表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

15話 橙の決意

 無事に体に戻れた俺は、精密検査が始まるまでそのまま病室で待機することになった。


 蒼仁先輩の姪のももこちゃんは、吹石先輩の言う通りに俺とキス出来たのが効いたのか、一週間後に控えた手術を受けると力強く答えていた。


「何かあったらすぐ連絡しなよ? いつでもいいから 」


「入り用があったら言ってね、お大事に! 」


 藍と紫苑は、付き添いを楓に任せて朝早くに帰って行った。


 ももこちゃんのキスで目覚めたと突き通したはいいが、二人には引く内容だったのだろう…… ちょっと距離感を感じて、これから先仲良くやっていけるか不安になる。


 菜のはは大泣きして疲れたのか、復活した俺を見て気が抜けたのか、俺が寝ていたベッドで熟睡している。


「アタシ、菜のはちゃんにちゃんと謝らなきゃ 」


 菜のはの頭を撫でながら、楓はその時の状況を思い出してフフッと笑った。


「アンタが車に撥ねられたって菜のはちゃんに連絡した時、この子…… 一発目になんて言ったと思う? 」


「うぇ? うーん…… 『お前は無事なのか』とか? 」


 俺の顔をじっと見た後、楓は『正解』と言ってクスクス笑った。


「アンタかと思うくらい他人の事を心配してさ…… 『お兄ちゃんは絶対大丈夫』って何度も励まされた。 アタシが沈んだ顔をしてたら、思いっきりひっぱたかれたんだ…… 『そんな顔する事がダメ! お兄ちゃんが起きた時は、絶対笑って迎えろ』って 」


「お…… う 」


 菜のはが人を殴るようには思えないが、それだけ気を張っていたからなのかもしれない。


「まぁ、菜のはには俺も助けられたな 」


「え? 」


「い、いや! お前と一緒にずっと付き添いしてくれたからな 」


 菜のはのキスで体に戻れたとはやっぱり言えなかった。


「ありがとな。 お前のおかげで無事もどってこれた 」


「アタシじゃないわ。 感謝するんならももこ(・・・)って子にすればいいじゃない 」


 背中を向けて急にふくれる楓だったけど、俺の腕にピトっと寄りかかってきた。


「でも…… アタシが少しでもアンタの役に立てたのなら嬉しい 」


「お前との経験がなかったら、俺はきっと途方にくれるだけだった。 お前はあの孤独な状況で2年間も過ごしたんだよな…… ホントすげぇよ 」


「そうでもないわよ? 気が付いたら2年経ってただけ 」


 そんな筈がない…… あの孤独感に耐え、自分を見失わずに気付いてくれる人を探し回って、そして俺に辿り着いた。


 そう考えていたら、無意識に楓の腰に手を回して引き寄せていた。


「…… なによ? 」


「お前とキスしたい 」


 ポンと楓の頭から湯気が出る。


「あ、藍ちゃんとか紫苑とか、菜のはちゃんやももこちゃんといっぱいしたでしょ! もう十分じゃないの? 」


「俺はお前としたい 」


 しどろもどろする楓をこちらに向かせると、楓は恥ずかしがりながらも目を閉じて唇を差し出してきた。


 雰囲気を壊さないよう、そっと唇を重ね……


「あー…… 取り込み中もうしわけないんだが 」


「ひゃあ!? 」


 入り口から蒼仁先輩にしっかり見られてました! 言ってからドアをノックしたのは絶対ワザとだろ!


「検査の用意が出来たので呼びに来たんだが、30分延長するかい? 」


「しません! 」


 楓に菜のはを任せ、俺は蒼仁先輩の後に続いて病室をそそくさと出た。


「検査ついでに、君達を巻き込んだ男の現状と楓君の両親の行方の話をしよう 」


「うぇ!? 行方が分かったんですか? 」


 振り向かずに『ああ』と答えた蒼仁先輩の声は重たいものだった。


「楓君に話す前に、君に話をしておいた方がいいと思ってね…… 」


 ということは、俺らが考えていた最悪の事態…… いや、もっと悪い状況なのかもしれない。


「これだけは聞いておこうか 」


 そこで蒼仁先輩は立ち止まって俺に振り返った。


 その目はいつも何かを楽しんでいるような先輩ではなく、真剣な目をした全く別人に見える二ノ宮蒼仁という男。


「どんな結果であれ、君は鳥栖楓という女性を守れるかい? 」


 なんだ…… 決まり切った事を聞くんだな。


「守りますよ。 俺の力が及ぶ限り、誰を相手にしようが守ってやります 」


 ドン、と蒼仁先輩の拳が俺の胸を突いた。


「そこは『力が及ぶ限り』なんて小さい事は言わないものだよ 」


 フフッと微笑んだ蒼仁先輩は、再び前を向いて歩きだした。


「小さい…… か 」


 確かに小さいかもしれない…… 菜のはの時のように、『絶対守る』と胸を張ればいいんだ。


 もしかしたら蒼仁先輩も、吹石先輩と婚約する時にそう誓ったのかもしれない…… と、何となくだけど思った。


 



 MRIの機械に入りながら、スピーカーから蒼仁先輩の声を聴く。


 ― まず、君を撥ねた冴島銀也の事だ。 あの軽自動車は彼女らしき女性の車らしいんだが、彼自身は無免許だそうだ。 彼女らしき人物は盗まれたと証言しているらしくてね、無免許運転、窃盗、人身事故…… 更に公務執行妨害等々、しばらくは刑務所にはいることになるだろう ―


「確か逮捕歴もあるとか 」


 ― らしいね。 まあ彼は警察が関与するから手は出せないが、彼に関わった人物をどうしようかな…… フフフ…… ―


 怖い怖い怖い! 行方不明者が出たら、真っ先に蒼仁先輩を疑おう。


 ― それと、楓君の両親と白村美穂子の行方なんだが…… ―


「はい…… 」


 俺にとっても、その件の方が本命だ。


 ロン毛をボコボコに殴ってやりたいけど、刑務所行きならもうどうでもいい。


 ― 広島県の江田島市の、海中に沈んだ車の中から3人とも遺体で発見されたそうだ ―


「…… そうですか 」


 ― 心拍数もあまり上がらないか…… 予想はしてたんだね? ―


「ええ、まぁ 」


 本当に最悪の状況…… 疎まれてたとはいえ、楓にはもう、家族と呼べる人がいなくなってしまったんだから。


 ― 状況は、恐らく君が予想した通りだよ。 白村美穂子はトランクに押し込められていたそうだ ―


 切羽詰まっての無理心中か…… ホント、やってくれる……


「ああいう親って勝手ですよね…… 子供の事なんか何も考えない 」


 ― 全くだ。 僕にはこの事実を、楓君にどう伝えていいものかわからない ―


 声のトーンから、蒼仁先輩が俺を煽っているようには聞こえない。


 無敵の蒼仁先輩でもそんな事があるんだな……


「…… 俺が伝えます。 教えてくれてありがとうございました 」


 MRIから出てきた俺に、蒼仁先輩はコントロール室のガラス越しから頭を下げていた。


 ― 困ったことがあったら言って欲しい。 二ノ宮家、吹石家で君達を全力でサポートする ―


 その言葉に俺は何も答えず、蒼仁先輩に一つ微笑んで見せた。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ