とアイメルは交代になった。

同じパーティーに回復役が2人もいらないし、言っては何だが愛音とアイメルでは能力が違いすぎる。

聖女筆頭だったリッシュの魔法でも愛音に遠く及ばないんだ。

少しかわいそうだがアイメルは教会に帰って行った。


「かつて魔王と戦った勇者の仲間の黒騎士を知っていますね」

「話くらいは」


風上さんが話してくれた。

最終的に勇者と一緒に魔王と戦った仲間で攻撃特化だったかな。


「その彼と結婚した一族の末裔を助けてください」


勇者が魔王を倒したのは1000年前の話だから血筋が残っていても不思議はない。

昔のゲームである勇者の血を引く者よとかだろうか。


「彼は魔王を倒した後、とある貴族の娘さんと結婚しました。その家は由緒正しい一族として今も続いています。今その家には2人の娘さんがいまして助けていただきたいのは妹さんです」


貴族か。

この世界に来てから貴族と関わった事はない。

だからどんなものか分からない。

中世のフランスとかみたいだったら最悪なんだが。

貴族に非ずば人に非ずとか。


「いえあそこまでではありません。ある程度の礼を持って接すれば問題ありませんよ」

「それを聞いて安心しました。それで助けるとはどういう意味でしょうか。何からですか」


関わったらアウトとはならないならよし。

だが貴族のお嬢さんを助けるとか何だろうか。

異世界の手引き曰く。

主人公が貴族と関わる場合は馬車が襲われている所を助けるパターンが多い。

当然中から出てくるのは年頃の美少女だ。


「違います」


ローさんはボソッと死んだ魚のような目で言った。


「そもそもピンチに都合よく助けが来るのは創作の中だけです」

「ごもっとも」

「ですが今回は都合とかタイミングとか色々ありましてタツヤさん達と出会いませんでした」

「ああ、愛音ですか」

「はい、アイネさんが優秀すぎてその出会いがなくなりました」


これは責められない。

不幸な事故だ。

まさか愛音にお前が聖女として優秀すぎるからとか文句も言えまい。


「彼女の名はアンセラフィム・デルタ・エイアル。今特殊な迷宮に捕らわれています。おそらくもって7日。どうか彼女を助けてあげてください」





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