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14話 本当のキスは

「ウチから行く 」


 最初は藍が来るらしい…… 男女問わず一番仲がいい奴だけど、恋愛対象としては見れない。


「燈馬…… 一度フラれたけど、もう一度チャンスちょうだい 」


 ギシギシと軋むベッドの音と鼻にかかる吐息。


 すぐ目の前に藍がいるのに、温もりを感じることが出来ないのが切ない。


「起きてよ、燈馬 」


 藍の唇が触れた…… ような気がした。


 俺にキスの感覚はなく、実体は動かせないまま。



  ごめん、藍…… 俺はお前を2回もフってしまった。


「やっぱダメかぁ 」


 時が止まったように長い時間キスをした藍は、吹っ切ったように俺の上から退いていく。


 微笑んではいたけど、とても寂しそうな笑顔だった。


 心が痛い…… 何の罰ゲームなのかと、そんな冗談を言う気にもなれない。


「次、私が行きます 」


 うぇ!? 菜のは!


 容赦なく俺に馬乗りになった菜のはは、躊躇することなく唇を重ねてくる。


「いつまで寝てるの? お兄ちゃん! 」


 俺に呼び掛けながらチュッチュッと何度もキスをする菜のはは、藍や楓と違ってスキンシップそのものだった。


「!? 」


 が、唇に感触がある! が、ここで起きてしまうと取り返しのつかないことになってしまうようで、体を動かさないよう必死に無心を貫いた。 


「えー! 私もダメなの!? 」


 結論から言うと、菜のはの可愛いキスで実体に戻れました…… これは如何にシスコンだろうとマズイだろ!


  すまん菜のは…… お兄ちゃんとして、お前を愛してるよ……



「燈馬君…… 」


 う…… 目と鼻の先に紫苑の気配を感じる。


 顔をくすぐる垂れた紫苑の髪と、紫苑がいつも使っているであろうシャンプーの香り。


 ヤバい…… こんなの動かずに耐えられるワケがない。


「今、起こしてあげるからね 」


「!!! 」


 唇が触れた瞬間、隙間から別の柔らかいものが口の中に入ってきた。


 うわわわ!? さらりと流すように、それでいてねっとりと絡みつくように。


 これ以上は言い表せない…… 全身が痺れたように動かなくなり、何も考えられない…… 俺はされるがまま、紫苑の大人のキスの抱擁を受けた。



  紫苑さん…… イメージに反して激しすぎます……



「…… 私じゃ燈馬君の王子様にはなれなかったみたい 」


 突然動きが止まって、紫苑はスッと離れていった。


 全身がまだ痺れて硬直してる…… 頭の中は真っ白で、逆に意識を体から引き剥がされそうな錯覚を覚えた。


「もし、アタシがダメだったら…… 」


 徐々に近づいてくる弱々しい楓の声…… いや、もう体には戻れてるんですが。


 楓のキスを受けて、タイミング良く目を開ければ無事解決…… と俺は思っていた。


「燈馬、いい加減起きてよ 」


 俺の胸に顔を埋め、涙声で祈るような声を出す楓に罪悪感を覚える。


 本当にこれで良かったのか? 菜のはのキスで素直に目を開けていれば、『さすが兄妹だね』で済んだんじゃないのか?


 無性に楓の頭を撫でたくなって、思わず右手を動かそうとした瞬間、勢いよく病室のドアが開く音が聞こえた。


 ペタペタと軽い足取りのスリッパの音が近づいてきて、不意に枕元が沈み込む。


  チュッ


「んふっ!? 」


「え!? 」


 楓とは違う感覚のキスに、思わず鼻息が荒く漏れてしまった。


 びっくりして目を開けると、頭に包帯を巻いた見知らぬ小さな女の子。


「おはよっ! お兄ちゃん! 」


 え…… と。


「…… へ? 」


 幼稚園児くらいの女の子はにっこりと笑い、俺と楓は見上げる形でその女の子に固まってしまった。


 その女の子越しに病室の入り口に見えたのは、口を押さえて笑いを堪えている吹石先輩と苦笑いをする蒼仁先輩。


「二ノ宮ももこです! よろしくお願いします! 」


「よ、よろしく…… じゃなくて、どうしてチューするの? 」


「ソージン君が、お兄ちゃんにチューしたら手術が上手くいくよって 」


 訳がわからず、楓と顔を見合わせて首を傾げ、入り口から眺めている蒼仁先輩に助けを求めた。


「僕の姪だよ。 近々頭の手術を控えていてね…… 君の奇跡の力を分けてもらいに来たんだ 」


「は、はぁ…… 」


 俺は奇跡も何も持ってないと思うんだが……


「まさか楓を助けた話をしたんですか? 」


「ご名答! 『僕が』じゃなくてみどりなんだけどね 」


 名前が出てきた吹石先輩を見ると、悪びれもせずピースまでしていた。


「燈馬、アンタ…… 」


「燈馬君…… ロリコンだったの…… 」


 藍と紫苑は遠い目をしながら後退っていく。


「ち、ちがっ!? ぐべぇ! 」


 言い訳を口にしようとした瞬間、楓の右フックが俺の頬に飛んできた。


「バカ燈馬! どれだけ心配したと思ってるのよ! 」


 大粒の涙を零しながら、楓は再び振り上げた拳をプルプルさせていた。


「待て楓! 落ち着け! 」


「落ち着いてなんかいられるかぁ! この…… うきゃ!! 」


「お兄ちゃん! 」


 叫びながら拳を振り下ろした楓を突き飛ばし、菜のはが胸に飛び込んできた。


「おに…… うわあぁぁん!! 」


 言葉にならないほど菜のはが大泣きする。


「死んじゃったかと思ったぁ! なんでこん…… &#%0@&#! 」


 最後の方は全然聞き取れなかった…… でも、今まで無理に気丈に振舞っていたのはよくわかった。


「悪ぃ、心配かけたな 」


 大泣きしている菜のはの頭をそっと撫で、突き飛ばされた楓を見て微笑んでやる。


「幽体になってずっとここにいた。 ありがとな、ずっと側にいてくれて 」


「…… なら、早く起きなさいよロリコン変態 」


 シスコンからロリコンに昇格…… ともあれ、皆は復活できた俺を笑顔で迎えてくれたのだった。



 

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