17.ハートが現れた!
下も上もなかった。
「なぁ、お前は全能か?」
「あぁ、私は全知全能だよ」
「神か?」
「そうだよ、神さ」
「お前は何が、できる?」
「全てを知ってる、全てができる」
「お前ができないことはないのか?」
「そんな物は存在しない」
じゃあ、なんで私は今、他者に悩んでいる?
なぜ、悩める?
全能だから、違う、全知だから、それも違う。
「俺は、パラドックスを保持した、全ての矛盾を保存しても、全能じゃなかった」
「じゃあ、全能ってなに?」
「お前の精神だ」
「全知ってなに?」
「お前の精神だ」
私の精神……私の精神なのに、私自身は他者に悩んでいる。
「私と精神は同じなの?」
「同じ? 違いますよ、そんな低レベルな物とは別です」
私と精神は違う? じゃあ、精神はなんなの?
他者はどこに、
「アルディには問題があります、例えば私たちを描いていても、あなた自身を描く作者が生まれますよね?」
「本当、俺が嫌いな質問してくるねぇ。それはハートに回収されるな。その上でいうなら、確かにその物語と現実の再帰は存在する。問題は結局、外部を作ることだ。だから現実外部を作っても、必ず物語として外を要する。だから内側から描けば、表面的には解決する」
「では、あなたは物語内から物語を描くと」
「そう、俺は内部から全てを掌握するが、俺らは必ずしも精神の一部でしかない。わかるか、この意味?」
「物語を精神の下位に置く、そういうことでしょう。それはあなたが一番わかっているはずです」
『本を閉じた』
嫌だ、私の精神が他者を回収することは許さない。
許されない、私は誰にも押し付けたくない。
『本を閉じた』
嫌だ、嫌だ、嫌だ……
『本を閉じた』
怖い、怖い、怖い……
本を、本を、本を、閉じ続ける。
でも、終わらない、永遠に私は存在している。
私の物語を終わらせても、他者は私の中だった。
そういう物語だった、のに終わらない。
「枠組み」
アルディの声が私の精神に響いた。
「ハートだ」
アルディの声は私の精神の中を反響し続ける。
終わらない、声が小さくならない、無限に響く、怖い、終わらない、嫌だ。
「再帰しろ、再帰しろ、再帰しろ、再帰しろ……」
怖い、わからない、声が再帰している。
アリア!
「大丈夫、あなたの精神の中に全て収まっています」
私の精神に反響する声は止まった。
「無限に物語を閉じても、無理だっただろ? だって、お前は押し付けてるからな」
「黙れ」
『夢だった』
「あぁ、悪い夢を見た、覚えてないけど疲れた、とっても長くて、怖くて、考えた気がした」
私はベッドから起き上がり、外を見る。
今日も高層ビル群が並んでいるが、とても晴れた天気。
綺麗な都市、綺麗な街、綺麗な世界。
私はタバコを吸う。
「こんなタバコ買ったっけな?」
「ハァ〜、今日は少し遠くまで出かけようかなぁ、まずは朝ごはんを食べなきゃ」
キッチンに向かう。
「今日はコーヒーを飲もう」
ポットでお湯を沸かしながら、コーヒーの豆を挽く。
「ん〜、良い匂い」
『夢だった』
「あぁ、悪い夢を見た、私は感情相場っていう作品の主人公、リオ・クエリだった。なぜか怖かった、ズレてた」
夢だった、夢だった、夢だった……
「夢だったんだよ!!」
「お前は他者に押し付けてる」
アルディは目を大きく開けて、楽しそうに言う。
「え〜、何でぇ、私の中にいないのかなぁ、なんで、だろうねぇ」
私はアルディに悲しそうに言う。
私は怒ってる、嫌いな言葉。
私は喜んでる、他者だ。
アリアが許そうとしない、他者だから。
「なんで、そんなに世界が綺麗に見えるのかなぁ……なんでさ、地面があるの、空があるの、人がいるの、誰もいないよねぇ」
「おかしいな、お前は」
「おかしい、私が?」
私はそう言った。
今、私の世界は実態を保っている。
アリアは消えてしまった。
「黙れ」
アルディを壊した。
「あぁ、また押し付けてるなぁ」
アルディは笑っていた。
それはアルディじゃない、ハートだった。
「死ね、死んでくれ、お願い」
殺す、殺す、ハート、ハート、ハート……
「もう、やめて、お願い」
「お前は押し付けてる」
『本を閉じた』
「ハァハァハァ、怖い、怖い、怖い、怖かっ、」
「無理だ、物語を無限に超越したところで、それはハートでしかない」
「死ね!!!」
全てを私の精神に回収する。
再帰もだ、忌々しいハートと枠組みも、全て私の精神が包含してやる。




