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5. 魔王様と理由


魔王様はあの時、何を思っていたのか。


 

 ―――魔王城 玉座の間



 時間を少し遡って、聖女が勇者の額の傷を治している頃、魔王は―――


 えっ、あんな傷で回復使うのか。

 治療中にドッカーンって攻撃されたら危なくない?よくここまで来れたなあ。


 魔王は傍観者モードに入りかけていた。


 目の前には勇者を守る剣士、勇者を癒やす聖女、その後ろから距離をとって魔法の発動を準備する魔法使いと死角から狙おうとする弓闘士。


 今この場は、魔王にとっては緊迫した闘いの場ではなかった。


「ある意味、茶番だからな」


 こぼれた言葉は勇者達には届かない。


 どうするかなあ。

 本気でやり合うには勇者の力が足りんし。


 俺は魔力の調整が得意じゃない。いざとなったら素手で相手すれば何とかなるか。あっさり倒してしまったら、【魔王】の存在は脅(・)威(・)だと印象づけてしまうだろう。


 ――――本気を出して、すぐに終わらせてはなりません。徐々に、少しずつ絶妙な力加減で弱らせて力の差を知らしめて。愚かな人の王がこの国を二度と欲することのないよう、勇者達に言い含めるのです。まあ、言葉が通じぬ輩は何度も来るのでしょうが――――


 度々聞かされた執事(あいつ)の台詞が、脳裏を過(よ)ぎっていた。



 ・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・



 魔国ができる前、ここ一帯は黒い霞(もや)に覆われた不毛の地だった。植物は育たないし、人が土地に居つくと病にかかる。生命力を徐々に失う厄介な病。


 どうしてそんな場所ができたのかは今も解明されてないが.....。とにかく人が住める地ではなかったんだ。それは魔族も同じだった。


 だが、ある魔族がその常識を変えた。ロイメテルフィルという男が、莫大な魔力を集めて魔術をぶつけると、黒い霞(もや)が霧散し、ここは魔族にとって危険な大地ではなくなった。


 魔族の中から数人が住み始め、身体に悪影響がないことがわかると住む者はどんどん増えていった。けれど、やっと街として安定した頃に人間が軍隊を組んで攻めてきた。住める土地になったのなら寄越せ、と。


「ここは魔族以外には住めない場所だ」

「無理に奪っても、人間に易しい土地ではない」


 元々の土地の特性なのか、大きな魔力をぶつた事が原因なのか、魔国の土には微量の魔力が染み込んでる。生まれつき魔力を持つ者が少ない人間が長期間、定住すれば毒になる。魔力をあまり持たない民でも不調を起こすほど。


 しかし人は信じない。

魔族は言葉を尽くしたが、人の国の進軍は止(や)まず、魔族はやむなく豊富な魔力で対抗した。



 魔族が魔術で圧倒すれば人間は一度は退く。次にはもっと多くの戦力を集め、数で押してくる。

戦いで最初に狙われるのは魔族の中でも力が弱い者、力を持たぬ者達だった。


 国も心も疲弊していった。


 戦いを繰り返すうちに、魔国の土地を調査する国が出てきた。この地が人間にとって安全ではないとわかり、いくつかの国は戦線から離れた。


 争うよりも魔族と友好関係を結び、作物のやり取りをした方が効率が良いと判断されたのだ。 

大国が取引相手にかわり、大規模な侵攻はなくなった。


 その反面、欲を捨てられない国もあった。


 それらの国に強大な魔力を見せつけて勝利したのが悪手だった。


 圧倒的な力をもつ【魔王】と【魔族】は脅(・)威(・)。大き過ぎる力は悪だと認識されたのだ。

 人間は異質なものを排除しようとする。こちらから人の国を攻める意思はないと伝えても無駄だった。

 魔力を駆使して防いできたが、この先数で攻められれば、いずれは犠牲が出る。


 当時の先代魔王とロイメテルフィルは考えた。

では、そこまで警戒する相手ではないと誤認させればどうなる...?


 様々な策を練った。各地の戦いでは、戦闘に長けた魔族が応戦した。

 魔族との大きな実力差を感じさせないように、味方の動きを調整して、魔術の出力を抑えて。

 民に被害を受けないよう、人間にも必要以上の打撃を与えぬよう、ぎりぎりの勝負をした。


 友好国となっていた人間の国にも協力を取り付けた。争っても実入りのある大地は得られない。

 魔族はそれほど脅威的な相手ではない、と情報が流れるようにした。



 長い時をかけて、人間の記憶から魔族の強さは忘れられ、【魔族】の脅(・)威(・)は薄れた。

 ―――こちらを侮って、ろくに鍛えてもいない勇者を送ってくればいい―――

 

そうなればもう、戦う力を持たぬ民が狙われることもなくなる。


 先代魔王の願いは叶った。


魔族の歴史を思い出していた魔王様。


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