8.暴力
リオは誰もいない部屋の半開きのドアを見て、何か寂しそうな目をしていた。
「アリア……わからない」
リオは何か理解できないことを認めたかのように落ち込んだ顔で下を向き、ため息をついたのちに、机から手のひらサイズのなんの変哲もない石を取り出して手に握り、膝をついて目を閉じる。
「アリアと……また巡り会いたい……」
いつもより長く石を握りしめた後に石を机に置き、ベッドに力なく倒れ込む。
すぐにリオの意識は薄れていく。
目が覚めると日が沈み、部屋は薄暗くなっていた。
リオは体を起こして、何か憂鬱としているのか単に眠いのか、わからない表情でぼんやりと窓の外を見ていた。
何かを思い出したのか少し顔を上げて、後悔したように何か遠くを見るような目をした。
「……わからないよ……アリア」
その言葉は冷静な事実確認のような独り言だった。
その言葉がリオ自身の頭で繰り返され、リオの顔は悲しそうな顔に変わり、下を向いた。
「理解したいのに……理解できない」
諦めたようにリオは呟き、ベッドに座りテーブルからタバコとライターを取って、タバコに火をつける……
タバコが半分以上燃え尽き、灰皿にタバコを押し付けて。
「ハァ、ご飯……めんどくさいな……」
そう言い、部屋を後にする。
リビングのキッチンに行き、棚からカプセル状の薬を取り、その場で口に含み、飲み込む。
と、用が済んだかのように自室へ戻る。
……アリア、何が悪かったんだろう。
わからない、どうすれば……アルディに話してみるか
ベッドに転がっているスマホを取り、少し悩んだ後に誰かに電話をかける……
「なんだよぉ」
私にまず、喧嘩口調なアルディが電話に出ると、全く高圧的なアルディの言葉に屈せず、私はいつも通りにアルディに……
「ねぇ、アルディ……昨日、今日か……」
アリアのことについて言いたいが、アリアについて話して良いのだろうか?
だけど、とりあえずアルディに電話してしまったのだから、話すしかないか。
私は心拍数を上げながらどう言うかを悩んでいると……
「めんどくさいな、お前早よ言え!」
アルディが私を探してくるのでとりあえず言葉がまとまっていないがアルディに、
「……あのさ、今日さ、前にも話したけどさ、タバコをカッコつけって言った人、アリアって言うんだけどさ……」
私はアルディにアリアのことを話した。
どう出会い、なぜか惹かれて、「嫌い」と言われたことまで話した。
アルディは「めんどくさい」と言いながらも、私の話を聞いてくれる。
基本、口調が強いだけのいい奴なのだ。
「なんで、私はアリアに嫌われたんだろ……」
「そいつの頭がおかしいからじゃねぇの」
「そんなことないでしょ」
「そんなに見ず知らずの他人が好きか?」
アルディは私に現実を突きつけてくる。
いつも私にアルディは強めの口調で言う。
でも、アルディを知ってるからこそ、アルディは友達思いな人間だと知っている。
それが結果的に関係を崩しても、私のためになることを言ってくれる。
「アルディ……私は悪かったのかな?」
私がアリアに嫌な思いをさせてしまったのかを客観的にアルディに見てもらいたくて聞いてみる。
「ハァ……知らねぇよ……そう言えば、俺の友達が暴力とか殺人は世界で戦争してるんだから悪い事じゃないんじゃないって言ってたな」
アルディは戦争と同じで、悪いなんてないと言いたいのだろう。
単純にそれはアルディが私を慰めるために言っている言葉に私には見えてしまう。
だが引っかかる。なぜ戦争なんて昔の話をしたのか。
悪がいくらないとはいえ、私はアルディに聞く。
「いつの時代の話?」
「さぁ、単純にそいつが歴史でも好きだったんじゃないか? まぁ暴力とかなんて形が変わってずっとあるだろうけどな」
「今の時代にはないでしょ」
「そいつの『嫌い』もまた1つの形が違う暴力だけどな」
そうなのか……『嫌い』が暴力? そんなことはない、そんなことがあったらこの世界が酷い世界みたいだ。
そういえば、アリアの過去を否定したのもこの世界がそんな世界じゃないからだと思っていったんだけどな。
「そんなことはない」
アルディにも反射的に否定しまったが、これがアリアには嫌だったのか?
「……そうだな、まぁ考えろ……俺からはこれ以上なんも言えないぞ」
「……まぁ、ありがとう」
私は何もこもっていない感謝をアルディに伝えて、電話を切った。
「アルディ、ありがとう」
リオは電話を切った後に感謝がこもった言葉で感謝を呟いた。
アルディのおかけで少しわかった気がする。
この頃、私は考えすぎている……いつからだ? アリアに会った時か、考え……常にアリアは私を考えさせてくるな。
アリアの言葉をもっと考えないと、ダメだな。
アリアにも何か考えはあるんだろうし、ちゃんと考えないと。
「ハァ」
リオは疲れたようにため息をついた。
疲れた顔をして、天井を見上げる。
そんな時、インターホンの音が鳴る。
数秒しても母が出ないため、リオが仕方なく、玄関まで行き、ドアが開くと……
「アリア……」
そこにはアリアが立っていた。私の思考は一瞬停止した。
なぜ、アリアがここにいるのか、わからないから、脳がアリアだと認識していても否定してしまう。
アリアは私に何も言わずに、ドアを開けて、靴をずさんに脱ぎ、私の部屋に向かって行った。
私は必死になぜ「嫌い」と言ったのかを聞こうとすることを抑えて、アリアが忘れ物でもしたのか聞く。
「忘れ物でもしたの?」
アリアは私に何も答えず、さらに数歩、歩んでいく。
「アリア……」
そんなに長くない廊下だが、アリアがさらに数歩と遠ざかっていく、背中を見て、追い求めても手に入らない何かのように見つめていた。
だが、私の呟いた微かな「アリア……」という言葉には、なぜかわからないが、アリアは足を止めた。
「変なんですよ……変なんです」
アリアの背中を見て、私は、可哀想だと思ってしまった。
何か、誰もついてきてくれないであろう人だと感じてしまった。孤独なのかもしれない。
私はアリアを批判しているわけではない。ただ、何か辛いことでもあったのか聞いてみたいと思った。
私は……
「アリア……何かあったの?」
「何かあったのか、良い問いですね……私に、何かあったのか、それはわかりません」
「大丈夫だよ、アリア」
「なんだか、これでは私は異常者のようですね」
アリアは私の方を向いて言った。
アリアが言う「異常者」という言葉は、私がそのような扱いをすることを言ってしまったから言ったのかと思い、焦って、
「ごめん、アリア」
「……あなたはなんて、優しいんですかね」
「ありがとう」
「私は……私は?……あぁ、なんでもないです、すみません、私は大丈夫です」
アリアは一度「大丈夫」だと言いかけた時に疑問を挟んでいた。
その後、考えて「なんでもない」と言った。
その言葉は私には何か無理をしているように見えた。
「無理しなくていいんだよ」
「あなたは人を見るのが下手ですねぇ……これを気持ち悪いと言うでしょうね」
私はアリアが言ってることがよくわからないし、一見私を批判しているように聞こえるが、別に嫌だとは思わない。
なぜなら、なぜ、「気持ち悪い」と言いながら、アリアは私と話している。
「勿論、来るのは全然良いんだけど、嫌いなのになぜ私の家に来たの?」
正直この言葉を言わなくともわかっている。
おそらく、アリアは言葉通りの意味では言っていない。
「あなたは良い人間です、あと違うのかもしれませんね」
「良い人間?」
アリアは普通に喋っている。
勿論、会話が普通に成立することもあるが、まるで違う論理で話している様だと私は思った。




