7. 四天王と小さな茶会
執事は城の内外の管理を一手に引き受け、友好的な人の国との取引にも関わっている。先代魔王の時からずっとだ。
帝国までの道中の護衛くらい、心安らぐ相手をつけてもいいだろ。まあ、執事は俺より強いし、護衛は必要ないんだが。
帝国の宰相、顔合わす度にあいつを勧誘してくるからな。単身行かせると絶対に話が長引く。ここはリンゼにうまく躱してきてもらおう。
つらつら考えながら、一階の正面扉を抜け庭園に出る。遠目に門扉の上に立つ黒いガーゴイル像が見える。しばらくは勇者の姿を捉えないでもらいたいな。野菜の収集作業が滞るし。
門から城の入口までは広く、黒ずんだ緑の植物が植えられている。
緑のエリアを抜けて庭園の奥に入ると、色鮮やかな花に囲まれたガゼボに辿り着く。
最初は、勇者パーティーを追い返した後、どんな奴がいたとか視線が離れなくて嫌だったとか、愚痴を言い合ってたのが、リンゼの提案でルール不要の茶会みたいな形になり、この場所ができた。
「おー、皆おつかれー」
四天王がそれぞれお茶を飲みながら、好みの菓子をつまんでいるところへ声をかけた。
パッとミルファの視線がこっちに向く。
「なんか軽いよ、魔王様」
「そうか?んー、じゃあ...皆の者、大義であった!!」
魔王モードで言ったら、笑いがわき起こった。
「魔王ぶってるー」
「らしくないな」
「魔王様には似合わないね」
魔王なのに、魔王ぶってるって...
隣では我関せずの執事とリンゼが微笑みを交わし合っていた。貴重な執事の笑顔を短時間で二度も見るとは...!
家では意外とふつうに表情筋うごいてるのか?ちょっと想像しようとしたが、想像できなかった。お互い無事を確認できてほっとしただろうな。まあ、今まで無事じゃなかった事ないけど。
「リンゼ、ちょっといいか」
「ええ」
リンゼには、剣士の話を聞く場に同席するよう頼んだ。
「あ、それと明日から執事と一緒に帝国行ってきてほしいんだけど」
「ええ、喜んでお受けします」
即答したリンゼを伴い、執事は城に戻った。
女性の剣士には、リンゼが同席した方が話しやすいかもしれない。無表情の執事と対面で過ごすのは緊張感がすごいだろうし...。
あの盾の剣士の采配は執事に任せてある。
で、あと俺がやる事は――
「俺は畑行ってくるから、皆自由にやっててくれ」
「魔王様、いってらっしゃーい」
「おう、また戻ってくる」
魔王が去った後、ガゼボでは――――
「ねえねえ、リンゼさんと執事さん、熱く見つめ合ってなかった?」
「ふつうに目え合わせてただけだろ」
「ははっ、あの執事さんが熱い視線とか放ってたら魔国滅ぶかも」
興奮気味のミルファと、リュウガ、サウロが話していた。
「もしかして、付き合ってるんじゃないの?そんな感じの空気だったよ」
「ああ、ミルファは聞いてなかったんだね。執事さんとリンゼは夫婦だよ」
「え、夫婦...って結婚してたの?」
サウロの言葉にリュウガもうんうん、とうなづいている。
「城の皆、知ってることだぜ。ミルファは四天王に入ったばっかで、聞く機会なかったんだな」
リュウガが当然の事のように言う。
「ロイメテルは自分から惚気たりしないからな」
「いや、え?リンゼさんが結婚してたのもびっくりなんだけど、ロイメテルってそれ...」
「執事さんの名前」
「執事って呼ばれる方が多いけどな」
「それ魔国の創始者の名前じゃない!」
「そりゃ、本人だから」
「ロイメテルフィルは長いよなあ」
「リュウガは律儀に名前呼びだよね、僕は執事さん派だな」
「なんでそんな普通に呼んでんの?!」
「ブフッ!...慌てすぎだろ」
執事が創始者のひとりだと知り慌てるミルファの姿に、リュウガが爆笑し、サウロが宥める。
リュウガの笑いが収まり話が一段落すると、本日の小さな茶会は解散した。
四天王の誰も魔王が戻るのを待つことなく。
「いつも通りですね」
メイドのマリサは小さく呟くと、誰もいなくなったガゼボの片付けを始めるのだった。




