10. 商人と勇者達
ルミナータのことは今後の生活を含めて工房長に託し、執事とリンゼは帰路についた。
「最初から助け出す指示を出していたの?」
「ウラ取りが終わってから実際に人質がいれば救出、他に有用な資料は持ち出すように、とだけ伝えました」
「何もないのに他国の貴族に干渉できないものね」
「貴族が私兵を動かしていたのが決定打でした。
魔王様が受け入れを決めたおかげで、他にもいい土産がありそうです」
「剣士以外は、勇者と同じ扱いになりそうね」
「城へ誘導していた者から、4人とも同じ性質を持っていると報告がありましたから。
あれらがどうなるか、気になりますか?」
「いいえ、もう魔国に関係ない人に興味ないわ」
「フフッ、あなたらしい」
そのまま並んで、とりとめのない話をしながら帰城した。
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数日後―――
魔国と隣国の国境沿いの街で、勇者は目を覚ました。
「ここは?」
まるで貴族や裕福な商人が泊まるような寝具と内装。騎士の仕事で、王城内に足を踏み入れた時に見た豪奢さが部屋にはあった。
「寝室だけでこの広さって」
魔王城まで行った功績が認められて、王族にでも招待されたのか!
勇者の胸に期待が湧いたが、何かがおかしい。
魔国から出たのか?いや、それより魔王はどうなった...?
カチャッ、と小さな音がして扉を見ると人が室内に入ったところだった。高そうな衣服を着た長身の男。
「誰だ!」
「ノックもせずに、申し訳ない。意識が戻ったんですね。私はこちらの国で商売をしております」
男は、帝国と勇者の国を行き来する商人だと、自身を紹介した。
国境にあるこの地では交易が盛んで、仕事のために立ち寄ったところ、知人から勇者達の世話を任されたという。
「知り合いから頼まれた?」
「はい、とても恩のある方で。魔国から国境を越えた後のお世話を私に任せたいとお願いされまして、是非にとお受けしたのです。
あぁ、勇者殿は空腹でしょう。栄養のあるものを摂っていただかなくては」
商人は部屋に備え付けられたベルで人を呼ぶと、軽食と飲み物を注文していく。
「お前の使用人か?」
「いえいえ、この宿の給仕係ですよ」
「そんなのまでいるのか」
「国境の街で一番の宿屋ですからね。ここは貴族が利用されることも多いとか」
「一番だと!宿代は出せないぞ」
「勿論です。あなた方は魔王城で、すばらしく見事な戦いをされたとか...。私の方ですべて手配させていただきますよ」
勇者の顔色は一気に明るくなり、部屋に運ばれた胃にやさしい食事を平らげる。久しぶりに胃を満たせる満足感に、かすかに感じた違和感は溶けていった。
「お仲間も別の部屋で寛いでいらっしゃいます。いつでもお会いになれますよ」
勇者はそれまで、仲間のことを全く気にかけていない様子だった。
「ああ...そうか、奴等も無事だったか」
勇者は詳しい経緯を聞かなかった。商人の口ぶりから、魔王を倒すまであと少しのところで相打ちになった、そこで自分の支援者が国まで送り届けてくれたのだと都合良く思い込んでいた。
同じ宿にいる聖女、弓闘士、魔法使いのところに向かった勇者を、商人は目を細めて見送る。
「こんなグレードの高い部屋でもてなす必要あるんですか?縄で括って連行するくらいでちょうどいいのでは...」
「そうしてもいいけどさ、そこそこ苦しい目にあって絶望するのと、夢のような時間を過ごした後に絶望するの、どちらの方が嫌だと思う?」
素の口調に戻して商人が笑顔のまま返すと、問いかけた部下の顔が引きつった。
勇者達をここに運んだ魔族の知り合いからの依頼は、帰郷するまで身の安全を守ることのみ。魔国と友好路線を進めたい王族が、暴走した貴族に関わった勇者をどうするかは、魔族も私達、商人も関与しないこと。
「魔王城ですばらしく(愚鈍で)見事(に無駄)な戦いをしたんだから、それ相応の対応をしないと、ね」
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勇者が目覚めて5日後の朝、この街の領主館から書状が届いた。
召喚状で指定されたのは、その日の夕暮れの時刻。
「ぷはぁ、人の奢りで飲む酒うめぇ!」
「それも高いやつ!最高〜」
「おつまみもレベル高いよね」
「あたし、こんなの食べたことないよ」
勇者達は昼前に起きて、昼食もそこそこに酒を飲んでいた。
この数日間で食べて、話して酒を楽しみ、騒ぎ疲れて寝る生活に慣れた4人。昼、夕、夜食だけでなく、頼めば甘味も酒も望みのままに運んでもらえる贅沢を味わっていた。
そんな中、届いた書状の送り主を見て、晩餐に招待されたと思った勇者達の気持ちは湧き立った。
「領主様に呼ばれたってことは...」
「俺達の功績が認められたって事だろ!」
「うわぁ!がんばって魔王城まで行ったもんね」
「領主館なら、食事も豪華なの出るよね〜」
喜色の混じった声で騒ぐ4人は、誰も書状の中身を詳しく読まないまま時は過ぎ――
夕刻、迎えに来た馬車に全員が乗り込むと、馬車は領主館へと走りだした。




