2. 魔王様と髭
魔王城6階 魔王の私室前――
「三の四天王が戦闘終了しました。」
執事が扉を開きながら告げた。
中にはメイドが控えており、深く一礼する。
「お待ちしておりました、魔王様。準備をお手伝いします」
「ああ、頼むな」
着ていた作業用つなぎとシャツを脱ぎ、新しいシャツを纏う。グレーの袖に銀灰色のカフスを付けたところで、報告が入る。
「二の四天王が退きました」
執事の眉間に皺がよっている。
「ちょっと、早すぎない?」
「相性の悪い相手でした」
「サウロの嫌いな子がいたんか、仕方ないな」
四天王で最も魔力の調整に長けたサウロ。
多種の魔術を繊細に操る魔族。
非常にモテる顔面なんだが。見た目だけ見て好意を向けてくる相手が大の苦手。
そういうのと当たると、もの凄く気持ち悪いらしい。
運悪く勇者パーティーにいて、戦意喪失したんだな。
勇者達が4階に上がり、一の四天王と対峙している間にメイドが髪型を整えてくれ、執事にヒゲ剃りを強要されてる。
「もう髭、このままでよくない?」
「いけません。魔王の威厳をつくってください」
「元々ないもんを求めるなよ」
「なくても結構。見た目から入りましょう」
「伸ばしたら格好良くないか?」
「髭にも向き不向きがあります」
滅多にない執事のにっこり笑顔がこわい。
髭、お前には似合わないよって言われてないのに伝わってくる...。
ぐすん、一回生やしてみたかったのに。
太陽の下、広がる大地、伸びる髭...あ、たぶんボッサボッサになるわ。お手入れして綺麗なお髭に育てる自信がないわ、俺。
髭は剃るけども。
「あー、マキャベツとりたかった」
「はい」
「あー、マディッシュも育ってんのに」
「お客さまがお帰りになってから、ゆっくりとマキャベツもマディッシュも収穫なさってください」
「ん、そうだな」
「では私は出迎えがありますので、準備ができましたら玉座へ」
端的にやるべきことを告げて、5階に向かう執事。
メイドのマリサが綺麗に畳んでくれたオレンジつなぎが名残惜しくて、つい目が向く。
「今回の勇者パーティー、あんま魔力強くなさそうだよな。畑から転移で戻ってたら、あともうちょっと収穫できたのに」
「勇者の仲間に魔力感知するのが上手な人間がいたら、畑の存在に気付かれてしまいますから」
「あー、マブロッコ収穫したかった」
「勇者パーティーがお帰りになれば、畑まで、すぐですよ」
ニコッと微笑んで言う、マリサの笑顔が可愛い。
うん、なんかやる気出てきた。
「よし!ぶっとばそう」
「執事さんが泣きます」
執事が泣くとこって想像できないんだが。
話す間にマリサが俺の上衣にジャラジャラする飾りを付け、漆黒の表、銀灰色の裏地のマントを羽織らせてくれた。
全身をチェックして、少し乱れていた前髪をさっと整える。
「準備完了でございます」
「ありがとう、マリサ。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、魔王様」
後ろで礼をして見送るマリサの気配を感じながら、玉座の間がある下階へと足を向けた。
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〈階数は数字・四天王の呼び方は漢数字にしてます〉




