1. 魔王様の日常
連載を始めました。
魔界がなく、人間の国と地続きの魔国での話です。
魔王城に続く唯一の道、その城門前にニ体のガーゴイル像が設置されている。
像の目のように嵌められた水晶に、勇者一行の姿が映る。
勇者達は意気揚々とガーゴイル像の横を通り抜け、門を抜けた。
庭園を越えた先にたたずむ黒銀の城を目指して―――
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その頃、魔王城の裏手では
「よっしゃあ!収穫日和だぜ」
オレンジのつなぎを来た、無精髭を生やした男が気合を入れていた。
掛け声と共に青々とした葉っぱを掴み、引き上げる。現れるのは陽光を弾く白いボディ。
「いい出来だなあ」
今日は、愛情込めて育てた魔野菜の収穫日。鼻歌まじりで作業していた男の背後に執事の陰。
「魔王様、至急玉座にお越しください」
「えっ嫌だあぁぁぁ!」
後ろに突如現れ声をかけた執事に条件反射で返し、手にした根菜をそのままに振り返る。玉座に〜のくだりは聞かなかったことにしよ。
「これどうやって食う?」
「立派なマオーネですね。私は漬物が好みです」
「あぁ、漬物はいいな!あと千切りにしてサラダにも...いや金平も食いたい」
「そこは料理番にお任せください。魔王様はお仕事です」
マオーネ料理を頭に思い浮かべていると現実に引き戻された。嫌だなあ。い・や・だなぁ!
「また来たのか...」
「城門を通過して庭園に入ったところです」
「先週も来たよな、暇なの?」
「今回は隣国の勇者パーティーです。帝国の勇者が失敗すると見越して用意していたのでしょう」
城門のガーゴイル像はただの飾りではないのだ。延々と送り込まれる勇者【襲撃者】を監視している。勇者が来た時、魔王【俺】が玉座に辿り着くまでの時間稼ぎのために必須なのだ。
勇者パーティーが玉座の間に突入して誰もいなかったら......それはそれで良いんじゃないか?
「お戻りを」
「へ〜い」
城の裏手といっても広大な畑のど真ん中にいたから城まで距離がある。執事の叱咤と共に走る、走る、走る――!
「なあ、部屋まで転移 「却下です」...」
「飛んで窓から入 「なしです」...」
ついでにダメ出し受けながら走る、ように歩く。
魔王城内は走るの禁止なのだ。魔王なのに。
「魔王様だからです」
心を読まれたよ...。
「マジンも収穫したかったのにぃ!」
「お客さまを送り返してから存分にどうぞ」
すげなく返してくる執事よ。
まあ、ご迷惑なお客さまだこと。
「マジンもうまいぞ」
「今年も素晴らしい出来栄えでしょうね」
ツヤツヤの橙色のマジン。育てた野菜を褒められるのは俺の生き甲斐だっ!!
「四の四天王が突破されました」
マジン料理はどれがいいか考えていると執事に報告が入る。勇者と交戦中、四天王と執事は耳朶に嵌めた宝石を介して通信できる。
「リュウガ、飽きたんか...」
「勇者達があまりに力不足だったんでしょう」
「長引くとムリよな」
勇者パーティー側が。
四天王で最大火力をもつ、リュウガ。
大雑把な攻撃を繰り出す。故に手加減が難しい。
魔王城最下層で勇者パーティーをうっかり倒してしまわないように、全力で力を押さえるのに飽きて、離脱したようだ。
「勇者は2階で三の四天王と戦闘に入りました」
「今はどんな?」
執事は険しい表情をしている。
「先程から悲鳴ばかり...ですがこれは」
執事はモノクルによって視覚からも四天王の状態は把握している。離れた場所を視るのは魔力操作にコツがいるから、俺はやらんが。
「楽しんでおりますね」
四天王の演技派ミルファ。
絶妙に攻撃を避けつつ、きゃあっと悲鳴をあげて相手にした者に、か弱いと錯覚させる。勇者達を負け演技で翻弄する芸達者。
「なんで難しい顔してるんだ?」
「勇者が少々...調子に乗っているようです」
この執事が少々と言う時は大分、の意味だな。
話を続けながら階段を上がる。
最上階の自室まで、あと少し。
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