魔女の贈り物
リッシュの案内で街の中心部から少し外側へ行く事しばらく。
段々王城が小さくなって来るとその建物が見えてきた。
思えばこっち方面に来たことはなかった。
大聖堂。
そう言われてどんな建物を思い浮かべるだろうか。
ゲームに出てくるような神殿だろうか。
それともローマにあるような建物だろうか。
俺はゲームの方だったが想像していたのとまったく違った。
「ここが大聖堂です」
「カキガハラのとかなり違うわ。あっちはもう少し大きかったし」
リッシュはともかく愛音は特に何も感じないらしい。
見慣れているのか。
でもこれはおかしいだろ。
「どう見てもドーム球場なんだが」
何とかドームとかそんな感じの。
カキガハラの奴はもっと大きいとかワールドベースボールでもやるのかな。
間違っても聖堂とかそんな物ではないと思う。
「そうだよね。アタシも最初そう思った」
愛音もそう思ったらしい。
だがこっちではこれが普通なんだろう。
リッシュが不思議そうな顔をしているからこれ以上はやめておこう。
「正面から入って大丈夫なのか」
「当然です。さあ行きましょう」
正面入り口にはガラス製なのか透明な扉が開かれていて、誰でも入れるようだ。
人の出入りはそこそこあり老若男女様々な人が出入りしていてリッシュを先頭に俺達も入った。
「ようこそ大聖堂へ」
「お久しぶりですキャリさん」
「あらリッシュじゃない。貴女こんなところに来て大丈夫なの」
中に入るとすぐ横に受付のような場所があり、中にリッシュと似た服を着た女性が立っていてリッシュを見て驚いた声を上げた。
キャリと呼ばれた女性の視線が俺達に向けられる。
俺は前に出てとっさに名刺を出そうとしてとどまった。
これは本当に染みついていると改めて思い知らされた。
「失礼。私は周防甲斐。女神様との契約でこの世界に参りました。訳あって大司教様にお会いしたい。可能でしょうか」
小さい声で話すとキャリさんは固まった。
「カイさん正直に名乗って大丈夫なの」
「ああ、大丈夫だよ」
リッシュから聞いた話によると教会は使徒について詳しく知っている。
ならリッシュと組んでる俺の事も当然知っているはずだ。
「失礼しました」
キャリさんが一瞬固まったがすぐに何事もないかのように動き出した。
茶色い髪と茶色い瞳で見たところ20くらいか。
手元のベルのような物を軽く振ると澄んだ音が響き、受付奥の扉から女性が現れた。
「メーデここをお願い。私はこちらのお方を大司教様のもとへご案内します」
「あらリッシュじゃない」
「お久しぶりです。私達はこれで失礼します」
またしてもリッシュの知り合いらしい。
軽く頭を下げてキャリさんの後をついていくと大きな扉に案内された。
「ここからは関係者以外立ち入り禁止区域になります」
扉をくぐると一気に明るくなった。
歩いている廊下が広いく天井も高い。
床は綺麗に磨かれた白い石で、大理石を思わせる。
俺達以外に誰もいないのか足音だけが響いていた。
そしてさっきと同じような大きな扉の前でキャリさんが小さなベルを軽く振ると澄んだ音と共に一瞬パチっと静電気のような感覚がしたかと思ったら、誰もいなくなっていた。
前を歩いていたキャリさんも隣を歩いていた愛音もリッシュもいない。
辺りを見回すが誰もいない。
目の前にあった扉もない。
ただ通路の真ん中に立っていた。
どういう事だ。
あのベルが何かの鍵なのか。
だとしても何だ。
俺達を害する事かと思ったがここは大聖堂だしそれはない。
なら考えれるとすれば、キャリさんのベルはあの場所から転移するための鍵だったか。
この手の奴はたまにゲームである。
しかし問題はそれが2パターンある事だ。
1つ目は特定のアイテムを持っていないと無限ループで進めないやつ。
もう1つは特定のアイテムを使わないと壁とかが動かなくて先に進めないギミックだが今回がどっちか分からん。
おそらく俺だけ取り残されたんだろうな。
けど先に一声かけてもらえていれば俺も一緒に行ったはず。
迷宮でドラゴンに転移陣に押し込まれて時は普通に転移した。
あれは書き換えられたとしても転移陣だったから。
つまりこの手の奴は俺の認識しだいと言う事だ。
問題はこの後どうすればいいか。
「こっちだよ」
女性の声がした。
だがどこからか分からない。
「こっちだって」
またしても女性の声がすると足元に細い光の道が出来た。
これはこれにそって来いと言う事かな。
それにしてもこちらとかもっと分かりやすい方法はないのだろうか。
光の先導で歩くことしばし。
正面に青い扉が見えた。
ここが目的地らしい。
ノックしようとしたら中から扉が開いた。
「待っていたよカイさん。さあ中へ」
通された部屋はまるで控え室のようでせまくテーブルと椅子しかない。
椅子に座るといつのまにか湯呑があり湯気が上がっていた。
湯呑から視線を上げると年のころは20くらいの女性が椅子に座っていた。
いつ現れたのか分からない。
俺が座る時にはいなかったはずだ。
黒い髪に黒い瞳。
顔つきは日本人っぽい。
「では改めて。私は如月春。春ちゃんって呼んでね。驚いたでしょ」
その名前には聞き覚えがある。
だがそれはない。
「いえあの、いきなりそんな事を言われても困るんだが」
「あれ、信じてないな。あなたの事は月ちゃんから聞いてるんだよ」
「月ちゃん」
「そうそう、風上月子ちゃん。向こうで会ったんでしょ。最低の夢だったって。でも最後はすっきりしたて言ってたよ」
それは風上さんが別れ際に言った言葉だ。
なら本物だろうか。
だが1000年前の話だぞ。
「じゃあ種明かしだよ。これは月ちゃんと同じだよ。私にとっては1000年後の夢。あなたとリッシュちゃんと愛音ちゃん。3人を別々にこうして夢に引き込んでるんだよ。この魔法を作った月ちゃんは流石だよ。あなた達は大司教様の所へ移動してる最中の一瞬のはざまに時間を超えて私とこうして会う夢を見てるんだ。このために月ちゃんとグラスの大聖堂に色々仕込んだんだ。あのベルもそうだよ。あなた達以外には何の効果もないけど決まり事としてベルを鳴らす事を教会にそう言い残した。初代聖女が絶対にやってって伝えたからね。今もちゃんとやってくれているなんて信仰は大事だよね」
これが夢だと。
だが風上さんの件もあるしありえない事もないのか。
流石ファンタジー。
「じゃあ役に立つ物を用意するって話だったよね。残念ながら物はないんだ。でも私は女神の冠の力を持っている。これは1回使う毎に物凄い魔力とレベル3%ダウンを引き換えに、この世のあらゆる問いに答えを出せる。この夢の中では私はとっくに死んでるからレベルが下がるとかの心配も遠慮はいらないよ。さあどんな事でも聞いていいよ。魔王の居場所かな。それとも理想の結婚相手かな。何でも1つ答えてあげるよ」
「何でも」
「どんな事でもいいよ」
聞きたい事か。
課長と腰巾着の馬場野があの後どうなったかとか知りたいと一瞬思ったが別にいいや。
もうあんなのどうでもいい。
これがあの世界だったら宝くじ当選番号とか為替相場とかを聞いただろう。
だから困った。
今の俺に知りたい事がない。
そこでふと思い出したことがある。
「俺には聞きたい事がないんだ。だから俺の権利をリッシュに渡したい。リッシュの質問に2つ答えてやって欲しい」
リッシュにはやりたい事があると言っていた。
手に入れたいものもあると。
だったら俺のくだらん質問よりもそっちの方がいいだろ。
春ちゃんは俺の答えが予想外だったのか目に驚きを浮かべていた。
「なるほどなるほど。月ちゃんがそう言うんじゃないかって言ってたけど、本当にそう言うんだね。良いよ。リッシュちゃんの質問に2つ答えてあげる。じゃあね」
春ちゃんが楽しそうに笑うと体に静電気が走ったような感覚がして、気が付くとキャリさんが扉の前にいる。
隣にはリッシュと愛音。
2人ともはっと周りを見渡した。
俺と同じか。
「カイさん。ありがとうございます」
リッシュが俺に大きく頭を下げた。
どうやら役に立ったようだ。
キャリさんが何事かと振り返った。
「ありがとう、ございます。本当に、ありがとうございます」
リッシュは泣いていた。
涙をポロポロこぼこぼして泣いていた。
俺はリッシュの願いが叶うといいなと軽く考えていた。
けどそんなに甘いものではないと考えるべきだった。
リッシュにもっと詳しく聞いておくべきだった。




