12.感情
私は目を開けた。
周囲は眩しく見えた。
さらに物体の輪郭を捉えた時にわかった。
そこが自分の部屋であることが、そして見ている景色的にベッドから丁度落ちて、仰向けになっているような大勢であることが。
「ねぇ、リオ」
アリアの声が、私の死角から聞こえた。
私は起き上がり、周囲を見渡すと、アリアは椅子に座ってこちらを見下ろしていた。
「なんで、アリアが……」
「さっき、会ったじゃないですか」
さっき、会った? ……そうだ、アリアが……
「変な夢見たかも、アリアが透けててさ、円が終わらなくて、アルディっていう友達に殺される夢だった」
「そうなんですか、でもそれは現実ですよ」
私は硬直した。
表情も思考もアリアの言葉を拒否するように、
……いや、アリアのいつものすれ違いだとすれば……
「それは、普通の意味で、現実ってこと?」
「さぁ、どうでしょうか?」
アリアは私に問うようではなく、自分自身でもわからないような言葉だった。
いや、普通に考えて、私が生きているのだから、夢ではあったはず。
「あなた、一体あなたなのですか?」
今のアリアの言葉は私に聞いている。
私が私なのか? どういうことだ?
「私は私なんじゃないの?」
「それは私が1番、わかりませんね」
アリア自身がわからない? なぜ?
答えを持っていて、私に聞いたわけじゃないのか?
「でも、現実にあなたはいると言えるのですか? ここも夢なのかもしれない」
私は一瞬、恐怖した。
だが、すぐに頬をつねって、
どこか不安そうに、
「痛い、から、大丈夫」
「痛いとは、なんなんですか? 感情なんですか? それとも単なる神経の働きですか?」
「感情なんじゃない?」
そう、痛みは大切な感情なんだ。
「あなたの感情は、なぜあるんですか?」
私は少し、目を細くした。
アリアが言っていることはごく当たり前のことだからだ。
アリアの意図が見えない、それは誰でも知っているはずなのに、
「感情を借りてるからあるんでしょ」
「なぜ、借りてるんですか?」
「なぜって、感情が作れなくなったからでしょ」
「なぜ、感情を作れないのにどう借りてるんですか?」
「自然を循環してるからだよ」
アリアはとても当たり前のことを聞く、それを聞くのは別にいいと思う、でもなぜそんなことを聞くのかがわからない、その聞いてくる人がアリアであるからさらにわからなくなる。
「感情は循環できなくならないのですか?」
「なるよ、死んじゃったらね。 だからみんな、死ぬ前に感情を全部売るんだよ」
「対価があるんですか?」
「ないよ、みんながみんな助け合ってるだけだよ」
「素晴らしい世界ですね」
自分が褒められたかのようで、アリアの言葉は嬉しかった。
嬉しそうに、私は、
「そうだよね、とってもみんな優しいしね」
「あなたは今嬉しそうですけど、その感情はどこに行くんですか?」
「それが、自然に溶け込むんだよ。 そして自然から感情をもう一回、抽出して人がまた使う。それの繰り返しだよ。 だから今の私の感情だって、誰かが何回も思った感情なんだよ」
「では、人は感情を保存してるんですか?」
「まぁ、そうなのかな? 持ってる感情に少しは左右されるから、毎月、配給されるんだよ。 人は結構長い間感情を保存してられるけど、自然は少しの間しか保存できないんだよね、正確には時間が経ち過ぎると抽出できなくなる」
「だからみんな、優しいのですかね」
「まぁ、そうだね。 でもちょっとは痛みや悲しみを感じれるように、怒りとかの感情も持ってるよ。 でも、あんまり持ち過ぎると良くないからよく保存に困るんだよ、でも大切な感情なんだけどね」
私は初めてこの世界に来た人にこの世界を説明しているような気分だった。
でも、私はこの世界の優しさを伝えられて嬉しい。
「じゃあ、保存に困るのならどうするんですか?」
「保存機械で保存するんだよ」
「その機械って、人の形してますよね」
「まぁ、確かに……まぁでも人ではないし」
「その機械と言っている物は生物ですよね」
「まぁたしかに、そうだね」
「その保存装置に負の感情を詰め込んで、どのような状態になるのでしょうかね? まぁ、大量の悲しみや怒りを感じ続けるのでしょうね」
「まぁ、そうだね」
アリアは当たり前のことを普通に聞いてくる。
別に保存装置の話は知っているようで聞いてきたようだったけど、
「あなたは、なぜ、行動するですか? 感情ですか?」
「なんで、行動するか……感情とかなのかな?
でも状況とかもあるから、全部含めて安い、高いじゃない? そっちの方が価値があるみたいに」
「いいですね、感情がなくなってもそうなりますけど、なぜなんですか?」
「だって、ロボットだって最適を選択するでしょ、今まで感情があったんだから、感情が何なのかはわかるんだよ、だから生きた方がいい、とかは思うんだよ。 そこに感情がないだけで」
「全ての感情がこの世界から消えてしまったらどうなるんでしょうかね?」
「まぁ、人口は減少していってるから、事故とかで感情が循環できなくとも、今のところは大丈夫だよ。 今更だけど、なんでこんなことを聞いたの?」
アリアがこんなことを聞く理由がわからない、所々で聞くではなく、アリアが説明していた。
まぁ、こんな感情の話を知らないことはおそらくないとは思うが、なぜ、聞くのかがわからない。
「説明しないと困るじゃないですか、あなたが……この世界は素晴らしいですね」




