10.円
アリアはまるで答えのように私に「私はあなたで、あなたは私」と言った。
だが、その言葉とはまたすれ違いが起きている。
私は「アリアが私で私がアリアである」その意味はわからない。
その言葉をアリアが言い終わると、アリアは私に近づいて来る。
アリアは私の目の前までくると、私の手を掴もうとする。
だが、アリアの手は私の手をすり抜けた。
手が触れているのに、世界がバグを起こしているようにすり抜けて重なっている。
私はその光景を見て、目を大きく開き、硬直した。
え?……何が起きてるの? ありえない。
手が……手がすり抜けた?
私は恐怖からか驚きからか一歩下がり、自分の手首をもう片方の手で掴む。
アリアは私が一歩下がり、自分の手を掴み見ていると、
「これが私の理想です」
理想? これが……手が透けることが……
取り乱したらダメだ、考えないといけない。
なぜ、透けた……アリアに聞くべきか、
「なぜ、腕が透けたの?」
「それはですねぇ、不思議な現象も世界にはあるんですよ」
答えになっていないが、
「答えになっていないが。こうやって不思議な現象もあるんですよ」
「なんで、考えてることがわかったの?」
いや違うな、なんでわかったかじゃない、アリアが言いたいのは私の思考を読んで不可解な現象を説明したのか。
「理解してくれた、みたいですね。急にSFになってしまいましたね」
「本当にね……」
本当にSFになってしまった、アリアは会った時から少し変わっていたけど、人間なの?
……変だからこそ、悩んでるとか、この思考も読めるなら、さらに悩むんじゃ……
「意外と人間のように私を見るんですね」
「それはそうでしょ、だって人間でしょ」
「そうなんですかね? 私にはわかりません」
いや、冷静に考えろ。
今は普通に会話してる、すれ違っていない、なんでだ?
なぜ、すれ違わない。
「すれ違ってますよ、すれ違わないことが私の理解として」
どういうことだ? すれ違わないことが……そうか、すれ違うと思ってる私の考えと、すれ違わないことがすれ違っているということか。
「部屋に行きませんか?」
「あぁ、そうだね」
考えすぎて忘れていたが、ここは私の家の廊下だった。
アリアが廊下を真っ直ぐ進んで、私の部屋に入る。
アリアは私の部屋に入ると迷わず、私のベッドに座る。
私は机の下に収納されている椅子を出して、座る。
アリアは私の部屋の壁にかかった時計を見ながら、
「ハートですね」
私の家の時計はハートの形はしていない、何に対してハートと言ったんだ?
私の家の時計は普通の円形で、中は普通に数字が並んでいるだけだ。
「枠組みなんですよ」
枠組み? 時計を見てなぜ、そんな言葉を?
時計の淵が枠でできているから、枠組みと言ったのか?
「円って、終わらないですよね」
これは普通に聞いているのか……
「そうだね、円は丸いから終わらないね。枠組みとかって何に対して言ってるの?」
「円ですよ。時間というのも繰り返しますよね」
「円」それは答えなのか、もう一段階考えないといけない、ヒントか?
時間は繰り返すと言った、それはどういうことだ?
時計を見て言ってるなら単純に針が繰り返し回ると言っているのか?
でもアリアがそんなに物理的な話をしているとは思いづらい、なら時間というものに対して言っているのか?
いや、それより「時間も」これが大事だ、円は終わらないと言いたいのではなく、繰り返すこと、それか繰り返し終わらないと言っているのか、
「そうですねぇ〜……同じってのはいいですよね」
アリアは独り言を言っているように見えるが、アリアの言葉には論理的飛躍がとてもある。
すれ違いの状態は論理的飛躍なんじゃないか?
「同じ」にも円や繰り返しと繋がるヒントがあるはず……何だ、わからない。
繰り返すし同じと言っているのか?
「段階を間違えましたね」
やはり、私の心を読んでいるかのような言葉をアリアは平然と言う。
段階を間違えたとは、私の心を読んだと推測して、単純に論理を飛躍しすぎて、私が間違えたということか?
「あなたは、なぜ私がこんなことを言うと思いますか?」
確かにアリアが論理的飛躍について自分自身で気づいているなら、なぜ、それをやるのか?
わからない、なぜ、そんなことをする必要があるのか、
「それはあなたが後付ける時、わかりますよ」
後付けるとは、何だ?
後で、私がそれでわかる、なにが……
私が考えている途中でアリアは言葉を挟む。
「それより、そろそろ終わりです」
何に対して、アリアはその終わりを使った?
そろそろ終わりというのに、今度は口を挟まない。
私が考えることが終わりではなく?
いや、一旦考えを切り替えろ、普通に今日はたくさん話したから単純に終わりということか?
普通なら……
また、アリアは考えている途中でピンポイントに口を挟む。
「普通ならですね」
おそらく考えが間違っていることがアリアの言葉でわかった、また思考を読んだかのような言葉……
アリアは私に手を出した。
その手は普通に変哲もない女性の細い手だ。
「見てください」
アリアが手のひらを何度も見るが、何もなかった。
私は言われた通り、アリアの手のひらをジッと見つめる。
やはり、何かの意味が……
私がジッと見ていると、完璧な円が見えてきた。
円以外が徐々にボヤけていき、意識が眠気に襲われたかのように消えていく。




