4. 勇者の実力
四天王を倒した勇者達は玉座の間に到着する。そこにいたのは【魔王】モードの魔王様。
魔王城5階 玉座の間―――
「よくぞここまで来た、勇者達よ」
玉座にもたれるように座り、脚を組む男には離れていても突き刺さるような威圧感があった。
毛先が肩にかかる長さの黒髪。頭に角はない。
衣装を着替えれば、人間だと勘違いされそうな容姿だ。広間から十数段上の玉座から、悠々と勇者達を見下ろしている。
無意識に、剣を握る腕が震えるのを自覚した勇者は
次の瞬間、咄嗟に攻撃を仕掛けていた。
魔王からの威圧に臆する自分を振り切るように。
俊足といえる速さで距離をつめ、右足を軸に跳躍すると上段から剣を振り抜いた―――と思った数瞬後には床の上にいた。剣を抱えたまま、尻もちをついた状態で。
すかさず立ち上がり、再び魔王に向かって下段から切り込むが頭の中は混乱していた。
(今何が起こった?!)
一度目の攻撃は魔王にかすりもしなかった。
それどころか。
(触ってもないのに吹き飛ばされたのか?この俺が...!)
勇者の顔は歪み、ギリッと音が鳴るほどに歯を食いしばる。
(次はやってやる)
続く下段の攻撃は見えない何かに弾かれ、勢いをいなせなかった勇者は魔王の元から転がり落ちた。
受身をとって立ち上がろうとするが、力が入らず片膝をついて身体を支える。
(痛っ)
玉座からの落下時にぶつけたのか、額が切れて
鮮血が頬を伝う。身体中が痛みで軋む。
「大丈夫ですか!?」
後方から聖女が駆け寄ってくるが、魔王城への道中で励まし続けてくれた彼女の声も、今の状況では何の意味もなさない。
傷を癒やす仄かな光を浴びながら、勇者の瞳には怯えの色が浮かんでいた。
(まずい!今こんな無防備な状態であの見えない攻撃がきたら、やられる)
「私が防ぎます」
大盾を構えて俺の前に立ったのは前衛の剣士だ。
彼女の立ち位置のおかげで魔王が視界に入らなくった途端、感じたのは僅かな安堵。彼女の落ち着いた声に、勇者の頭を占めていた恐怖が怒りに塗り変わる。
「遅えんだよっ!」
怒鳴ったら、隣でまだ回復の力を使っていた聖女が
ビクッと肩を揺らした。
(うぜぇ。)
今まで剣士にしか知られてない素が出てしまった。
だが、もう取り繕う余裕もない。
・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・
――隣国から来た勇者、それは優しく正義感に
あふれた男ではない――
「誰のせいでこんな怪我させられたと思ってんだ!
命賭けて守れよ!」
「え...」
剣士に向けた言葉に聖女が戸惑うように小さく
声を発したが、知ったこっちゃねえぜ
「返事はねえのかぁ?」
「...はい」
剣士の奴、気に入らねぇ
今頃前に出てきやがって、ノロマめ!
勇者様をしっかり守れよな
後方で、まるで見えない呪縛が解けたかのように、
魔法使いと弓闘士も動き出す。
魔法の射出準備の間に、玉座に向けた弓矢の連射が弧を描く。あの矢尻には猛毒が塗ってある。
一本でも掠れば、魔王でもひとたまりもないだろう。
――――――だが、
音もなく立ち上がった魔王は己に向かってくる矢の柄を掴むと、グシャッ...片手で潰した、だと!?
僅かに身体を捻るだけで矢の軌道を躱し、避けきれないものは握っただけで潰していく。
嘘だろ!?
なんて握力してんだ!
最後の矢を避けきる前に、魔法が完成した。
――ドドドドドドドッッッン!!!!――
天井を焦がす程膨れ上がる爆炎が四方から魔王を襲う。回避しようにも、広範囲に拡がる魔法には逃げ場がない。
「ザマァ!」
吐き捨てるように言うのを聞いた聖女の顔が引きつるのが横目で見えて、イラつく。
「クソがっ」
今はそれどころじやねぇな
由緒正しき聖剣で魔王を撃つのは俺サマの仕事だ!
「邪魔だ、どけぇ!」
魔法の直撃を受けて、虫の息の魔王が攻撃してくるはずもねぇ
必要なくなった盾役を押し退けて前へ出る。
まだ魔法の残滓が渦巻いている場所へ、ゆっくりと近付く。
まさか跡形もなくなってたりして!
至近距離まで来て、ちらりとマントの端が見えた。
魔王の髪色と同じ、漆黒。
また一歩近付いたその時、魔王のマントが剥がれ落ちた―――――――
隣国勇者の本性が出てしまいました。
魔王の攻撃ではなく、階段落ちで負傷する勇者。
後半の勇者視点では、心の声の( )を外してます。




