12. 執事と影の報告
魔王城3階 執務室―――
執事は隣国にいる影からの報告を読んでいた。
――ニセ勇者だった男は、侵略派貴族の屋敷前で再び捕縛され、一般民を閉じ込め脅迫していた件で尋問を受けている。
また国が選定してきた勇者を勝手に名乗った身分詐称、王族への不敬な行動、移送中の馬車を破壊して逃亡など多くの罪状で追求される予定。
弓闘士は盗賊団の一員として移動中の商人を襲った際に捕まり、騎士団の詰め所に拘留中だった事が判明し、拠点に戻ったところで拘束の上、連行された。
ニセ勇者の手引きにより牢を脱走、魔国まで同行する事がその条件だったとみられ、馬車の件と共に経緯を聴取されている。
尚、戻った時点で、既に拠点は無人だった。
魔法使いはギルドの支部に入ったところで、ギルド員証の登録抹消を通告された。その場で職員に魔法攻撃を向け、捕まった。
抹消の理由は、受けていた複数の依頼を事前連絡なしで勝手に破棄して国外に出たため。
これまでの実績よりも、魔法の威力調整ができずに出した損害が大きいことも加味された。
聖女は、宿で商人に無心した金を使い王都の教会に戻った。
教会では、聖女が魔国に向かう間に、聖女候補への暴言や仕事の強要が発覚し調査が行われていた。
他の者の成果を奪う不正により、聖女に認定されていたことがわかり、人格も聖女にふさわしいものではなかったと結論が出た。
教会は、初となる聖女の認定取消を決定。
教会の正面入口でそれを聞いた聖女の様子は目撃者も多く。
「は?何言ってるの!教会が聖女を認めませんって何手の平返してんのよ!?今まで一番貢献してたのは私でしょ!教会の人間なら私のために尽くせよおぉ!!!」
大声で叫び、暴れているところを巡回中の騎士が拘束した。
現在、馬車の爆破の件を含め取り調べを受けている――
手元にはもう一つ、別の人物からの報告。
そこには4人が馬車から逃げた時の一部始終が記されている。結果的に負傷がなかったとしても、害そうとした事実は残った。
これも合わせると、ニセ勇者の罪はまだ増えそうだ。
御者に扮していた男は、ただの商人ではない。
帝国と隣国との流通の大部分を担う商会の会長であり、アーディン公と呼ばれる帝国の貴族でもある。
勇者の役職でも何でもない人間が、帝国の貴族に手を出せばどうなるか......。ここからは、隣国の領分だな。
「あとは西国だけですね」
隣国の侵略派は功を焦って、勇者を勝手に送り出したことで崩れた。魔国への侵略を口にして、敵に回していたかもしれない危険な動き。
王家からすれば友好路線を推し勧める契機になるだろう。
ここ数年、各国で影響力を徐々に失っている侵略派。まだ勢いを残す国は、あと西国のみ。
窓の向こうに視線を送る。
「魔国に住む者、皆が穏やかに暮らせる。本当にそんな日が来そうですよ」
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執務室の窓から魔王城の裏手が見える。そこに広がる畑では、今日も魔王が野菜の収穫に励んでいる。
「隣国では情報が遅れてるんですかね」
「いや、あの勇者が話聞かないタイプなだけだろ」
「そう、ですね。ルミナータさんも途中で何度もそれとなく伝えたけどダメだったって聞きました」
「侵略派側は魔国と定期的に戦ってる、って認識だったようだからそれに毒されたかな」
「でも王家に仕える騎士だったんですよね?」
「そこが謎なんだよなあ。なんで王族に弓引く話に簡単に乗ったのか...」
「うーん、わからないです」
「昔から今みたいな形じゃなかったんですよね、勇者との関係」
「俺が魔王になって最初の方は、応戦するのが普通だったよ。侵略派の勢いが強くてな」
「ほどほどで引き分けて、ってやつですね」
「そうだな。あの時に全力で圧勝して恨みを買ってたら今、国交もつって流れになってないかもなあ」
「反撃して、逆に侵略しちゃおうって思ったりしなかったんですか?」
「そりゃないな、面倒くせぇとは思ってたけど。
相手の国の土地が増えても、管理に困るし。魔国の民が逆恨みで傷つけられたら意味ないからな」
「先代魔王様の信念ですね」
「ああ」
魔王は話しながら、根菜を次々と引き抜いていく。それを受け取り、葉っぱを切り取りカゴに分けていくのはメイドのマリサ。
「帝国勇者がきっかけだったな、たぶん。そこから交流試合とか模擬戦?そんな感じになっていったな」
「帝国とは仲良くしてますよね」
「一番に交易の話くれたし、縁もできたからなあ。
それでも魔国を攻めた方がいいって派閥が厄介で、表向き勇者を送ってるってことにして。で中身は、ちょっと模擬戦して飯食ったり交易の話つめたり」
「帝国にならって他の国も友好的な勇者になっていったんですね」
「だな。けど長いこと、魔王と勇者は天敵って定番だったろ。執事が侵略派の情報集めて各国と話をつけて、ようやく今がある。
帝国勇者の後、全体の流れが変わってきたのは
紅天大根つくりだした頃かな」
「それ疑問だったんですけど...」
「ん?」
「なんで紅いのだけ紅天って呼んで、大根はマオーネなんです?」
「あぁ、紅天は譲ってもらった品種のまま育ててるから。苦いのも食べたいって要望があってな。マオーネは俺の魔力通して甘みが強いし、もう大根と別物になってるだろ。
魔国の野菜ってことで、名前も区別してるんだ」
マリサは自分の身長の半分を超える長さの大根を見た。手の平程の長さの紅い大根とは見た目は別物だが......。
「確かに、ちがうかも。それなら魔大根とか、魔人参でよくないですか」
「長いし、オリジナリティもほしい」
「マジンとかマオーネとか、名前がややこしいって城内でも不評です」
「そこはもう慣れてくれ」
「え〜」
戻ってきた日常を楽しむ魔王とメイドの野菜談義はこの後もしばらく続いた。




