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16話 親の尻拭い

 楓の両親の無理心中は、朝のワイドショーで運転操作の誤りによる事故として報道された。


 残された遺族への配慮なのか、二ノ宮家か吹石家によるメディアへの圧力なのかは分からないが、少なくとも楓が親の不倫騒ぎで叩かれることはないだろう。


  アタシ、白村さんの遺族に会ってくる 


 白村側の遺族には何かしらの誠意を見せなければならないと、楓は白村家を訪ねることを決めていた。


 警察には『やめた方がいい』と止められたが、『親の犯した事だから』と言って、埼玉の白村美穂子の実家に向かったのだった。


「アンタまでついてくることなかったのに 」


「お前一人で行かせられるかよ 」


 もちろん俺は同行し、万が一を考えて秋葉さんも同行してくれた。


 秋葉さんの自家用車で白村宅まで送ってもらい、門に取り付けられているインターホンを押す。


 出てきた小柄な男性は、きっと白村美穂子の父親…… 真っ赤に目を腫らし、玄関からじっと楓を睨んでいた。




「あたた…… 」


 白村家を後にした俺達は、怪我をした楓を休ませる為に広島駅に程近い喫茶店に入った。


「だからやめておきなさいと言ったのに 」


 楓は殴られたこめかみをタオルで冷やしながら、秋葉さんに苦笑いしていた。


 白村美穂子の父親は、『申し訳ありません』と深々と頭を下げた楓をいきなり殴りつけ、髪を掴んで引きずり回して押し倒したのだ。 


 俺と秋葉さんが咄嗟に止めたのだが、当然相手の怒りは収まらず…… 半分逃げるような形で引き下がってきたのだった。


「もう近寄らない方がいい。 お前が責任を感じることないだろ 」


「そうはいかないわよ。 アタシは加害者の娘だもの、『取り返しのつかない事をしました』って謝らなきゃ 」


 楓がやった訳じゃないのに…… 娘に対しても非情な親が勝手に起こした事なのに…… 秋葉さんが悪い訳ではないが、つい警察関係の彼を睨んでしまう。


「確かに謝罪は必要な事だと思うが、貝塚君の言う通り日を改めた方がいい。 事件からまだ日も浅いから被害者側も混乱している。 落ち着いた頃に、また私も付き合おう 」


「はい…… 」


 刑事という立場の人に説得されて、楓は大人しく帰る事にしたようだった。


 だが納得がいかないのは俺の方だ。


 言い換えれば楓だって被害者…… 突然保護者を失い、ケガまでさせられた。


 ハッキリ言って俺には白村なんてどうでもいいし、心配なのは楓のこれからの事だ。


「あの…… 俺達はこれからどうすればいいんですか? 」


「…… 君達はしっかりしてるねぇ。 私が君達くらいの頃には、責任も何も考えた事…… 」


 刑事になった人がそんな事言っていいのか? というか、そんな話は別にどうでもいい。


「あぁ…… 失敬。 正直、法的に君達が何をしなければならないというものはない。 一つ心配なのが、楓君を引き取ってくれる後見人なんだが 」


「アタシに身内はもういません。 二ノ宮家にももう迷惑をかけたくないし、アタシ…… ぶっ!? 」


 一人で何とかする! なんて言わせねぇ…… そう思って隣に座る楓の口を塞ごうとしたら、思わず楓の鼻に張り手を入れてしまった。


「痛っ! いきなりなにするのよ! 」


「うるさい黙ってろ! どうせお前は『一人で生きていく』とか言うつもりだろが! 」


「言わないわよ! アンタがいるもん! 」


 しれっと照れる事を言う楓に思わず固まってしまった。


「ハハハ…… 心配して損したよ、君には良いパートナーがすぐ側にいるんだね 」


 厳しそうな顔を崩さなかった秋葉さんが柔らかく笑うものだから、俺達は揃って顔を赤くする。


「とはいえ、貝塚君もまだ未成年…… 何をするにしても、君の親御さんの承諾が必要になるが 」


「俺が成人すれば問題ないんですね? 」


 俺の即答に面食らった様子の秋葉さんは、『手続きは大変だよ』と笑った。


「構わないです。 どんなに面倒臭くても楓を守る為なら何でもする! 今成人が必要なら親父を説得する! これまでもそうしてきたし、これからもそうです! 」


「…… 言い出したら真っ直ぐしか見ないというのは、蘇芳君の言う通りだな 」


「うぇ? 遠藤? 」


 コーヒーカップを片手に、秋葉さんは笑いながらやれやれといったため息をついた。


「蘇芳君から聞いているよ。 君は『良くも悪くも真っ直ぐだ』ってね 」


 何が真っ直ぐなんだか分からないけど、良くも悪くもってなんだよ。


「親御さんと話してみるといい。 楓さんはもちろん、君の将来にも関わることだからね 」


 そう言って秋葉さんはコーヒーカップを煽った。


「燈馬、アタシ…… 」


 楓は俺の袖を引っ張って、潤んだ目で見つめてくる。


「そんな顔すんなって。 何も心配することないから 」


 自信満々で楓に笑ってやると、楓は涙を浮かべて『うん』と小さく頷いた。


  


  

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