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13. 魔王様の畑


魔王城近隣 工房街 ―アトリエ―



ルミナータは南の国への護衛の仕事から帰還した。


「ルミナ、おかえり」

「ただいまです、ピアニィさん」

「南の国はどうだった?」

「街の建物が見たことない造りで、驚きの連続でした!あ、職人さん達はもちろん皆無事ですよ」


目を輝かせて思い出しているルミナータに

工房長、ピアニィはほっと顔を緩ませた。


「ルミナがうちの職人を守ってくれるから、助かったよ。南の国はどうしても技術者同士で直接意見を交換したい、って熱心でね」

「リンゼさんが一緒だったおかげですよ。それにアトリエもすごいけど、南の国はこことは別の視点で優れた技術があって勉強になります」

「そうかい」


初めて工房街(アトリエ)を訪れた日、不安に曇った目をしていた姿とは見違えるようだ。

新しい道を歩みだしたルミナータの表情は明るい。



「そうだ、あと数日でレーネちゃんがこっちに来るだろう?部屋はルミナの隣に用意したから」

「妹の部屋を...!」

「来てすぐは戸惑うことも多いだろうからね。困ったことがあれば手を貸すから遠慮せず言うんだよ」

「ありがとうございます!」


「こっちに来たら、魔王様の野菜たっぷり食べてもらうからね」

「土地の魔力から悪影響を受けにくくなるんですよね」

「そうそう、魔王様の畑で育った作物は悪い魔力を中和するからね。ルミナみたいに元々魔力が多い子は平気だけど。魔力量が少ないと、頭痛とか軽い不調が出たりするから、その対策さ」


「マブロッコとか、特殊な名前がついてるのは特別な効果があるからだったんですね」

「あはははっ、それはただの魔王様の趣味!」

「趣味?」

「魔王様の魔力を肥料がわりにして育った作物は大きく成るし味も変わるから、魔国産として人の国に売り出そうってなった時にね、魔王様があの名前つけて執事さんに叱られたんだ」


「え、執事さんに...」


それは怖そう、とルミナは内心思った。


「長年かけて友好ムードになってきたのに、変な名前つけて警戒されたらしょうもないでしょう、って」

「野菜のことでそこまで...」

「魔国では怪しい食べ物つくってるんだって噂になったらシャレにならないからさ」

「あ...たしかに、馴染みのない食べ物って手を出しにくいですしね」

「その場にいた息子から後で聞いたんだけどね、最初に育てたマポテと、マトマトだけはこの名前を認めてくれえって、粘ったらしいよ」


「ふふふっ、この前野菜を分けてくださった時、採れたてのマトマトうまいぞって言われて、一瞬何のことかわからなくて」

「魔王様が勝手に呼ぶだけならいいでしょう、って執事さんも折れたんだよ。他国と取引する時には、魔国産のトマトって紹介するからってね」


「執事さんって、お仕事の幅が広すぎませんか?」

「ああ、執事さんは魔王様のお母上の代から魔国を支えているからね」

「そんなに前から...」

「元々、執事さんが国をつくるきっかけだったらしいからねえ。ただ集まってきた魔族を率いるって性格じゃなかったから、先代の魔王様がリーダーやって執事さんが支えてたんだって」



ルミナータの脳裏に、玉座の間で魔王の左奥、少し離れた場所から場を見ていた執事の姿が浮かんだ。

あの時、魔王に不測の事態があれば即座に動ける距離に彼はいた。


「今の魔王様と執事さんみたいですね」

「そうだね」


「魔王様の魔力で中和が進んだら、アトリエで人が暮らせる場所も広がるんですかね?」

「...それがわからないんだ」

「?」

「ここが人間が住める土地になってるってわかったのは、偶然でね。10年程前に来た南の国の勇者パーティーに、魔力に敏感な魔法使いがいて、魔王様の魔力を感知して裏の畑まで飛んできたんだよ」

「え!魔王様の畑に?」

「そう。魔王城に入った途端、気分が悪くなって、一つだけ気配が違う魔力を辿って畑に着いたら魔王様だった、って」

「それは、びっくりですね」


「仲間が消えた勇者達も城を突っ切ってくるし、四天王も執事も畑に集まるわで、戦うどころじゃなくなったそうだよ。

で、南の魔法使いが畑の一部に魔力の質が違う所があるって言い出して、行ってみたら勇者達も呼吸がしやすいって話になってね。

それが今アトリエになったこの土地なんだよ」


「そんなことがあったなんて」

「だから人が暮らせる地が増えるかどうかはわからないんだよ。なんで魔王様の畑がそんな事になったのかも謎のままだしねえ」


そう言いながらピアニィは首をかしげた。

ルミナータはなるほど、と頷きながら、この土地が見つかったこと自体が奇跡のようだと感じていた。



「南の国の勇者パーティーはどうなったんです?」

「魔王様と四天王と土地の話をしてるうちに勇者達の意識が変わったらしくて、それ以降、南の国との交易が始まったんだ。人が住める地については秘密事項にして、交流するようになったよ」


「まさか、ですね」

「本当にね、今じゃ技術提携しようって話になってるんだから。その時の勇者が王族だったのも大きかったかもね」

「そうだったんですね」


「まあそれが元で、他国からの来客時は玉座以外の《城内で魔法禁止》ってルールが魔王様限定で決まったんだけどね」

「あ、感知されたら収穫中の魔王様が見られちゃうから!」

「いや、それもあるけどアトリエの安全を守るため。それに、魔王様の畑のおかげで魔国の食糧問題が解決したからねえ。大事な場所に部外者を入れないって意味があるんだよ」

「国内と南の国以外には秘密なんですね」

「あと、帝国にも数人だけ、これで全部だよ」



それぞれの事情で自国を出た人間が暮らすこの場所は、魔王の畑のほど近くにある。

元々、畑の一部だった土地を家屋や工房を建てるため転用したからである。



下手に外部に知られれば、わずかな土地でも奪いたいと考える者が出るかもしれない。

魔国に受け入れた人々を守るためにも、魔族と限られた人間以外にアトリエの土地については秘された。



「魔王様の魔力が特別なのは、なぜなんでしょう?」

「そこは魔王様だから、としか説明のしようがなくてね。魔族もアトリエの人間も試してみたんだけど。

魔力で特別な野菜を育てられるのは、魔王様だけだったんだよ」

「なんか、魔王様だから、っていうのは納得です」

「だろう?あの魔王様は型にはまらないからねえ」



・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・



その頃、魔王はいつものごとく畑にいた。


「今日も配達行けるそうだな」


つなぎを着て、ルンルンと収穫作業にいそしむ。


だが何の前触れもなく、突然背後から殺気を感じ―――


魔王は前方に高く跳躍した。


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