3. 迷惑なお客様
四天王が勇者パーティーを引き受けている間に、玉座に向かう魔王様。その頃、勇者は一の四天王リンゼと対峙していた。
その頃、魔王城4階 大広間――
長身を揺れるように反らし、勇者パーティーの攻撃を間一髪で避けていく魔族がいる。
ゆらり、ゆらりとしなやかに移動を繰り返す姿はまるで舞い踊るようだ。
四天王で一番の俊敏さを誇るリンゼ。
攻撃を次々と回避されるが、反撃は弱々しい魔術のみ。それを見て、自分達とまともに闘える力量がないのだと勇者は判断した。
勇者が狙い定めておろした剣は空を切り、
淡い紫紺色の髪が風圧で靡き、妖艶な美女の背で揺れた。
髪のサイドには、台座に紫紺に煌めく石が入った髪飾り。耳朶には同じ色の宝石がある。
勇者が残像を追う間に、リンゼは背後をとる。
すぐさま大盾を構えた剣士が肉薄し、リンゼの注意をそらす。
一呼吸の間に剣士が左後方に飛び退り、弓闘士の放った矢がリンゼに刺さる。
「やったか!」
勇者の喜色まじりの声が響くが、矢が貫いたのは残像。リンゼは既に勇者と距離を詰めていた。
リンゼの手が届く前に応戦する勇者。
剣戟が濃い紫のドレスを掠め、その軌道から逃れようとリンゼが後方に跳ぶ。
その瞬間を待っていたかのように、上から魔法の刃が降り注いだ。爆炎をともなうそれを放ったのは弓闘士の更に後方にいた魔法使いだった。
「きゃあぁぁっ...」
哀れなか細い声が聴こえ、途切れた。
勇者パーティーは最後の四天王に勝利したことを確信した。
「やったぞ!四天王はぜんぶ倒した!俺達の足元にも及ばなかったな」
「勇者様〜、怖かったですぅ」
広間の大柱の陰に隠れていた聖女がとび出てくると、勇者の腕を掴む。
「回復がいるほどの怪我もなかったな」
「四天王といっても、たいしたことないのね」
「当てやすい的だったわ」
「呆気なかったねえ」
「俺達がすっげぇ強いってことだ」
「さっすが皆〜!」
ハハハッと笑い声をあげる勇者と共に盛り上がる弓闘士、魔法使いと聖女。
まるで、もう魔王に勝利したかのような雰囲気だった。
「......」
盾の剣士だけは会話に加わらず、離れた場所から勇者パーティーを見ていた。
「この勢いで魔王も倒すぞ!」
「楽勝だね」
「どの魔法でとどめを刺そうかしら」
「皆、応援してるからね~」
ひとしきり騒いで、勇者達は魔王城5階への階段へ進み出した。会話は止まらず、緩んだ空気が流れていた。盾の剣士も無言で彼等の跡を追った。
階段を上りきると、長い廊下が前方に現れた。
(魔王はどこだ?)
警戒する勇者の視界の端に、銀髪の男が写る。
途端に剣を抜き、後方に2歩距離をとる。
(いつの間に!?さっきまでいなかったはずだ)
焦る思考を落ち着けようと、正面の男を睨みつける。
(俺としたことが、ちょっと油断しすぎたか)
「魔王か?」
「いいえ、私は魔王城の執事でございます。お客様をご案内させていただくために参りました」
慇懃に礼の姿勢をとり、片手を通路の先に差し出す。
「玉座の間はこちらです」
先導する男が歩き出す。
(執事だと?怪しすぎだろ)
背中を向けた自称執事に剣を向けようとするが、急に腕が動かなくなる。なんでだ!
男の方から妙な気配がして降り降ろせぬまま剣を戻した。
仲間は誰も言葉を発しない。
ただ何かに導かれるように男の後に続き、やがて大きな扉が見えた。
「お客さま方、この扉の先が玉座の間でございます」
「この先に...」
(魔王がいる!)
「扉が!」
「えっ?」
扉に刻まれた壮麗な彫刻に目を奪われていると、勝手に内側から開いていく。
「魔族どもの魔術か!」
勇者は逸る気持ちのまま中へ足を踏み入れた。
そこには、部屋の最奥にある玉座に座する【魔王】がいた。
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