勇者と聖女
リッシュが泣き止み落ち着いた所でギルドへ向かった。
そこで1時間程たった頃だろうか。
水を飲みながら待合室の椅子に座っていると見知った顔が入って来た。
今日も迷宮で戦ったのだろうその姿は少し汚れていたが人目を引いく。
「たっくん!」
愛音が飛び出した。
その声に達也君が振り返ると驚愕に目を見開いた。
信じられないと。
「あいちゃん!」
だがすぐに走りよると2人は互いを強く抱きしめた。
感動の再会だった。
2人は抱き合って泣いていた。
若いと言うのは良いもんだ。
俺はそんな年よりじみた事を考えながら2人を見ていた。
その横でリッシュは何やら複雑そうだ。
言いたい事は分かる。
こっちに近づいて来るどす黒いオーラを纏ったアイメルだ。
「どういう事リッシュ。アンタなんか知ってるんでしょ」
地の底から響くような声だった。
俯き加減で顔が見えないがそれはそれは怖い顔をしているだろう。
嚙み締めた奥歯からギリっと音が聞こえた。
どんなに可愛い少女ではあってもこれは怖い。
「あの方はアイネ様。かつてカキガハラで活躍された正真正銘の聖女様です。貴女も聞いた事があるでしょう。使徒様の中には死しても蘇る方がいると。あの方はカーナ様だけでなくロー様のお力添えもあったからこの世界に戻られた」
「嘘。そんなのって」
「仕方ない子ですね」
リッシュがやれやれと肩をすくめた。
「カーナ様に誓いましょう。今の言葉に嘘偽りがないと。あの方は馬鹿共のせいで魔王と戦うと志半ばで命を落とされた。しかしロー様のお導きのおかげでこの世界に戻られた。どこかの誰かと違って本物の聖女様であると」
リッシュが青く光った。
偽物がいるかの言いようだ。
「貴女も知っているでしょう。タツヤ様はあの方ともう一度会うために勇者として戦う事を選ばれた事を」
リッシュが青く光るとアイメルはがっくりと肩を落とした。
少しかわいそうだがこれは仕方ない。
「あの、カイ様ですね。私はソディナ。ソディナ・デルタ・エイアルと申します。ソディナとお呼びください」
「これはご丁寧にどうも。俺はカイ。カイ・スオウだ」
声をかけて来たのは20才くらいの女性。
白いフルプレートの鎧を身に着けた誰がどうみても騎士だった。
腰には細身の剣と左手には大きめの盾。
装備品だけでも相当な重さがあるのにまるで重さを感じさせない。
装備品から魔力を感じるから重さ自体を軽減しているんだろうがそれでもある程度の重さはあるはずだ。
そして美人さんで手足はほっそりとしている。
あれか、筋肉ではなくてファンタジーのよくあるステータスの力の数字的な奴が高いとかか。
彼女は達也君のパーティーメンバーの1人だったはず。
そんなソディナはタツヤ君達を見て何やらもじもじしていた。
「好き合うのに引き裂かれた男女が奇跡の再会を遂げた。この後2人はきっと熱い思いを一晩中ぶつけあうのでしょう。ああ素敵。けど聖女様に子供が出来てしまっては戦えなくなってしまうかもしれない。どうしよかアイメル」
「うるさいわ!」
「ねえナージャ。子供を作らない魔法あるって言ってたわね」
ソディナは一見固いイメージがあるんだがもしかしてこんな感じなのか。
ナージャと呼ばれたのはとんがり帽子をかぶった女の子。
ずっといたのだが一言も話さずにぼけっと立っていた。
そんな彼女はソディナの問いにポケットから小さく薄い赤い紙の袋を取り出した。
「この薬を飲んだ方が手っ取り早い。欲しいならアイメルが沢山持ってるから分けてもらったら」
「む、アイメル沢山持ってるのか。なら少し聖女様にお渡しして来い」
「うるさいわ!」
アイメルが真っ赤になった。
騒がしいが仲は良さそうなパーティーだ。
リッシュがニヤリと獲物を見つけた猫を思わせる顔をした。
これはまたやる気だ。
「なるほど。そんなに沢山の薬を使う予定だったと。アイメルは昔からムッツリでしたね。夜な夜な勇者様の事を思って1人寂しく妄想してたんでしょう。勇者様に君が好きだとか言わて迫られたらどうしようとか」
「うるさいわ!」
図星のようだ。
まあ若いし仕方ないよ。
だが達也君達は有名だからギルド内がかなり騒がしくなってきた。
この辺りで撤収しないとまずいか。
「達也君、愛音。2人とも積もる話もあるだろう。どこか場所を移した方がいい」
「うん、そうする。たっくんお城に住んでるんでしょ。でもアタシはお城って行きたくなんだよ」
「そうなの。でも困ったな。僕は他に泊まれる場所って知らないんだ」
城に愛音が難色を示した、
確かに王様や王子が愛音を良いように縛っていたから嫌にもなるか。
「今日は大聖堂に行くと良い。あっちには話をしてある」
「えっいつの間にそんな事したの」
「何を言ってるのですか。あなたもいたではありませんか。まあ上の空でしたけど」
「ありがとうございます!」
達也君が大きく頭を下げたので周りが騒めいた。
勇者が頭を下げるあいつはなんだと言わんばかりだ。
これは後で何か話を通しておかないと面倒になる。
「私にお任せください。適当に話をまいておきます」
リッシュがそっとそばで囁いた。
「頼むよ」
本当にありがたい。
周りの視線を受けながら俺達はギルドを出た。
ここからは別行動だ。
「俺達はこれで失礼する。達也君。愛音のご両親から頼まれているんだ。守ってやって欲しいと。それは君の役目だ。今回はたまたま助ける事が出来たけど次はもうない。いいか、くだらんしがらみなんか気にするな。いざとなれば立場とか人からの期待とかそんなもん愛音が大事なら捨ててしまえ」
皆が息を飲んだ。
「カイ様しかしそれは」
「カイさん。僕は勇者を辞めるつもりはありませんよ」
ソディナの言葉を達也君が遮った。
俺は達也君は勇者を辞めるつもりだと思っていた。
続ける理由がないからだ。
「僕はあいちゃんに会いたかった。だから女神様に感謝しています。その女神様がおっしゃったんです。出来れば魔王を倒して欲しいと。無理はしなくてもいいけどと」
倒せと言いきらない辺りやさしさを感じる。
会った事はないがカーナさんは魔王とかどう考えてるんだろうか。
「だから僕は出来る限り戦うつもりです。ごめんねあいちゃん」
「ううん大丈夫。素敵よたっくん!そうでなくちゃ!」
愛音が目をキラキラさせて抱き着いた。
それを見るアイメルの目が濁っているのが何とも言えなかった。
「そうか、俺が言う事はないけど無理しないようにね」
「ほらアイメル。薬をアイネ様にお渡ししなさい」
「ううぅぅぅ。どうぞ、アイネ様」
「えっとごめんもうちょっとくれるかな」
「は、はい。ど、どうぞ、全部、お、お持ちください」
アイメルは荷物入れから両手に抱えきれない程取り出して愛音に手渡した。
少しかわいそうだったが皆ドン引きしていた




