王子再び
カイヴァーンが物凄く阿漕であるのか、単に第三王子達が間抜けすぎるのか。
カイヴァーンが私に約束してくれたように、なんと第三王子達が私をしっかりと呪ってくれたのだ。どうやって唆したの?
それでもって王子達が私に掛けた呪いは、喋ることができなくなる呪いだった。これから冤罪で処刑台に送る魔女に施すには最適なものと言えよう。
さて私が呪われた二日後に、正式な罪人の引渡書を持ったラティムが、第三王子として十人もの近衛の騎士を引き連れて砦にやってきた。
騎士を引き連れて私をひっ捕らえに来た彼ら四人、ラティムに私の元婚約者だったケイン・ゼーリジュと側近二人は、先日とは違って普通の貴族令息にしか見えない格好だった。騎士団長の息子のアルバン・キーニは騎士っぽい私服、宮廷魔術師団長の息子のシュトレイン・ハリアーは肩にマジックローブを掛けているっていう、彼ららしい格好。
異端審問官ごっこは止めたようだ。
「根性ねえな」
カイヴァーンの呟きは聞き流そう。
汚い言葉を聞かせたくないアブもバイラム君も、今はこの場にはいない。城の奥深く、一番安全な辺境伯の寝室に閉じ込めておいたのだ。計画通りといっても、私が引っ立てられる姿など幼子に見せたくない。
がちゃん。
あら。手枷を嵌められるのは想定内だけど、嵌めてきたのが木枷だなんて。
断頭台の固定台みたいに私の両手は四角い板に固定され、それを私に嵌めた騎士は私に対して嘲りの笑顔を見せたと思ったら――。
「はふっ」
呪いで苦悶の声は出せないが、痛みを受ければ息ぐらい吐きだしてしまう。
木枷がちゃんと私を拘束しているかの確認として、枷を嵌めた騎士がわざと木枠を捩じってくれたのだ。――この枷で私の手首ぐらい簡単にねじ折れるぞって脅しと嫌がらせだろう。それと、私への脅し。木枠の橋を掴んでいれば、私の指先が拷問者に届きはしないだろって、脅し。大人しくしていろってやつ。
声も出せない女に。
こんなくだらない男を騎士にしたのは誰よ。ああそうね、王子のラティムも高位貴族の王子の側近達こそ見下げはてた人間だものね。私の苦境を、声を出さなくとも口角をあげてにやついている。私への嘲笑いぐらい隠せばいいものを。
ごらんなさいよ。カイヴァーンはちゃんとしれっとした顔を…………、なんでそんなわかりやすい顔をしているの!
私はさっとカイヴァーンから視線を反らして下を向く。
だって、カイヴァーンがすごく悔しそうな顔をしているのだもの。今すぐにでも私を捕らえた人達をぶちのめしたいって顔してる。
涙がじわっと溢れ出す。
そうだわ。学園から逃げる時に私がとてもとても辛かったのは、誰一人として私を庇ってくれなかったからじゃなくて、誰一人として私に同情した表情を向けてくれなかったからだわ。貴族だもの、わかっている。でも、お父様を亡くしたばかりの私には、この世の中で独りぼっちを強く感じたの。
だから、私はカルヴァーンとアブに縋るのだわ。
「ラティム。最後通牒だ。そいつは俺の女で婚約者だ。それでも進むのか?」
「さっさと一抜けたあなたにはわからないでしょう。王族として生きるのであれば、時として非情にならざる得ないんですよ」
「そうか? 俺達の父は非常識な色欲に囚われているだけのくずだと認識だが」
「はふはふ(何を言い出すの!)」
私は大慌て。
ここは私をむざむざと連れ去られさせる予定でしょう!
あなたまで捕まったら、計画倒れじゃないの!!
慌てた私は暴れだす。
「このアマ!」
騎士が再び私の木枷の端を掴む前に、丁度良く靴がすっぽ抜けた私は私を痛めつけた騎士のすねを蹴った。
ばしゅん。
空に大きな窓ができた。
抵抗できない私を痛めつけるような人が、まっさらな人生を送っているはずはない。――だけど、これは驚いた。でも、だからこそラティムに付き従うんだって、一瞬で理解できた。
ぼろ雑巾みたいになった女の子の死体。
綺麗だった女の子の髪はぼさぼさ、顔にだって殴られた内出血が残っている。
そんな哀れな死体に対して、彼の記憶である視界では誰も同情などしていない。ただ粛々と「惨劇の証拠を消すための作業」に従事しているだけなのだ。
倉庫内から外に引きずっていき、倉庫の明り取りの窓の下になる場所に転がす。
もちろん現在の状態が誰の目にもわからないように、倉庫にも彼女にも油をかけていた。――それで魔法ではなく普通に作った種火にて放火。
もちろん、命令者は、ラティム第三王子様、なのだろう。
「なんてひどいことを」
これは私の呟きじゃない。
空にできた窓を眺めていた観衆の誰かのセリフ。
だって私はそれどころじゃなかった。
一人目の騎士の記憶がドンピシャだったものだから、驚き呆けてしまった他の騎士達に順番に触れて行ったのだ。足だったり、木枷が嵌った手だったり。
私はここで前回のことも思い出し、私の魔法の静物と人間への違いを知ったのだ。
前回はうまい具合に二人の審問官の記憶がシンクロしてくれたと思ったけれど、二人目の騎士が前の騎士の記憶の続きを噴き出してくれたことで確信した。
人に対しては、頭でこれだと思った記憶が噴き出してしまうって。
だからもったいぶらずに触れる奴ら全員に触ってやったのだ。
四人しか、だけど。
「王子が」
「可哀そうな女の子」
この騒ぎに館から出てきた使用人達や辺境伯の騎士や兵士達が、たった今流れた映像への呟きでざわつく。ラティムはぐっと歯噛みしたが、私が既に彼の手のものの誰にも触れられない状況だってわかれば気を取り直した。私が触れたのは騎士四人。後は蹴られて転がされ、背中に鞘付きの剣を押し付けられて地面に這いつくばらせられているって状況。
蹴った奴を呪いたいし痛みに声を上げたいのに、呪われている私の口は「はくはく」と動いて息が漏れるばかりだ。
そんな私の状況にラティムが自分が優位だって気を取り直したのよ。
ラティムは側近達から一歩前に出て、王族らしき傲慢な声を上げた。
「見ただろう。これが魔女の力だ。冤罪を生む恐るべき呪いだ!!」
「それが本当かどうか、お前こそ全部わかっているのにな」
「え、ああ!!」
ラティムは一歩前に出てしまったばかりに、彼を囲む騎士も側近もいなかった。
いつの間にやらラティスは、土の壁にて彼を守るはずの周囲から遮断されていたのだ。もちろん、土の壁が囲ってしまったのは、武器を持った危険な騎士やラティムのお友達。そしてたった一人ぼっちになってしまったラティムの真後ろには、私を転ばせてくれた男が立っているのだ。




