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才能ある姉妹に埋もれた、じゃないほうヒロインはなぜか俺にだけ懐いてくる  作者: 有明海


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第9話 引きこもり少女が保健室にやって来た

梶原の家に来てから一時間ほど経っていた。


 話してた内容は引きこもりあるあるや、自虐的なものばかりだった。内容は暗いものばかりだが、彼女の口調は対照的に明るいものになっていた。


「ごめん、俺そろそろ帰るわ」


「あ……そっか。久しぶり楽しかった……です」


「いいって無理に敬語使わなくて。俺たちもう友達じゃん」


「う、うん」


 俺がドアから腰を上げドアをノックすると、梶原は顔を少し覗かせた。室内はカーテンも閉めて真っ暗だが、隙間から彼女の顔が見える。


「じゃあな、押しかけてごめん」


「ううん! こちらこそありがとう。あのさ……下まで送るよ」


 引きこもり始めてからずっと閉ざされていたらしい部屋のドアが、さらに大きく開いた。


 まだ目は少し赤いけれど、最初のトゲトゲした空気は嘘のように消え失せていた。


二人で階段を降りると、その音を聞いてかお母さんが顔をのぞかせてくる。


「ごめんね北野くん、郁代が――」


 そこまで言いかけて俺たちと目が合ったお母さんは、言葉を失ってとても驚いた顔をした。向けられている視線は俺じゃなく、隣にいる少女に向けられている。


「ママ、北野さんのこと送ってくる」


 そう言うと、梶原はまだ呆然として何も言えないお母さんの横を、通り過ぎていった。


「お前どれくらい部屋からでてないの?」


「二か月くらいかな。昼夜逆転してるから他の家族とも話さないし」


 二か月ぶりに部屋から出てきた娘の姿を見たら、そりゃあ母親だってあんな顔になるわけだ。


玄関を開けると、冷たい夜の空気が流れ込んできた。外はすっかり暗くなっている。


「ここでいいよ。いきなり外出るのはきついだろ。ありがとな梶原」


「ううん。北野さん……あの、ありがとう。……久しぶり誰かと話せて楽しかった」


「それは良かった。 ほら後ろでお母さんが心配そうに見てるから早く戻ってやれ」


「あのさ、ボク学校行ってみる。今すぐには怖いけど、時間かけてでも行ってみたい」


「そっか……。それなら俺も待ってるわ、今度は学校で会おうな」


「うん! バイバイ」


 手を振って、今度こそ俺は一軒家の門を出た。




 静かな夜の住宅街を駅へと歩きながら、俺はスマホを触っていた。


 いつの間にか、追加されていたアカウントには梶原の名前が入っていた。きっとスマホを貸したときに勝手に追加したのだろう。


 引きこもりのくせに、ちゃっかりしてんな……。


 まぁ別に悪い気分ではない。半ば強制的に連れてこられたが確かに先生方の言う通り、今回は俺が行くのは適任だったのだろう。


 上手くいったし、たぶん。


 梶原の顔を思い出し、そんな風に少しだけ心が軽くなったからだろうか。


 あるいは、あの家族の優しさにあてられてしまったからかもしれない。


 俺は衝動的に、普段なら絶対にかけることのない番号に電話をかけた。


 数回のコール音の後、酷く冷めた声が鼓膜を震わせる。


「もしもし、明美。元気か」


『……何? 電話なんてかけてこないでよ。不快』


「俺、一応兄貴なんだけど」


『……で? 用がないなら切るよ』


「いや、母さんと父さんは元気かなと思って」


『……元気なわけないじゃん、あんたのせいで……っ! 二度とかけてこないで、死ね!!』


 無機質な切断音が静かな住宅街に響き渡る。


 俺は苦笑交じりのため息をつきながら、バッスマホをポケットにしまった。


 あいつは家族を困らせていると自分を責めて泣いていた。


やっぱり俺と梶原は同じ引きこもりでも本質は違うんだな、と思い知らされた。、


  ◇


 梶原の家に訪問してから一週間。

 そう簡単に学校に来るなんてことはなかった。


 俺ごときに会っただけで、彼女が気にしていることを払拭できると思ってもいない。


でもあの後から彼女なりの変化もあったらしく大量のメッセージが毎日届いている。


「光太郎ーうちらの話つまんない?」


 今だってこうやって通知欄には九十九件のメッセージが溜まっている。


「北野の話聞いてる?」


 スマホから顔を上げると、不機嫌な多々良と美緒がいた。美緒に関しては頬を膨らませふてくされている。


「ごめん……なんだっけ」


「聞いてないじゃん! 練習場所の話だよ!」


 確かそんな話をしていた。きっかけは、教室で放課後に幽霊が現れるという話からだ。多々良のダンス練習のために変な噂が立った。


 これの対策としてどこか練習できる場所を探そうという話になったのだ。


「学校だと目立つから他のとこがいいよね」


「公民館とかは? うちの好きな漫画でアイドルが公民館で練習してたよー」


「確かに安いけどお金きつくない? 私はできれば無料のとこがいいかな」


 なかなか悩ましいところだ。ある程度自由に活動できて、高校生の財布にも優しい場所。


「うーん……」


 俺が唸っていると突如ドアが大きく開いた。そこには学年主任の先生と白衣を着た先生がいる。


「いた、北野保健室に来てくれ」


「え、俺ですか?」


「そうだ、お前だ」


 有無を言わせない主任の剣幕に、俺は思わず首をすくめる。


「ちょっと先生! うちら今、大事な作戦会議中なんですけど!」


「北野に何か問題でもあったんですか?」


 すかさず多々良と美緒が不満げな声を上げるが、先生方は困惑したような視線を俺に向けてきた


「いや……お前が先週プリントを届けに行った、一年生の梶原がな。……さっき、保健室に登校してきたんだ」



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