誰もかれも誤解だと叫ぶが
砦の地下牢は刑務所並みに沢山の牢がしつらえられていた。
いざ戦争になった時に捕らえた敵兵を押し込めるためだそうだが、戦争中でない今は王子達と彼を護衛していた近衛兵がそこに入れられていた。
六人の近衛兵は二つの房に三人ずつ、そして近衛兵達が入った牢と通路を挟んだ向かいには王子達三人を。
全員の首には、魔法無効効果のある首輪が嵌っている。
全員同じ扱いであるのは、ここに貴賓牢が無いからではない。
「罪を犯した者は平等に裁かれる、それだけだ」
私、カイのそういうところは大好きよ。
さて、王子達が込められた房を覗けば、たった一晩地下牢で過ごしただけで、王子達は完全に仲違いしてしまっていたようだ。
私の元婚約者、ケイン・ゼーリジュ。
第三王子様のラティム。
騎士団長の息子のアルバン・キーニ。
狭い牢屋なのに、それぞれが目一杯距離を取って座っていたのだ。
男子の友情って、脆っ!
それでも四隅にそれぞれが行かなかったのは、部屋の四隅こそ汚れが溜まっているからだろう。埃だけならまだしも、小さな蜘蛛の巣とか、何の生き物のものかわからない小さなフンとか、召使にかしずかれていたご子息様方が我慢できるはずはない。
牢屋の中でうずくまっていた彼らは、私とカイヴァーンが地下に降りるや一斉に顔を私達に向けた。――あら、私個人に? その視線は私に助けて欲しいの?
ガチャン。
ケインが牢の鉄柵にしがみ付いた。
そりゃもう必死なご面相を私に向けて。
男性の友情は女性のものよりも崇高で絆の深いもの。
ケインさまこそが、そんなセリフを私に吐いたのではなかったかしら。ついでに、お前のような女と婚約していたこと恥とか仰ってらっしゃいましたよね。
「心の声が出てる出てる」
カイヴァーンによる呆れ声に、私はアラと口元を右手で押さえた。
喋れなくなる呪いを俺も使いたいな、とか、あなたの心の声だって出てますわよ。
「グローリア。俺は知らなかったんだ。誤解だった」
ケインはそう嘆願したかと思えば、同じ牢の中の殿下に向けて蔑みといえる視線を向けた。それからまっすぐに私に向き直る。
「騙されていたんだ。許してくれ。俺は殿下達の言い分を信じたんだ」
「それは、私とあなたの婚約破棄のこと? あれはあなたの腕にぶら下がっていた女性と結婚したいからという、あなた個人の考えで願いだった気がしますけど」
「っ!!」
ケインは言葉を失い真っ赤になった。
しかしすぐに私のセリフで私が彼に未練があると思い込んだ顔をしたので、私は思いっきり馬鹿にした目つきで笑ってやる。ついでにカイヴァーンに腕を絡めて寄りかかり、思いっきりカイヴァーンにうっとりしている顔を作る。無理に作らなくても、カイヴァーンの顔も体つきも、ふふ、最高なのよね。
「私への思いは誤解のままでいいのよ。おかげで私は本当の男を手に入れた」
「「ぐっ」」
ケインだけでなく、カイヴァーンまで変な声を出すなんて!!
イラっとした気持ちで、ケインの顔の真ん前の鉄柵を叩く。
「うわっ」
「ふふ。顔を叩いてやりたいわ。だって、あの哀れな特待生が死んでしまったのは私のせいだって誤解はひどすぎるもの。ねえ、ケイン」
「あ、ああ。そうだ。誤解だった。まさか、殿下が彼女を殺していたなんて」
「聞き捨てならない! 私は殺していない!」
ラティムは勢いよく立ち上がり叫び、それに呼応するようにアルバンも立ち上がる。まるでお芝居のセリフ回しみたいだ。
「俺だってもだ!!だが違うなら、どうして殿下は近衛にあんなことを命じたんだ!!俺は、だから俺は殿下が」
「私はあんなことを近衛には命じてはいない!!」
ラティムは大きく叫んだ。それから、ケインのように鉄柵にしがみ付くと、今度は向かいの牢に入っている彼の近衛兵達を睨む。
そして。
「私はお前たちにあんなことは命じていなかったはずだ!!」
近衛に向かって怒鳴った。
私とカイヴァーンは視線を交わす。どうしようかって。
彼は軽く肩をすくめてから私から離れ、近衛兵達を押し込めていた二つの牢の向かって右側へと近づき。
「「「があっ」」」
牢の中の近衛達、その三人が、牢の床にカエルみたいに押しつぶされた。
風の魔法? すごいわ。
「グリ。こいつらの意識を探れ。こいつら全員から読み取れなくとも、まだ新鮮な三人が残っている」
新鮮な三人?
潰されている三人の見開いた瞳は恐怖ばかりだ。でもって隣の房のまだ何もされていない三人こそ、カイヴァーンの言葉で震えあがっているなんて。
「では、潰れた三人の誰から記憶を引きずり出しましょうか。ねえ、この中で既婚者はいらっしゃる? 壊れてしまっても面倒を見てくれる相手がいる方の方が良いでしょう」
「「「貴方には血も涙もないのか!!」」」
近衛兵達が罵ってくるのは敵だから当たり前だけど、カイヴァーンこそ怯えた視線を私に向けるのはやめてほしいわね。
私は結局新たな廃人を作らなかった。
近衛兵は王子達と違って仲間思いのようで、私が誰かに触れる前に次々と知っていることを吐いてくれたのである。
殿下達がやりすぎたから後を頼みます、と、金髪で緑色の瞳をした可愛らしい外見の女の子に頼まれたから、と。
私は納得などは少々どころか全くできなかった。
廃人にした近衛兵から引き出したあの記憶、空に映し出された殺された少女の姿は、それはもう痛ましいどころではなかったのだ。華奢で小柄なあの少女は誰にも助けられることはなく暴行を受け、そして亡くなった後も誰にも同情されずに遺体を物のようにして処分されたのだ。魔物討伐になれた騎士だから、敵兵を屠ってきた騎士だから、死を簡単に受け入れられる?
あの子は魔物でも敵兵でもない、一般人の無辜の民なのよ。
「信じるの?」
「まずはこれでいい。貴方の美しい手をわざわざ煩わせるまでもない」
カイヴァーンは私の手を捧げ持ち、私の手の甲に唇を落とした。
そして彼は王子達を解放した。
「この地にとどまるな、行くべきところに行け」と。
私はカイヴァーンの決定に抗わなかった。
カイヴァーンの無表情すぎる表情がちゃんと語っているのだ。
このままでは済まさない、と。
でも、カイヴァーンが私に何も告げずに消えていなくなるなんて。
なんてひどい裏切り。




