13話 決着、つけませんか?
「半年前、幽体のアタシを燈馬は体に戻してくれたから…… 」
静かにそう切り出した楓の話を、紫苑は一区切りずつ頷きながら聞いていた。
俺にはその話よりも、未だにこちらを気にしている菜のはの方が気になって仕方がない。
「菜のは、俺がわかるか? 」
話しかけてはみるが、何の反応も示さないから見えても聞こえてもいないんだろう。
「バカバカしい! アンタが燈馬の寿命を吸い取っただなんて! 」
ケンカ腰な藍を、楓は静かな目でチラッと見た。
「やめなよ藍! 今は話をちゃんと聞くの! 」
紫苑にたしなめられて、藍は腕を組み直しながらそっぽを向く。
「燈馬には幽体のアタシが見えたけど、アタシには燈馬が見えない…… 幽体離脱してないのかもしれないけど、アタシにはそこに幽体の燈馬がいるような気がしてならないの。 じゃあ何が足りないのか…… 」
「それで、君が生きているからって? 」
楓は迷わず頷いた。
それを見て紫苑と藍は顔を見合わせ、藍は大きなため息をつく。
「燈馬がアタシと同じ目に合ってるのなら、アタシはすぐにでも助けたい。 借り物の命ならすぐに…… 」
「却下! 仮に君が命を差し出して燈馬君が助かったところで、燈馬君は絶対君を許さないと思う 」
「…… 」
楓はキツイ口調の紫苑をキッと睨み付けるが、紫苑の言う事が正しい。
「ウチも同感だね。 自分を盾にしてまでアンタを守った意味が分からない? 」
いや…… それは咄嗟の事だっただけであって、思い返せば楓を強引に引っ張ればケガもしなかったかも。
ロン毛の顔を見て思わず立ち止まったとは言えない。
「燈馬君、自己犠牲なところあるからなぁ…… 」
「「「…… ふふ…… ははは 」」」
何故かは知らないけど、3人は顔を見合わせて静かに笑い出した。
「私の時は、しつこいナンパから助けてくれたの。 たまたま見かけたからって声掛けてくれて、一緒に逃げ回ってくれた 」
「アタシの時は、ボクサー崩れ相手に出来もしないケンカをしてくれた…… 鼻血垂らしてさ 」
いきなり暴露話かよ! なんなんだ女って……
「ウチは…… ないなぁ。 女として見てくれてないんじゃないの? こいつ 」
いやいや! そんな事はありませんよ藍さん!
「でもさ、クラスの為に必死こいて走り回ったり、迷惑かけられた後輩を体張って庇ったり…… こいつらしいなって思う 」
俺らしいってどんなんだよ……
「それってやっぱり共通するところがあるんだよね 」
「「「シスコン! 」」」
3人は声を揃えて笑い、菜のはに視線を向けた。
「ふぇ? 私…… が原因? 」
「そうかも。 燈馬にとって、ウチらは妹みたいな感覚なのかもしれないよ 」
「私も否定はしないけど…… 複雑だなぁ 」
「いや、菜のはちゃんに気に入られたくて頑張ってるのかも。 一緒に暮らしてて、そういうとこ感じるんだよなぁ 」
3人とも好き放題言いやがって…… でも悪い気がしないのは、俺自身がシスコンと認めてるせいだろう。
「気に入られたくてというか、お兄ちゃんがシスコンって言われるのは私のせいなんです。 それは多分、お母さんが私が小さい時に亡くなったからで、お母さんがいなくても私が寂しい思いをしないように…… って気持ちが強いんだと思います 」
菜のはは口にはした事がないけど、俺の気持ちはバレバレだったんだな……
「でも私としては、お兄ちゃんの体調管理とか高校であった事とか、側にいてくれるから把握しやすいんです。 裏表ないし、隠し事しないし…… 自慢のお兄ちゃんです! 」
ニコッと笑った菜のはに、3人も笑顔で応える。
なんか目頭が熱くなってきた…… というか、菜のはを支えてたつもりが、俺の方が支えられてたんだなと情けなくなってきた。
「楓さん、お兄ちゃんが楓さんを救ったのって、チューだったんですよね? 」
菜のはの急なフリに、楓がピクッと肩を震わせた。
「う、うん…… そうだけど 」
「決着、つけませんか? 誰のチューがお兄ちゃんを起こせるか 」
は? 何を言い出すんだこの子は!
「紫苑さんも藍さんも、お兄ちゃんが好きなんですよね? 」
二人とも照れもせずに頷く…… いやー、モテる男は…… なんて呑気に見てる場合じゃない。
もしかしたら誰かのキスで体に戻れるチャンスなんだろうけど、俺の気持ちに関係なく彼女決定ってことなんじゃないか?
もしこれが楓じゃなかったら…… というか、楓のキスじゃさっきダメだったじゃないか。
「えーい! ままよ! 」
俺は覚悟を決めて実体と重なり、固く目を閉じた。




