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才能ある姉妹に埋もれた、じゃないほうヒロインはなぜか俺にだけ懐いてくる  作者: 有明海


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第3話 委員長とカラオケ帰り道

 カラオケを出ると、七時を過ぎていた。部活終わりの時間帯なのもあり、同じ制服の生徒がまばらにいる。


 そして学校近くなのもあって、俺たちの姿も道ゆく人の目に入っているのだろう。


「『じゃないほう』でも、わかる人にはわかるみたい。ごめん」


 多々良の小さな声に反応し、周りを見渡すと数人がチラチラとこちらを見ていた。『じゃないほうの姉』が男と歩いているからなのか、やけに注目されている。


「別に大丈夫。昔から他人に妬み嫉みを向けられるのには慣れてるし」


「……気遣ってくれてありがと」


 さっきまで曇っていた顔が晴れ、多々良の表情には少し笑顔が戻ってきた。

 こちらとしても、気遣って言ったわけではない。でも彼女がプラスに捉えてくれたならいいだろうと、心の中で納得した。


 駅前に歩くまで向けられる視線の気まずさもあり、カラオケ中に気になっていたことを口にした。


「多々良って、あのアイドルグループ好きなの? 今日歌ってたの、全部そうでしょ」


「うん、大好き。私がアイドルになりたいのも、昔からそのメンバーに憧れてなんだよね」


 カラオケ内でのあの歌唱も納得できる。テレビで聞いたものと似ていた歌声も、きっとそれがあったのだろう。


「だから、あんなに入れてたのか。最近の曲も一切入れなかったし」


「最近の曲も聞くんだけど……なんか眩しいなって」


「……そっか」


 正直なところ、ピンとは来なかった。音楽自体を「有名だ」とか、「いいメロディ」だなくらいにしか感じない俺にとって、眩しいという感想は出てこない。


「ねぇ北野って、放課後は暇だよね。部活入ってないんだから」


「暇……まぁ暇か」


「たまにでいいからさ付き合ってよ練習」


 昨日今日と、彼女が求めるようなまともなアドバイスはできたと思えない。「わからない」や「普通」といったありきたりで、誰でもいえる言葉を口にしただけ。


 それなのにリピートを求められたのは、意外だった。


「俺でいいの? ダンス部とか吹奏楽部の奴に頼んだ方が、素人の俺よりいいと――」


「北野がいい」


 遮るように、まっすぐな声が鼓膜を叩いた。


「……」


「……信用してるの。今日も熱心に聴いてくれた」


「まぁ、奢ってもらってるから流石にね」


「それでも嬉しかった。昔の曲なんて興味ないだろうに、スマホ見ないで手拍子までしてくれたし」


 どうやら無意識にしていた行動が、彼女には相当嬉しかったらしい。確かにスマホを触ることも考えはした。でもそれをしなかったのは、彼女の一生懸命さをどこか軽んじている気がしたから。


 そしてシンプルにカラオケという場の新鮮さに圧倒されていたのもあったからだ。


「多々良がそう思ってくれたならよかったよ。……わかった、俺にできることなら今後手伝うよ」


「ありがと。それならまたカラオケ付き合ってよ。あんたに負けっぱなしも癪だしね」


「いいよ、望むところだ」


 いつの間にか、歩いていたら駅前が見えてきていた。


「そういえばさ多々良ん家、門限とか大丈夫?」


「私は大丈夫。お母さんはテレビ局にお迎えで、お父さんは仕事だろうから門限とかないに等しいし」


「妹のか」


 テレビ局へのお迎えとは、さすが芸能人の家族を持つとそんなこともあるのか。


「そんなとこ。北野こそ門限は?」


「俺は、一人暮らしだから大丈夫」


「そっか……地元こっちじゃないんだっけ?」


「ん、違うよ? 東京の西の方だけど」


「え? でも北野って、青森の高校から来たんじゃないの? 高一の時」


 確かに俺は、わけあって一時期青森の高校に通っていた。でも、ここら辺の事情は、誰にも聞かれてなかったのと説明がめんどくさすぎて誰にも言っていなかった。


「あー……それは色々あったんだよね」


「ふーん。暴力とか犯罪じゃないよね?」


「そういうのじゃないから! ホームシック的な奴でさ……」


「ホームシックって、高校生にもなって」


「いいだろ。東京が恋しくなったんだよ」


「ふーん……まぁ、そういうことにしておいてあげる」


 多々良は小さく笑うと、それ以上は追及してこなかった。踏み込みすぎないその絶妙な距離感がとってもありがたい。


「じゃあ、また来週ね」


「気を付けてな」


 彼女が階段を上って見えなくなったのを確認してから、俺は駅を後にした。


 ◇


 駅から十分ほど歩いたアパート、ここは光太郎の現在の寝床だ。


 鍵を開けて中に入ると、当然ながら「おかえり」という声はない。暗がりのなかに、一人暮らし用の最低限の家具だけが静かに佇んでいる。


 電気をつけ、適当なところにバッグを置き、ベッドに寝っ転がる。


 スマホを取り出すと、今朝追加されたアカウントからメッセージが来ていた。


『これ、私が今日歌った曲のプレイリストだから』


 送られてきたメッセージに添付されたURLを開くと、『好きなアイドル曲20選』っと書かれたプレイリストだった。


 入っている曲はどれも、ポップな物ばかりでクールな印象を抱く彼女の容姿から想像できるものではない。


 スクロールしていくと一番最後には、今一番話題のアイドルグループの曲が入っている。


 これって……確か、多々良妹のいるグループ。


 アイドルに詳しくない俺でも、これだけは知っている。クラスメイトたちが耳にタコができるくらい、そのグループについて話していたからだ。


「妹のこと、完全に嫌いってわけじゃないのか。……なんか、安心した」


 多々良のプレイリストの再生ボタンを押した。

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