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才能ある姉妹に埋もれた、じゃないほうヒロインはなぜか俺にだけ懐いてくる  作者: 有明海


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第4話 ギャルはモデルになりたいらしい

 俺は、東京のことをよく分かっていない。


 中学の頃は遠出をして遊びに行くようなこともなかったので、ニュースで見るような「大都会東京」というものを知らないまま育った。


 これまで狭い世界で閉じていた反動からか、こうして高校生になり、少し背伸びをして渋谷に足を運んでいる。


 一人暮らしの高校生なので大してお金はないが、ウィンドウショッピングをしたり、有名な大きな交差点を我が物顔で歩くと、優越感に浸ることができた。


 だが、そんな景色の中で見知ったものが目に入ると、その高揚した気分も一瞬でぶち壊されるものだ。


 あれって……うちの学校の制服か? 土曜日なのに。


 スクランブル交差点を渡っている最中、ビルに掲げられた大型ビジョンの下に、見知った服装の女子が立っているのが見えた。


 ふわりと巻かれた胡桃色のセミロングに、蜂蜜色の大きな瞳。身長は少し低いがそれがまた、いかにも親しみやすそうなオーラを出している。


 だからと言って声をかけるわけではないが、多少は気になってしまう。彼女はスマホと周りを交互に見ながら、誰かを待っているようだった。



 一通り店を見て回り、ソフトクリームとホットドッグを食べ終わった頃。

 そろそろ駅の反対側へ行こうと交差点の近くまで戻ってきたとき、俺は思わず足を止めた。


 交差点の近くには、まだあの制服の女子が立っていた。


 けれど、さっきと様子が違う。そこには彼氏らしき若い男の姿もあったが、どういうわけか二人は何か言い合いをしているようだった。


 雑踏の隙間を縫って、少女の鋭い声がこっちの耳に届く。


「スカウトなら名刺出してよ! そのつもりで来たんだけど!」


「今、名刺切らしてるんだよ。ほら、少しあっちで休憩して話そうよ」


 ……前言撤回、あれは彼氏と言えるものではないだろう。


 周囲の人間は、渋谷では珍しくもない光景だとばかりに、誰もが関わらないように素通りしていく。


 ここではその他大勢の一人として通り過ぎるべきだろう。ぶっちゃけ巻き込まれたらめんどくさい。


 名前も知らない女子の自業自得なトラブルに首を突っ込む義理なんてどこにもない。


 ――ないはずなのに。


「すみませんー」


 気づいた時には、身体は勝手に動いていた。


 ため息を吐きながら二人の間に割り込み、男の伸ばしかけていた手を体躯で遮る。そして、驚きで蜂蜜色の瞳を丸くしている少女の手首を、男よりも先に、迷いなく掴んだ。


「な、何あんた。誰?」


 男が露骨に不快そうな顔をして俺を睨みつけてくる。


「すみません。友達が困っているようだったので。たまたま、見つけて、なぁ?」


 無理やり、彼女の方に向いて頷きを促す。


「う、うん……」


 よかったここで否定されたら余計めんどくさいことになる。


「スカウトって言うなら証拠出した方がいいかと。あまりにも強引なのは……」


「証拠って……お前には関係ないだろ?」


「ありますよ。大事な友達ですから」


 笑顔でそれだけ言うと、掴んだ少女の手を引いて歩き出した。


 背後から男の声が聞こえたが、スクランブル交差点を渡る人の波に紛れてしまえば、追ってくる気配はすぐに消えた。


 ハチ公前の騒がしいエリアを抜け、少し離れた高架下の手前まで一気に歩いたところでようやく足を止めて彼女の手を離した。


「ケガとかは?」


「だ、大丈夫……えっと……」


 振り返ると、少女は赤くなった手首をさすりながら、今度は警戒心に満ちた視線を向けてきた。


 そういえばまだ名前も名乗っていない。彼女からすれば、いきなり割り込んできて自分を連れ去った俺も、あの男と同類の不審者に見えるのだろう。


「北野光太郎。君と同じ学校だ……と思う。これ、学生証」


 安心させるために財布から学生証を取り出して見せると、彼女は俺と学生証の顔を交互に見つめてきた。


「あ……本当に同じ学校だ。隣のクラスだ」


 ということは、やはり彼女は同じ学校で、しかも同じ学年の女子だったわけだ。


「うちは、君原美緒。さっきは助けてくれてありがとう」


 その名前に、これといった身に覚えはなかった。ただ、君原という苗字には確かな聞き覚えがあった。確か――。


「生徒会長の妹。君原の『じゃないほう』だよ」


 自嘲気味にそう言って、突き放すようにフッと笑った。


 確かに生徒会長の名前はいい意味でも悪い意味でも知られている。革新的な改革を掲げ、時には教員にたてつきながらも結局最後は上手くいく。その美貌も相まって、男女問わずファンの多いという生徒会長だ。


 ただ、その妹の存在は認識していなかった。顔すら見たことなかった。


「君原、よろしくね」


「……君原って呼ばないで。あなたもどうせ『じゃないほう』って思ってるんでしょ?」


 君原はトゲのある視線で俺を睨みつけてきた。


「思ってないよ? 俺、生徒会長のことよく知らないし」


「え?」


 予想外すぎる返答だったのか、瞳をパチくりとさせて動きを止めた。


「関わったこともないのに、その妹を『じゃないほう』なんて思いようがないだろ。ごめんだけど、君のことも初めて見たし」


「……」


「ところで何してんだ? 渋谷で制服で」


「それは……」


 急にバツが悪そうに視線を泳がせ、口をモゴモゴと動かした。


「あ、無理に言わなくていいわ、なんか色々あるんだろうし。ただパパ活とかそういうのは――」


「違う! あ、あのさ……絶対笑わない?」


「何言われても笑わないって。てか、言いたくないなら無理に言わなくても――」


「わ、私さ、モデルになりたいんだよね! 雑誌に載ってみんなが憧れるようなファッションモデルに!」


「おーっと」


 どうやら最近の高校生女子は、モデルやアイドルに憧れるものらしい。

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