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才能ある姉妹に埋もれた、じゃないほうヒロインはなぜか俺にだけ懐いてくる  作者: 有明海


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第2話 委員長とカラオケ

 翌朝の教室。

 机に向かうまでの間に、いつも通りクラスメイトに声をかけながら、窓際の席に向かった。


「おはよ、光太郎」


「おはよー」


 隣の席の芥川進は顔を合わせるたびこうやって挨拶してくれる、クラスメイトだ。去年は違うクラスだったが、席が近くなったことでこうやって話すことになった。


「光太郎、知ってる? この教室の変な噂」


「噂? 俺、幽霊とか怖いの無理なんだけど」


「それがさ、放課後のこの教室に出るんだって」


「えぇ、最悪……見間違えじゃね? 部活終わりで疲れてたとか」


「なんか、変な激しい動きしてる幽霊が出るんだって。しかも部活終わりを見計らって消えるんだって」


「……」


 それはきっと幽霊じゃなく、委員長だ。というかそんな噂がたつほどなのか。


「そ、それは怖いな、あー。今日からすぐ帰ることにしようかなぁ……」


「そうした方がいいよ。なんか先生もそれ聞いて貴重品の管理に気をつけろって言ってたしね」


 それとなく、噂の幽霊に伝えとくかと思いスマホを開くと一件のメッセージが届いていた。それは都合よく多々良からだった。どこでアカウントを追加したかと思うが、おおかたクラスグループからだろう。


『今日の放課後、カラオケに行きましょ。奢るから練習付き合って』


 顔を上げ、前の方を向くと席に座っている多々良と目が合う。右手に持ったスマホを指さしてくる。


『二人でだけどいいでしょ?』


 二人きり……?

 思わず画面を凝視したまま固まってしまう。女子と二人でカラオケなんて、これまでの人生で一度もない。


 でも昨日のこともあるし、せっかく誘ってくれたんだし……。


 結局、迷いながらも指を動かしメッセージを送った。


 ◇


「学生フリータイム二人、機種はなんでもいいです」


 受付を済ませてグラスを受け取り、二人でドリンクバーコーナーまで歩いていく。

 カラオケ自体、こっちの高校に入ってから誘われることは多かったが、実際に来るのは初めてであたりをキョロキョロと見渡してしまう。


「なんかさ北野って……女慣れしてる?」


 機械のウーロン茶のボタンを押している横で、多々良が顔を覗かせながら尋ねてきた。


「え、なんで?」


 一応初めての経験なので少しは緊張しているのだが、どうやらそれは多々良には通じていないらしい。むしろ真逆に捉えられてしまっているようだ。


「二人でカラオケっていうのもオッケーしてくれたし。私のこと……襲わないよね?」


「襲うかー! というか、そっちからカラオケ行こって誘ってきたんだろ」


「そうだけどさぁ……まぁいいや。襲わないなら」


 どうやらあらぬ勘違いをされているらしいが、まったくもって下心などない。一人の男子高校生としてそれなりの欲はあるが、「クラスの女子に遊びに誘われたから」という理由で勘違いするほどでもない。


 あくまでこれは昨日のことを見てしまったことによる、不可抗力的なものだ。


「女子慣れしてるように見えるとしたら、一個下に妹がいるからかな。多少はそいつの影響もあるかも」


「へぇー、北野って妹がいるんだ。うちと一緒じゃん」


「まぁ、仲良くないんだけどね。嫌われているし俺」


 そんな雑談をしていると、案内された部屋に着いた。


 部屋は二人での利用だというのに、やけに広い部屋だった。部屋の形に添うように置かれたソファーに、壁一面に広がるモニター。初めての光景に落ち着かずソワソワしてしまう。


「よし、歌いますーか」


 多々良は俺の対面に座るなり、デンモクとマイクをテーブルの上に置いた。


 そしてデンモクで何かを入力すると、正面のモニターに曲名が表示される。


 そこに表示されたのは、俺達が生まれた頃に流行った、女性アイドルグループの曲。確か音楽番組の特集などで耳にしたことがある。


 これだったら、自分のような素人でも上手下手が分かるだろう。


「一曲目、どうだったか感想教えてよ」


 多々良は一息つき、立ち上がるとマイクを近づけた。




「ねぇ、どうだった?」


「うーん……」


 困った。それはモニターに表示される七十六点の文字が物語っているがお世辞にも上手とは言えない。普通だ。


 確かに歌声はそのアイドル達に似ていたが、音程が合っておらず歌い出しのリズムがずれているため、絶妙にちぐはぐ。

 だからこそ素直に言ってよいものか、迷ってしまう。


「正直に言って」


「はい……歌声は綺麗だと思うけど、なんか普通……かな」


「そうよねぇ……昔から練習しているのに難しいのよね。音程を上手く取れない」


 そう言うとデンモクを片手に持ち、多々良は腰を掛けてきた。


「次、北野なんかいれなよ」


「えぇ、いいよ俺は」


 これと言って好きな音楽や歌手もないし、歌いたいという気持ちは微塵もない。


 今日だって、多々良の曲を聞いていればいいかと楽観的に考えていた。だからいざ実際に何か歌えと言われると困ってしまう。


「私の金で来てるんだから歌ってよ。フリータイムだから私一人で歌い続けるのも辛い」


 強引にマイクを押しつけてくる多々良に、俺は流されるようにマイクを手にしてしまう。


「うーん……じゃあ多々良が今歌ったアイドルの別の曲入れるか。下手でも馬鹿にしないでな?」


「しないから! ほら」




 結果は九六点。多々良の点数よりちょうど二十点高かった。この結果は想定外。恐る恐るモニターから目を離すとそこには般若がいた。


「煽りよね、下手でも馬鹿にしないっでってどういうこと?」


 離れて座っていたはずなのに、こちらにずんずんと近づいてくる。


「本当に初めてなんだよ。そもそもカラオケだって今日初めて来たんだし……」


「ふーんどうだか。……頭きた、この後も私につきあってもらうから」


 ジト目で向けられてくる圧に抗うこともできず、無言で頷くことしかできなかった。

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