魔女との別れ
俺達は風上さんに事の次第を話した。
こちらの事情を簡単には話したが風上さんはとにかく連中を始末したかったらしく詳しく話す前に突っ込んだからだ。
ローさんからの仕事で来た事に愛音の事、元凶を倒した事。
愛音の何となく行かないといけないような気がしたとの事でコンビニに行く途中だった事。
「なるほどね。ならそのリビングデッドになったクソガキを始末すればいいのね」
「そう。でもその前になんかこっちに行かないといけない気がして来たってわけ。月子さんに会ったら気にならなくなったけど」
「聖女の感ね。春ちゃんも何となくってよく言ってしそれに助けられた事もあったわ」
春ちゃんっては初代の聖女か。
愛音がコンビニに行きたいと言っていたのはつまり風上さんに会うのが目的だったと。
実際コンビニはすぐそこだし。
「周防さんそのクソガキどこにいるの」
風上さんは完全にやさぐれている。
学校の先生とはそれ程のものなのか。
いややさぐれ度合いは俺も負けていない。
比べる物ではないか。
方位針を使うとコンビニの裏のマンションを指していた。
そして問題のイジメをして反撃されてリビングデッドにされたクソガキはあっさりと見つかった。
方位針さまさまである。
自由になったのが分かったらしいがマンションの1室に閉じこもって隠れていた。
内容の薄っぺらい漫画なんかだとよくもやりやがったとか言って反撃しようとして返り討ちにされる。
だが現実はそうではない。
徹底的に叩かれたらガキなんぞあっさりと心が折れる。
震えながらぶつぶつと何やら呟いていたが同情など全くわかない。
そいつは愛音の魔法で灰にされた。
外に出ると辺りをうろついていたゾンビは皆倒れて動かなくなっていた。
「今度こそこれで終わりですね」
リッシュが大きく伸びをした。
確かに無駄に色々遠回りした気がする。
「じゃあ行こうよ。お父さん達にはもう挨拶すましてるし」
もちろん愛音の両親は反対したがこればっかりは納得してもらわなければならなかった。
くれぐれも娘をよろしくと言われたがそばにいるのは俺じゃないんだよね。
もちろん出来る限りはするけど。
「なら私はここでお別れね」
風上さんとはここでお別れだ。
そしてもう2度と会うことはない。
「そうだ。魔王いるんでしょ。向こうであなた達に何か残しておくわ。本当に嫌な夢だったけど最後はすっきりしたし」
「それはありがたいですが、私はずっと王都グラスの正道教会にいましたけどツキコ様のお話は勇者様と共に戦った事くらいしか聞いた事がありません。何かを残されたとかも」
「へぇあの国1000年後もあるんだ。そうね、3人で大聖堂へ行きなさい。その条件で何か用意しとくから」
「おお、ありがとうございます」
実に軽い。
だが人との別れなどそんなもんだ。
2度と会えないと分かっていても割とあっさりとしたものになる。
これでもう会う事もないと思った別れはいくつも経験したことがある。
ああ、あれだ。
同じ課に先輩が2人いた。
その年は新入社員として営業1課に俺と徳永が配属された。
徳永はいわゆる陽キャで、研修の時もリーダーをしていたり明るくいつも周りに人がいるような奴だったし俺もそこそこ仲は良かったと思う。
その月は営業飛び込み強化月間とか馬鹿な事をやらされていた。
課長が度胸を付けるためと。
当たり前だがいきなり行って話を聞いてもらえる事などまずない。
そこに1日で名刺を30枚集めて来いと言ったのだ。
毎日毎日歩いてあらゆる店舗に入って営業をかける。
話なんか聞いてもらえずに追い返される。
名刺だって集まらない。
すると課長が怒る。
「本気でやれば名刺なんか簡単に集まるわ!遊んでるだけやろ!」
やってみれば分かるがまず無理だ。
ならお前がやって見せろと言いたかった。
だがまだ新人だった俺は黙って怒られるしかなかった。
するとこれに乗っかるのが腰巾着の馬場野主任。
「お前ら喫茶店とかでさぼってるんじゃないだろうな。まじめにやれよ」
「馬場野さんの言う通りや!馬場野さん何かええ方法ないか」
「そうですね。お前ら3時間毎に会社に連絡して来い。名刺何枚集めたか話しできたか報告しろや」
「ええな。それやったらさぼられへんやろ。明日から報告して来い。それから名刺集めるまで帰ってくんな。分かったな!」
これである。
課長はこっちがどんなにまじめにやっていても自分がさぼってると思ったらそれが正解。
腰巾着の馬場野は絶対に課長の言う事を否定しない。
その頃にはこいつらがどういう奴等か何となく分かってきた。
だがそんな中で俺を労わってくれたのが先輩の山野さんだった。
山野さんは課長が嫌っていたし山野さんもまた課長が嫌いだった。
まああんな課長を好きな奴なんて馬場野主任くらいだ。
次の年度になり社内の人事異動があり山野さんは大阪支店に移動になった。
それはもうルンルンと行った。
俺も残念だがもう会う事は無いと思っていた、
だが課長が某ざわざわする麻雀の漫画にはまって悲劇が起きた。
何せ課内に麻雀が出来る人間は俺を含めて3人しかいない。
そこで課長は山野さんに麻雀をやるから来いと言ったのだ。
仕事が終わった後に大阪から神戸までただ麻雀をやるためだけに。
当然だが山野さんは断った、
だが世話してやっただの恩知らずだの散々怒鳴って無理やり来させた。
本当にひどい。
「あのクソ課長があああ!ふざけんなよ!呼びつけるとか何でそんな酷い出来るんだよ!しかも1回や2回じゃないし!たまの日曜日とかの休みに日にも付き合わせるとかお前、お前ええええ!」
「えっ何事」
「ああ、発作ね。浄化」
愛音の声と共に頭が急に冷えた気がした。
どうやらまた思い出したくもない物を思い出したらしい。
風上さんが俺の手そっとを取った。
「辛かったのね」
その目には涙が浮かんでいた。
ああ分かってくれるんだ。
「はい、でも貴女程では」
ありませんと言おうとした時、足元に何かの魔法陣が浮かんだ。
これは帰還用の奴だな。
風上さんがそっと手を離した。
どうやらお別れのようだ。
「さようなら月子さん。どうか元気でね」
「お世話になりましたツキコ様」
「お元気で。そうだ、恋愛要素頑張ってください」
「周防さんまだ言うのね」
言うとも。
異世界の手引きによると女主人公は恋愛だ。
そして最終的には無理やりでもハッピーエンドになる。
地獄を味わったんなら幸せになってもいいだろう。
風上さんはクスッと笑った。
本当に綺麗な人だ。
光が強くなり目の前が見えなくなり、光が収まったらいつもの部屋。
そして目の前にはローさん。
「おつかれさまでした。これであの世界も落ち着くでしょう」
やれやれと疲れた様子だった。
まあ愛音の事は完全に想定外だったみたいだし。
「アイネさんはタツヤさんの所に連れて行ってあげてください」
「それは構いませんが。達也君魔王と戦うのやめてしまうのではありませんか」
「あぁ、それは、まあ、仕方ないかと思います」
ローさんがどんよりとした顔になった。
愛音ともう一度会うために戦うのにその愛音と会ってしまったら戦う必要がなくなる。
俺なら魔王とか絶対に戦わない。
「とにかく。今回のお仕事は完了です。では報酬です。こちらをどうぞ」
いつの間にか俺の前に茶色いリュックサックがあった。
手に取ってみると革製で何か入っている。
開けて中を覗いてみると何やら筒状の物が1本。
取り出してみると30センチくらいの青い金属製で軽い。
蓋がついていて回して開けてみると中は水が入っている。
水筒かこれは。
「これは聖水の水瓶と呼ばれる神器です。同じ名の魔道具がありますがそれはこれを模したものです。蓋を閉めると自動的に聖水が補充されます。もちろん飲めますし聖水ですから少しですが魔力を回復できますし多少の傷なら回復できます」
それはすごい物なのではないだろうか。
「すごいですよ。では代わりに方位針は返却お願いします」
「あっはい」
借り物だった方位針を返した。
便利だったしこれがなかったら目的を果たせなかっただろう。
「おや、もしかして方位針の方がよかったですか。それなら水瓶は次の機会となりますが」
「いえいえ。水瓶の方がよいです」
「では方位針はこれにて終了です。言うのを忘れていましたが一度手放した神器は二度と手にする事は出来ません。ですからもう一度お尋ねします。水瓶でよろしいですね」
「はい。構いません」
確かに便利だが今後はこっちの方が役に立つだろう。
人探しをする予定はないし。
「あの、このリュックは何でしょうか」
これもすごい物なんだろうか。
「それはただのリュックですよ。特別な力はありませけど頑丈ですからお使いください」
そこでようやく思い出した。
「あの、私は聖女じゃありませんって小説について聞きたいんですが」
俺の言葉にローさんの笑顔が凍り付いた。
「あれ、について、ですか。申し訳ありませんがお答え出来ません」
ある意味予想通りだ。
「ではもう1つ前から気になっていた事があります。勇者は聖女と一緒に戦うと聞きました。でも聖女は世界に愛音を含めて3人。赤井さんは別として、達也君は聖女2人をパーティーに入れて戦うのでしょうか」
守りが強いパーティーになりるが強力だ。
だがローさんは少し困った顔をした。
「残念ながら聖女2人はパーティーを組むことが出来ません。それをやってしまうと聖女としての力が半減します」
「それはどうしてでしょうか」
パーティーは基本的に好きなよう組むものだ。
RPGでも勇者戦士戦士僧侶や勇者僧侶僧侶魔法使いなど世界観によって色々あるものだ。
「この世界ではまったく同じ属性は干渉してしまうからです。属性によっては強くなることもありますが残念ながら聖女の力は半減します」
なるほど。
ずっと気になっていたんだ。
この世界の勇者は1人だが聖女は2人いる事がある。
愛音を見たから分かるが聖女の力は強力だ。
なら一緒に戦えばよいのではないかと。
そこでふと思ったのだ。
「では聖女候補の子は」
「残念ながらアイネさんがタツヤさんと一緒に行くならパーティーから外れてもらう事になるでしょう」
そしてすっと目の前が暗くなり、次の瞬間には最近見慣れた宿の部屋。
手にはさっきもらったリュックがあった。
隣にはリッシュと愛音が倒れていて窓からは夕日が差し込んでいる。
今いつだろうか。
向こうに行ってからどれくらいたっているのか聞くのを忘れた。
しばらくすると2人が目を覚ました。
「お、おお、この街並みは見た事ないけど異世界だね!」
「そうだ。ここは王都グラス。早速だけどどうしようか」
「それはどういう意味でしょうか」
これが結構問題がある。
国同士の問題になりかねない。
「達也君の元に行くのは良い。けど愛音はカキガハラの聖女だ。色々面倒になるんじゃないかと思うんだが。その辺リッシュはどう思う」
まして痴情の縺れで死んだ事になってるし。
それに気づいたのかリッシュが少し考え込んだように見えたがすぐに顔を上げた。
「大司教様にお尋ねするのがよろしいかと思います。今あのお方はこの国の大聖堂におられるはずです」
「それは大丈夫なのか。君は確か破門あつかいだろう」
聖獣に無礼をはたらいて出奔したと本人が言っていたはずだが。
リッシュがあっと声を上げた。
「忘れてました」
「何したのよあんた」
しかし悪い話ではない。
風上さんも何か預けておくと言っていたし。
「行くか大聖堂」




