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おまけ : 三十路OLのものっそいおっそいひな祭り

出会ってからウン年後の、ОL水沢と黒葉のはなし




「なんだこれは」

「は? 知らないの? お雛様」


「いや、雛人形は知っておる。実に愛らしい行事じゃ。

 だが何故お前のマンションにある。あれは女の童のために飾るものであって、三十路のがさつな女が飾るものでは――おぶぅ!」


 どすっ!

 固めた拳が相手の腹に深く入る。


「っ、がはっがはっ! おいっ! 儂はまだ一応未成年だぞ! 暴行するでない!」

「うっさい、じじいのくせに」

「なっ、なにおう!? 肌はお前よりも数段ぴちぴちと水を弾きまくっておるわー!」


 ドゴゥ!

 振り上げた踵が黒髪の顔横の壁に決まる。


「はは……、じょ、冗談じゃ、冗談。お、お前もぴっちぴちじゃ、ぴっちぴち!

 桃みたいじゃ、桃の節句だけにな、ほほほ!」

「分かりゃいいのよ」


 ふんっ。

 踵を引いて、ひな壇に目をやる。

 古いながらも三段作りの雛人形達がきちんとお行儀良く並んでいる。


「てか、実は十年ぶりに出した。実家から送らせた」

「ほう」

「………………『なんで?』って、訊かないの」

「いや、別に興味は」


 ドゴゥ!


「き、訊きます訊きます。何故なにゆえ~?」

「もういい」


 思いっきりそっぽを向いてから、あたしはドスドスと冷蔵庫へと向かった。

 缶チューハイを取り出して一気飲みしていると、途方にくれた顔であいつがこっちを見ているのが目の端に映った。


 あーもうっ、捨てられたひな鳥のような顔するんじゃない!

 あたしが酷い事してるみたいじゃん! 


 はあ。


(素直になれないんだよなあ……)


 こいつの前でだけは、ついつい素を出してしまう。


 でもって、他の男にならできる上目使いだとか甘え声だとか可愛い仕草とか、そんな女の武器を使う事が全くできない。

 あいつってば超年下のくせに、妙に大人っぽいというか、人生二度目? ってくらい達観している時があって、そんな奴の前で愛され系女子の振りなんかしたところでちっとも効く気がしないし。


(だから、そこに賭けたんだけどなー……)



 お雛様は、早く下げないとお嫁に行き遅れてしまう。


 だから、3月3日なんてとっくに過ぎても仕舞わないままにしておいて、ジジ臭いあいつにそこを突っ込ませるつもりだったのに。



『全く、お前はだらしがないのう。だからいつまでも貰い手が無いんじゃ』


『だぁってぇ、あたしを貰ってくれる人なんて誰もいないんだもぉーん(しゅん)』


『仕方ないのう。そんなら儂がもらってやろう』



 そーんな流れを、密かに期待していたのに。

 


 は? くだらないって?

 うっさい! 自分でも分かってるわ!


 こんなしょぼい小細工事しかできないくらい、悔しいけど、十幾つも離れてるけど、


 あーもう! あいつに惚れてんのよ!!!!!



「――全く、だらしがないのう。

 だからお前は30幾つにもなって貰い手が無い んじゃ」

「うっさい! どーせこんな性格だからよ!

 あたしなんて、あたしなんて!」

「仕方ないのう。そんなら儂がもらってやろう」

「文句言うならあんたが勝手に片づけ――、えっ?」



 なんであんた……あたしの肩抱いてんの?

 


 は?

 



「――そろそろ雛鳥も終わりだからのう。

 嫁取りできる良い頃合いじゃ」



 唇を話すと、そう言ってその青年は、ほほほ、と笑った。



 爺さんみたいな喋りはともかく、そのカマくさい笑い方は何とかしてくれ と思いつつ。



 あたしは今だけ素直になって、彼にしがみついていた。


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