呪われた魔女と地獄の犬は
手枷を嵌められた私は四人の騎士を無力化してやったけれど、ついには転がされて残った騎士に囲まれて背中を鞘付きの剣で押さえつけられて地面に押し付けられているって状況。
そんな私の状況にホッと安堵したからか、私を近くで罵りたいからか、第三王子様のラティムは側近やそばに控える騎士達から一歩前に出てしまった。
それでラティムはカイヴァーンの土壁によって側近達と騎士と切り離されて、完全に独りきり、という現在。
私はカイヴァーンを罵倒したい気持ちでいっぱいだった。
私が暴れたせいで全然計画通りじゃなくなったから、かもだけど、貴方ちょっとひどすぎるわ。
ラティム孤立というこの状況を作るためだとしても、ひどくありませんか?
私を地面に押し付ける奴らはそのままじゃないの!!
「はくはく」
罵りたいのに声が出ない!!
カイヴァーンを睨むが、すぐに私は目を反らした。
彼は恐ろしい兵士状態だった。
怒りで我を忘れている?
どうして?
そもそも私をラティム達に捕らえさせて、そしたらたぶん私に呪いをかけた奴が私をあざ笑うために自己申告してくるだろうから、「触ってみる」という計画だった。カイヴァーンは捕まらずに私を見送るだけって自分で決めたくせに。
なのに「不敬罪」で拘束されるセリフを吐くなんて。ダメでしょう。
暴れた私が悪い? だって、あなたが捕まったらと思ったら、あなたの「不敬罪なセリフ」を有耶無耶にできるぐらいに暴れなきゃって思ったの。
捕まえられた私を脱獄させるために、カイヴァーンは自由でいなきゃいけないって自分で言っていたくせに。近衛特殊部隊地獄狼隊はどんな時も冷徹な判断ができるのではなくって?
暴れる私に足をかけて転がせて、今の私の状況をつくったのも貴方でしょう。
なのにどうして、と再びカイヴァーンを見返す。
彼はラティムの足を折れる勢いで蹴り払い、ラティムを地面に膝をつかせた。それから右手でラティムの頭をがっしりと掴み、ラティムが立てない様に力を込めている。――ラティムの騎士達はラティムを助けたくとも、カイヴァーンが作った彼らを囲む土の壁にて手出しはできない、わね。
うう、冷徹だわ。
私を地面に押さえつけている奴らは、大事な王子が人質にされて動けなくなっている。――大事な王子が人質にされた動けなくなったからよね。カイヴァーンが怖いわけじゃないわよね。
「あれがガルム隊長か」
「すさまじいな。同時に二種の魔法発動ができるなんて」
怯えている怯えている。そうよ、あの怖い男は私の男なのよ!!
「うっ」
ラティムがくぐもった苦悶の声を上げた。
ラティムの頭を掴んだ上でつま先でラティムの背骨に体重をかけている! 地面に転ばされて背中に剣を当てられている私よりも、きっとラティムは痛いはず。
こわ。
「兄様は悲しいよ。弟がこんなにもくずだなんて」
「うう。お、お前に、何がわかる!!下賤な女の腹から生まれたお前に何がわかる! 自由に好き勝手しているお前に!!」
「――ああ、王族の気持ちなんてわからないよ。ありがたいことに。わかってしまったら、あの父そっくりになってしまうのだろうからな」
「――い、いいや。父を狂わせたのは、いつ、いつだって下賤女の仕業だよ。冤罪を生み出して、何もしていない母に罪を被せた。あの女。財宝と王の寵姫という地位に目がくらんだあの女が、自作自演の呪いの罪を母に被せたんだ!!」
「そうか」
「だから」
「だから、自分が下賤の女に惹かれてしまったことが許せないんだな?」
「なにを」
バフンッ。
土壁の一部に勢いよく穴が開いた。
「そこまでです。殿下を御放しください」
そこに凛とした声が響いた。しかし偉そうな声を出したくせに、最初に出てきたのは護衛役の騎士だった。その騎士の後ろから声の主が、そろそろと出てきた、とは。
カイヴァーンは彼らの行動を、まるで児戯だという風に鼻で笑う。
けれど穴倉から出てみれば意外と安全な状況で安心したのか、出てきたばかりの宮廷魔術師の息子殿、シュトレイン・ハリアーは、カイヴァーンの土壁を開けた己の魔力を誇るようにしてカイヴァーンに杖を向けた。
杖の先には古代呪文が帯になってぐるぐると巻き付いている。
「今だっ」
「えっ」
シュトレインを守っていた騎士が、足元から出現した土壁で覆われた。
取り残されたシュトレイン。
それで彼の気がそがれ、杖の先から古代呪文がぱっと消えた。
私だって自由になった。
私を抑えつけていた男達がカイヴァーンが起こした強い風によってふっとばされ、私の手枷だって勢いよく割れたのだ。
カイヴァーンの号令は、私へのものだった。
自由になった私は立ち上がり、いざ、と、シュトレインへむかってひた走る。
「遅いって」
カイヴァーンのまぬ抜けた声! ひどくない? 私はドレスを着た淑女なのよ!
でも、シュトレインが態勢を取り戻すことはなかった。
「わんわんわん!」
「何だ。この犬は、放せ!」
足の遅い私のために、アブの愛犬がシュトレインを逃すまいと奴の足首に噛みついてくれたのだ。おかげで私は若き魔法使い様へと近づけたし、悠々と彼の肩をポンと叩けた。
「あっ」
ボシュウウウウウウウム。
空に記憶の窓ができた。
窓に映るのは、魔術師どころか国では禁止されている、呪い、の魔法陣。
それが空にぱっと霧散した。
シュトレインが崩れ落ちた。
「一から出直しましょうね」
私には声が戻った。
私は呪いを剥がすことができる。
私は観衆の中に潜んでいた小さな影、アブとアブを唆して犬を放させたバイラムに、最高の笑顔に見えるように微笑んだ。




