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弟子たちの語らい――2

 また別のとき、世尊がヴァイシャリーの郊外にある大林に留まることがあり、そののち林を()でて上座の弟子たちや他の弟子たちと共にナーデカ村に近いこの牛角娑羅林に住むことがあった。

 マウドガリヤーヤナ(目連)はその夕方、禅定から立ってマハーカーシャパ(大迦葉)の(もと)へ行き、誘った。

「友よ、これから法を聞くために、シャーリプトラの所へゆこうではないか」

 そして彼はアニルッダ(阿那律)も(いざな)い、三人でシャーリプトラ(舎利弗)の(ところ)へ赴いた。

 そのときアーナンダ(阿難)はこれを知って、シャーリプトラの末弟でもあるレーヴァタ[離()波多(はた)]の(ところ)へ行き、云った。

「レーヴァタよ、あの人々は聞法(もんぽう)のためにシャーリプトラの(もと)へ赴かれた。私達も行こうではないか」

 と、後を追っていった。

 シャーリプトラは弟のレーヴァタとアーナンダとが遠くより来たのを見て、アーナンダに呼びかけた。

「アーナンダよ、よくぞ来られた。牛角娑(ごかくさ)()(りん)は楽しい(ところ)である。朗らかな夜ではないか。娑羅樹は実をつけ花をつけ、神々しい香気があたりを込めている。アーナンダよ、いかなる種類(たぐい)御弟子(みでし)がこの牛角娑羅林に更に輝きを増すであろうか」

 広い額には深い皺が刻まれていた。その下にある澄んだ双眸(そうぼう)に智慧の光を秘めて、シャーリプトラは若いアーナンダに問いかけた。

 ときには師に代わって法を説くほどの偉大な先輩に声をかけられ、一瞬足を止めたアーナンダだが、すぐに近くまでやってきて坐り、答える。

「友よ、多くを聞いて正しく記憶し、この美しい仏の教法(みおしえ)を心に蓄え、善くさとって、人々のために文句正しく間違いなく、その煩悩(けがれ)を滅ぼすために説くとする、かような者が牛角娑羅林に輝きを増すものであると考えます」

 シャーリプトラは次にレーヴァタを顧みた。

「レーヴァタよ、アーナンダは自分の意見としてこのように説明した。いま私は(おんみ)に尋ねたい、いかなるものがこの牛角娑羅林に輝きを増すであろうか」

 兄によく似た面差しの若いレーヴァタも、少し考えたのち答えた。

「シャーリプトラよ、私の意見では独居を好み、独居を愛し、内に心を静めるにつとめ、洞察の知見を具えている者が、牛角娑羅林に輝きを増すものであろうと思います」

 そしてシャーリプトラは、アニルッダ、マハーカーシャパ、マウドガリヤーヤナと順番にこの問いかけをした。

「友よ、レーヴァタは自分の意見としてこのように説明をした。いま私は順次に(おんみ)()に尋ねたい。いかなるものがこの牛角娑羅林に輝きを増すであろうか」

 目を閉じたアニルッダが、耳をすますような仕草をして答える。

「友よ、肉眼の及ばぬ清らかな天眼(てんげん)を以って千の世界を眺める、例えば(まなこ)あるものが高楼(たかどの)に上って千の国々を()るように、肉眼の及ばぬ清らかな天眼を以って千の世界を眺めることの出来る者が、この牛角娑羅林に輝きを増すものであると思う」

 次に温和な中にも(いかめ)しい風情があるマハーカーシャパが云った。

「友よ、自ら森に住んで森に住む徳を(たた)え、自ら托鉢して托鉢の徳を讃え、自ら襤褸(ぼろ)(まと)って襤褸(ぼろ)(まと)うことの徳を讃え、自ら(さん)()を所持するにとどめて三衣を所持するにとどむる徳を讃え、自ら欲少(すく)のうして欲少なき徳を讃え、自ら()ることを知って足ることを知る徳を讃え、自ら独居して独居の徳を讃え、自ら雄々しく勤め励んでその徳を讃え、自ら群集を遠ざかって群集(ひとびと)から遠ざかることの徳を讃え、自ら戒を修めて戒を修める徳を讃え、自ら(じょう)を修めて(じょう)を修める徳を讃え、自ら智慧を得て智慧を()る徳を讃え、自ら解脱して解脱の徳を讃え、自ら解脱知見を起こして解脱知見の徳を讃える。シャーリプトラよ、かようなものが牛角娑羅林に輝きを増すものであろう」

 そして最後に、マウドガリヤーヤナが答えた。

「シャーリプトラよ、ここに二人の仏弟子があって、法の論議を為すに、互いに問いつ答えつしてしりごみしない、またこの論議の仕方が法にかのうておる、かようなものがこの牛角娑羅林に輝きを増すものであろう」

 この友の上にも歳月は年輪を刻んでいた。けれども端正な容貌は変わらず、修行によって得た精神(こころ)の平安は、彼に清冽(せいれつ)とも感じられる気品と揺るぎない自信を与えていた。

 マウドガリヤーヤナは答えが一順(いちじゅん)したのを見て、シャーリプトラに()いた。

「シャーリプトラよ、私達はすべて意見を述べた。いま私達は(おんみ)に問いたいと思う。シャーリプトラよ、牛角娑羅林は楽しく、この夜はまことに朗らかである。娑羅樹は実を結び花をつけ、神々しい香気はあたりを込めている。シャーリプトラよ、いかなる御弟子(みでし)がこの牛角娑羅林に輝きを増すであろうか」

「マウドガリヤーヤナよ、ここに仏弟子があって、朝も昼も夜も心を(おさ)えて、心に制されぬ、例えば王や王の家族の人がさまざまの色の衣服(ころも)を一杯に納めた衣箱(はこ)を持っており、朝も昼も夜も自分の思いのままの色の衣を出して着ることが出来るように、自由に心を抑え心を支配することが出来るならば、このものが牛角娑羅林に輝きを増すものである」

このように答えてから、シャーリプトラは云った。

「友よ、我々はすべて自らの意見を述べた。これから世尊の御許(みもと)へ参り、この(わけ)を申し上げ、我らが師の教えたもう通りに記憶しようではないか」

 そこで彼らは世尊の(もと)へ赴き、シャーリプトラが代表して語った。

「世尊、今日はこれらの友達が私の(ところ)(のり)の話に参りました。私は(のり)の友たちに、いかなる種類(たぐい)御弟子(みでし)がこの愛すべき牛角娑羅林に輝きを増すかを尋ね、銘銘(めいめい)意見を申して、ただ今御許(みもと)へ参ったのであります。世尊、私達の意見のうち、いずれが勝れておりましょうか」

 そしてシャーリプトラは一人ひとりの意見を再び述べあげた。

 世尊は応える。

「シャーリプトラよ、すべてがよい。これは銘々(めいめい)のような(とく)(だつ)があって初めて云い得ることである」

 と、さらに加えて云った。

「……しかしまた、かようなものも牛角娑羅林に輝きを増すという私の意見を聞くがよい。シャーリプトラよ、ここに我が弟子にして、食後鉢(はつ)を置き、静かに坐って(からだ)も心も正しうし、心を決めて云う、『私の心が執着(とらわれ)から離れ、煩悩(けがれ)から解脱しないうちは、この座を立たぬであろう』と。シャーリプトラよ、かようなものが牛角娑羅林に輝きを増すものである」 





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