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才能ある姉妹に埋もれた、じゃないほうヒロインはなぜか俺にだけ懐いてくる  作者: 有明海


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第6話 じゃないほう同盟

「ねぇ、北野。これはどういうことかなぁ? となりの子は誰?」


 月曜日の放課後。周りが部活動へいそしむ中、俺は教室の後ろで一人床に正座させられていた。


「はい……」


 平謝りしている相手は、ジト目で俺を見下ろしている多々良奈々絵。


 当然怒られている理由は一昨日の土曜日、渋谷で美緒に多々良の事情をうっかり口に滑らせてしまったから。


「うち、君原美緒! よろしっくー!」


 結局美緒は、文句を言いながらも学校に来てくれた。彼女が学校をサボっていたのは有名だったようで今朝は廊下が騒がしかった。


「この子、隣のクラスの子だよね? 朝から『あなたが、光太郎が言ってた子ね、よろしく』って言われたんだけど。一体、何を話したのかな?」


「……二人の事情が似ているなぁーっと思って。つい口に出してしまったら……」


「ふーん……それはどういう事情?」


「そ、それは……」


 言葉に詰まる俺の横から美緒が助け舟を出すように割って入った。


「私さ、モデルになりたいの。それで『君原のじゃないほう』っていうのを払拭したいの」


 返事に困っていた俺の代わりに、美緒が堂々と答える。


「なるほど……君原ってことは、生徒会長の妹だよね?」


「そういう多々良さんこそ、『じゃないほうの姉』でしょ?」


「……っ」


 多々良の綺麗な瞳が、微かに小刻みに揺れ始める。

 空気が一気に凍りついていくのが肌で分かった


「ち、違うんだ多々良! あいつが勝手に察して――」


「ねぇ君原さん。私はアイドルになりたい」


 多々良は腕を組んだまま、すっと顎を引いて美緒をまっすぐに見据えた。さっきまで動揺で揺れていた瞳には強い光が宿っている。


「……へぇ」


 美緒は小さく声を漏らし、目を細めた。

 張り詰めた沈黙が教室の後ろを支配する。正座したままの俺は、二人の美少女から放たれる目に見えないオーラに押し潰されそうになりながら、ただ固唾をのんで見守ることしかできなかった。


「私がアイドルになりたいのは妹がアイドルだからじゃない。でも私だって周りを見返してやりたい」


「ならお互いに『じゃないほう』同士やることは一緒だね」


「そうね。北野の名前が出たからどういうことかと思ったけど、あなたなら仲良くできそう」


 険悪だった空気はどこへやら、二人の間には奇妙な連帯感のようなものが生まれ始めていた。俺は心の中でそっと胸を撫で下ろす。


 ……足の痺れはもう限界を超えて、感覚がなくなっているけれど。


「同盟は組むけど、光太郎のことは譲らないから。この人、うちの命の恩人だし、これからも色々付き合ってもらう予定だからさ」


「へぇー、なら半分こしましょ。私も必要なのよ、彼のことが」


 ……ちょっと待て。

 今、信じられないくらい恐ろしいパワーワードが聞こえた気がする。


「あの、多々良さん、君原さん……? 半分こって何。俺、人間なんだけど。あと一応、当事者の意思とかそういうのは」


 恐る恐る正座のまま手を挙げると、二人の視線が同時に俺へと突き刺さった。

 さっきまでのトゲトゲしさは消えたはずなのに、なぜか今のほうが目線が厳しい。


「北野は黙ってて。元はと言えば、あなたが口を滑らせたのが原因なんだから」


「そうだよ光太郎。うちを学校に引っ張り出しといて、はいサヨナラなんて許さないからね?」


「いやぁ……」


 真面目な委員長と、隣のクラスのギャル風美少女。

 タイプの違う二人の「じゃないほう」に左右からガッチリと外堀を埋められていいた。どうすればいいんだこれ。


「私は歌とダンスの練習を手伝ってもらう予定」


「うーん私は、なんかメイクとか手伝ってもらおうかなぁー」


「あ、あのそれならお互いで見合えば? 俺メイクもダンスもわからないし」


 我ながら完璧な解決策だと思う。


 同じ「じゃないほう」として、目指すステージは違えど見返したい相手は同じ。女の子同士お互いの練習に付き合い合った方がよっぽど効率が良いはずだ。


「あのね、北野。女の子同士じゃダメなのよ」


「そうそう。ななちゃんに見てもらっても『可愛い、良いんじゃない?』で終わっちゃうもん。うちらが意識しなきゃいけないのは『客観的な他人の目』。つまり、一番フラットで、容赦ない意見をくれる男の視線が必要なの」


 美緒が人差し指をチッチッと振る。


「というわけで、北野の拒否権はない。却下」


「……はい」


「基本は自由でもいいけど一つお願いがある」


「なんですか……多々良さん」


「もし、仮に、万が一にもさ……このことを妹に言ったらどうなるかわかるよね? 私、あなたまでも妹に挙げるつもりないから」


 あなた『まで』って。

 よくわからないが多々良はアイドルの妹と関わってほしくないらしい。


 そもそも、アイドルとこんな俺が関わることもあるはずないのだが。


「あー! ななちゃん、いまズルい! なんか二人だけの世界作ってる!」


 張り詰めた空気をガラリと変えるように、美緒がわざとらしく騒ぎ立てた。


「ちょっと、君原さん、何言ってるのよ」


「うちも! うちもお姉に絶対に教えないでね!」


「関わんないって……先輩なんかと」


 俺の手伝うのが、多々良だけでなくもう一人の『じゃないほう』が増えようだ。

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