3.運命
私はなぜか雨の中、歩いていた。
私にもわからなかった。だから、それを運命と思った。
空が厚い雨雲で覆われ、周囲は薄暗くなり、大雨の中、公園の噴水の目の前にリオが傘もささず、濡れた長袖を着て立っていた。
リオの表情はどこか嬉しそうで、気分がいいような、曖昧ながらもプラスの感情であることがわかる。
リオはポケットからタバコの箱を取り出し、箱からタバコを取り出して、手で雨を防ぎ、ライターで火をつける。
リオはタバコを吸い、暗い雨雲で覆われた空を見上げながら、息を吐いた。
リオの態度には、まるで何かを待っているようなものがあった。
あれは突然だった。
背後から、あの声が聞こえた。
「タバコですか……」
それは運命だった。
そして私の聞き慣れた、最も好きな声だった。
リオは後ろへ振り返る。
私と比べると少し高い身長で、私よりも少し歳上に見える外見をしていて、
顔は綺麗に整っている。
私より少し短い緑髪に、左耳にはいつも同じピアスをつけている。
緑の虚ろな瞳。
服装は今日も白のワイシャツに緑のエプロン、革のブーツ。
リオは言葉を放つ。
「なに?」
敵意はない。
リオが言葉を返す。
「いや、私も昔はカッコつけてタバコ吸ってましたよ。
ただ……なんか、懐かしいな、と」
私はその虚ろな目を見つめていた。
吸い込まれていくような、あの緑の綺麗な瞳を。
私はあの言葉で変わった。
リオは考えて理解するような素振りをした後に、
「え?」
私は困惑した……。
私の人生で、そんなことを言われたことはなかった。
私は意味もわからず、その言葉の意味を考えていた。
リオが意味のわからないことを聞いたように目を丸くして、口を開けていた。
「リオじゃね?」
後ろから男性の声がかかった。
その声も私は聞き慣れていた。
聞き慣れるはずのない声であるのに。
「アルディ? え?」
リオが振り向くと……驚いたような顔をした。
私の友達であったアルディが立っていた。
アルディとは幼馴染で、ずっと知っている。
アルディの見た目は、男で黒いパーカーを着ていて、あんまり言うことがない、普通の人だ。
「いや、なんかお前見っけたから声かけてみたんだが……」
リオは納得したような顔をしていると、焦ったような顔になり、
「私は邪魔そうなので帰りますね」
私はまだ話していたかった。
まだ聞きたかった。
問いたかった。
だが、私はそれを言えなかった。
運命は本当に嫌いだ。
あの時のアルディは、私を見て申し訳なさそうな顔をしていた。
「なんか、ごめんな」
「いや、大丈夫」
「大丈夫」と言いながらも、リオの顔には喪失感が浮かんでいた。
「……なぁ、普通にさっきの奴、お前の友達か?」
「いや、なんかさっきタバコ吸ってたら話しかけてきてさ」
リオが持っている吸いかけのタバコを見て、少し考えてから言葉を発する。
「……なんかタバコがカッコつけ? とか言ってたけど、どういうこと?」
私にとっては、その言葉は違和感だった。
私は、自分がズレているのかと思った。
だから、アルディに聞いた。
なんとも言えない違和感を解消するために……。
だが、もちろん、私から違和感は消えなかった。
「ん? そんなこと思ったことないぞ」
私は、あの純粋なアルディの「思ったことない」という言葉に、自分はズレていないことに安心した。
だが、違和感は増し、疑問も増えた。
私はまた会いたいと思った。
「まぁ、そうだよね……」
リオが相槌を打つように言い、
「どっか行くか? 今日は雨だぞ!」
「あ、うん」
アルディが私を誘ってきたが、私は「カッコつけ」という言葉……いや、あの虚ろな瞳……。
全てが離れなかった。
離れるわけがなかった。
リオが数秒沈黙した後に、
「家帰ってゲームでもしよ」
「あぁ、わかった」
私が断ったから、アルディは落ち込んでいた。
そのまま、公園の噴水から私とアルディは逆方向へ、雨の中を歩いて行った。




